出版社 : 筑摩書房
こんな小説はまだ読んだことがない。一風かわった、奇妙な、どっか変な、なんだかおかしい、それでいて忘れられない、シックでラディカルでスラップスティックで、どうにもエキセントリックな我々の時代の文学。総勢16人、選びぬかれた21作。世界が消滅する前に新発売。
原子爆弾の惨害を正面にすえ、人間の愛欲の最も深い場所から戦争を批判するという困難な作業に挑み、全世界に衝撃を与えた映画『二十四時間の情事』の映画の母胎となったシナリオとダイアローグを収録した本書は不思議な魅力をたたえた作品となっている。
りっぱな産着に包まれたまま捨てられていた少年レミは、ヴィタリス老人と三匹の犬と一匹の猿からなる旅芸人一座に売りとばされた。しかし、少年は、優しく苦労人である老人と共に、フランスの各地を旅してゆくうちに、さまざまな人生の教訓を得、強くたくましく成長していく。時代を超えて読みつがれ、マローの名を今に残すことになった名作の完訳版。
ピクウィック氏は波乱にみちた遍歴を終わり、今は落ちついた毎日である。体は少し弱っていたも精神は若々しく人々の敬意を集めている…。すべてのいざこざも収まり、おだやかな雰囲気のうちに、このイギリス文学を代表する小説は幕となる。
作中人物を殺さずにはいられない作家、一日おきにしかこの世に存在しない男、細君とその両親を射殺した夫、自分の銅像を見あげる不幸な発明家…など、マルタン君という名の多様なキャラクターが繰りひろげる九つの物語。空想と現実の間をさまよう、心優しい小市民の、哀しくもおかしい世界。
ピクウィック氏は、そのもちまえの善意から、裁判をはじめ、ごたごたした事件にまきこまれる。もつれにもつれた糸は、はたしてどうとけてゆくのか…。「ピカレスク小説」のおもむくゆたかに、イギリスの一時代の姿を、戯画化しながら生き生きと伝える。
実業界を引退したゆたかな紳士ピクウィック氏は、素朴な人柄で、人間愛に満ちた人である。彼は行く先々で人を助け、悪をこらしめようと力をつくす。しかし、人がよすぎて、かえって失敗ばかり…。明るく楽しい笑いの底に人間回復の願いを託す、ディケンズ最初の長篇小説。
パリでのある一日のぼくのあり様や、ぼくの見聞するもの、出会う出来事は、パリに到着してからの日々やそれまでの過去の日本やパリでの生活の記憶と深く連動して微妙な色彩をおびる。そしてこのパリの匂う滞在記は、見事な日記文学に変貌する。
首都をめぐる9番目の環状道路、リングロード・ナイン。その沿道に生起する黄昏色の希望と失意をクールに描くサバービア・ストーリーズ。26人の登場人物が連鎖して、時に甘く、時に苦い物語を演じる。男と女、出会い、わかれ、そして、もういちどはじめから。時速70キロで展開するわれらの時代のドラマ。
誰かを好きだと言ってしまいたくて、誰かを嫌いだと言ってしまいたくて、でも、それがとても恐いことを招きよせてしまうような気がしてー。甘えと優しさが毀れると、その向う側には闇と憎悪がぽっかり口をあけている。サイモンとガーファンクルの名曲にのせて、80年代の《青春》の重さを描く15の物語。
17歳で子供を産み、しかもすでに夫に置き去りにされていたメリディアンが、もっと広い世界と過去と現在を意識しはじめたのは1960年4月半ばのある日のことだった。黒人運動にかかわり、世の中の矛盾に苦悩し、挫折しながらも選挙権啓蒙運動を続けたのは、曽母や母に流れる黒人民族の歴史の重さ故であった。“カラーパープル”の著者による自伝的長篇小説。
19世紀、イギリス産業革命の激動の時代を背景に、祖父に引きとられた純情無垢な少女ネルの辿る薄幸の生涯を描く大作。祖父は骨董屋を経営していたが、ネル可愛さの余り一獲千金を夢見て賭博に手を出し、破産してしまう。骨董屋は高利貸クウィルプに差し押えられ、ネルは老人とロンドンをあとに、あてどない旅に出る。美と醜、善と悪、さまざまな対立を描きながら、波瀾万丈の物語の幕が上がる。
蛇の髪のメデューサ、火を吹くキマイラ、両性具有のスフィンクスといった怪物とともにくりひろげられる、得体の知れない人物ラーオ博士のサーカス。毒性強烈なユーモアと暴力的な詩情を秘めて、読者をひき込まずにおかないファンタジーの名作。
「恋はたいせつなもの…永遠だ。人生は、あっというまに過ぎるのに、聞いてごらん。流れる水が教えてくれるのもそのことなんだ…」少年の、月あかりのように淡く幼い愛と時間と死が、幾筋もの虹のように交錯しつつ展開する美しいメルヘン「恋のお守り」、主人公の少年と頭のおかしいオールド・ミスの奇妙な交友を描きつつ人間の宿命を暗示する「ミス・ダヴィーン」など、珠玉の抒情小説10篇。たそがれの詩人デ・ラ・メアによって誘われる、夢と現実のあえかな境界ー。
死刑判決に対する控訴を拒否し、刑の執行を望む村井晋助。監獄医中川らの目から見ると、彼は拘禁ノイローゼによる被害妄想のように思われる。しかし愛人菊江の目にはまた別の姿が…。“死”を欲する彼の真意はどこにあるのか。やがて訪れる主人公の意外な終末。死刑囚と監獄医の葛藤を描いた表題作の他、刑務所を看守の目から描いた「制服」、孤独な死刑囚の独白「夜宴」の2作を収める。