出版社 : 風詠社
改札口を通り、長い階段を上がる。階段の外に緩やかなスロープがあるのを知っている人は少ないだろう。そこにはかつてレモンの木が植えられていたが、今はもうない。上まで続いているので、以前、資材などを搬送するのに使用されたのかもしれない。階段の途中から、瓦屋根が見え、視界が少しずつ広がる。深日の町並みが一望でき、その向こうに大阪湾が見えると、プラットホームだ。今日の淡路島はうっすら霞がかかり、いつもより遠くにあるように見える。海は濃い藍色だ。南海電鉄で海と淡路島がはっきり見える駅はここだけであろう。プラットホームを歩いてベンチに座る。目の前に見える宝樹寺のソメイヨシノは五分咲き。線路をはさんだ向かいには、雑草が茂るプラットホームがある。(中略)電車は春の陽を浴びた緑のトンネルをくぐり抜ける。樹々の葉っぱがきらきら光り、右に流れて行く。その向こうに見える山々には山桜の薄いピンクが灯っている。(本文より)全長2.6キロ、緑あふれるのどかな風景のなか、2両の電車が4駅をつなぐ多奈川線。その沿線にある中学校を舞台に、大人になりかけた少年少女とそれを見守る教師たちによって繰り広げられるさまざまなドラマ。 多奈川線/深日町駅/謎のトンネル/ガイア塾/薫風/偶然と出会い/深日港駅とフォンターナ/夢の中でも人は成長する/プレゼン大会への挑戦/祭り/窓に映るきみ/和歌山のU塾/制御できないパワー/岬まちづくりコンテスト/軍需工場で始まった授業/衝撃/独演会/負の体験/バケツリレー/月明かりの教室/勇敢な犬/お燈まつり/古代豪族紀氏の末裔/斑鳩と平群/五世紀の市/大クスノキの樹上で/淡輪から木ノ本へ/金の勾玉/特別な一日/多奈川駅
広島県の山深い村で遊びまわった幼少期、職業会計人を目指しつつも麻雀にのめり込んだ大学時代。波乱に富んだ社会人生活。一生にただ一人、心から愛した妻との出会いと死別。それでも常に人との出逢いを喜び、楽しみ、成長の糧として人生を愛し続けてきた一人の男の人生讃歌。そして、人生はまだまだ続く! はじめに◇父親と神主◇幼少の期◇米ぬかと養子◇我慢と勇気で、養子の解放◇自由きままな田舎生活◇中学時代の淡い思い出◇高校生活を楽しむ◇就職から大学進学へ◇彼女との別れ◇大学で麻雀を学ぶ◇妹の存在◇就職と労働組合◇プログラミング◇教育産業へ◇転身と宝物◇二つ目の宝物◇広島本社へ◇竹の子で穴子を釣る◇世界宗教統一望協会の浸食◇統一望協会に挑むも◇癌と戦う◇さようなら! かっちゃん!◇非正規だが公務員◇愉快な仲間たち◇世の中には色んな人が◇妹との出会い◇終わりに
ひと月前、亮之介は箱根の山でその女に遭遇していた──。江戸の町に現れた美しき女剣士。女は二百年前の島原・天草一揆に端を発したキリスト教信徒迫害による怨念を抱え、復讐を誓っていたが……。俳優 福士誠治氏、推薦!! 序 章/第一章 紅毛碧眼の女/第二章 隠れキリシタンの女/第三章 不知火組異聞/第四章 金無垢の聖母マリア像/第五章 魔性の誘い/第六章 妖術か、幻術か
リチャード・オースティン・フリーマンの『ヘレン・ヴァードンの告白』は、20世紀初めに多数登場したシャーロック・ホームズのライバルたちの中でも最も人気を博した名探偵ソーンダイク博士が登場する長編作品です。若く美しいヘレン・ヴァードンは、ある日、父親の書斎のドア越しに、父とルイス・オトウェイとの激しい口論を耳にします。それは、後に彼女の運命を大きく変えることになる事件へと発展していきます。そんな中、オトウェイが死亡してしまうのです、それも自殺とも他殺とも断定できない状況で。あらゆる状況はヘレンに不利に働いていきます。真相を究明すべく、法医学者ソーンダイク博士の科学的捜査のメスが入ります。オトウェイ死亡の真相が究明されていく物語終盤の検視官とソーンダイク博士との激しい質疑応答は、科学的捜査の実証を重んじるフリーマンの面目躍如。本格ミステリの醍醐味を堪能できる傑作、ついに初邦訳です! ヘレン・ヴァードンの告白/訳者あとがき
風花良太は、突然の転勤命令に悩み続けていた。所長は、エアコンの売り上げが目標に達していない現状を説明し、製造設計部門の強化が急務であるとし、風花がその適任者だと推薦したというのだ。長年働いてきた研究所に愛着を持つ彼にとって、転勤は受け入れ難いものであったし、家族にとっても大きな問題であった。帰宅後、妻と転勤によって引き起こされる様々な問題について話し合うが解決策が見えないまま夜が更けていく。一方、若い同僚達は、風花の転勤について噂し会社の方針に疑問を抱いていた。風花は、考え抜いた末、転勤について、単身赴任という選択肢を取ることで、家族にとっても最良の生活を見出そうとしていた。風花は、技術者として働いているが、物づくりの技術というのは、この社会で最も重要なことの一つであり、社会にとって役に立つやりがいのある仕事といえる。同時に自分の携わっている仕事で成果を上げて、会社の中で評価され昇進することも大事だ。それは、自分についてきてくれた部下たちの評価を高めることにもつながるからである。しかし、結局は技術者としてベストを尽くすことが大事であり、そのことに信念を持ち、それを目指して生きていけばいいのだと改めて思うのだった。風花良太をはじめ、新たな商品開発に挑む技術者たちを通し、組織の中で生きること、人事を巡る人間模様、そして家族との絆を描く自伝的長編小説。 第1章 転勤/第2章 単身赴任/第3章 試行錯誤/第4章 技術者たちの矜持/第5章 思いがけない転勤打診/第6章 逆風に負けずに/第7章 家族と共に
ホメロス「オデュッセイア」、ジョイス「ユリシーズ」を継承し、トウキョウの街を黒犬のユリシーズが彷徨う。並列し、乱立し、共鳴し、不協和音を奏でる東京という大いなる物語。この都市では、すべての物語、すべての言葉が、等価に息づく。
わたしたちの生には、果たして意味があるのか。完璧なものは記憶の中にしかない。「流れのままに」 束縛であり、自由であり、美しいもの、求めるものとして、ジェンダーはある。「女はみんな嘘をつく」 わたしたちは何処から来たのか、何処へ行くのか。一人の女流画家をめぐる協奏曲。「AKANE」 絵を描くように、想い出すように、消え逝く日々を詠いたい。束の間の時間のかけらとしての短歌集。「日々の響」 【短編】流れのままに/女はみんな嘘をつく/AKANE 茜 【短歌】日々の響/独り/夏/秋/冬/春/恋/シブヤ/シンジュク/宙
芸術としての価値を生みだす核心部分を削ぎ落とすことによって、音楽はいまだかつてない、あらたな芸術性を創造するーユニークなクリエイティビティとピュアな感性、そこからうまれた想像力が紡ぐイノベーション・ストーリー。
西浜の若者よ、我らが大切にして来たこの街と江の島を見ながらサーフィンができるこの海と、そして何よりナンシーお嬢が経営するナンシーの館を、どうか守ってやってくれないか! 様々な恋に悩む高校生たち、いくつになっても毎月のように海に出るサーファー親爺、60過ぎても音楽を捨てきれないアマチュアバンド親爺、ホームレスに堕落した元ミュージシャン、そして妖艶な魅力をもつ謎の女ナンシーお嬢、湘南の海と街を舞台にお嬢の民宿「ナンシーの館」で繰り広げられる人間模様を描く。 ナンシーの館/若者たち/引地川河口にて/綾香/鉢合わせ/最後の演奏/男同士/大山登山/再会/哀愁の江の島花火大会/義明の秘密/クリスマスパーティーの夜/元旦のサーフィン/曾我丘陵ハイキング/それぞれの思い/探偵ごっこ/切ない気持ち/栄枯転変/洗面器/お嬢の失意/テラスモールにて/お嬢と栄子/ビラ配り/営業再開祝い/靖彦の過去/悲劇の再会/合格祝いの後で/西浜の祭典(1)/西浜の祭典(2)
「自分には死ぬ楽しみが残されている。その瞬間を今から楽しみに待っている」……老大学教授が、過去と現在の間を行きつ戻りつしながら、思い出すのは、英国滞在中の生活のこと、親友のこと、切磋琢磨した研究者仲間とのこと。文学者として過ごしてきた日々を綴りつつ、今も澱のように心に溜まっていたのは親友中田の娘、秋子さんと母親を異にするある姉妹のことだった……。「死」から、自らの人生を遡るように綴られる英文学老学徒の自伝的随想風小説。 *今昔/*日記/*回想/*友人/*長女/*関係/*読書/*類縁/*境目/*秘密/*産声/*独歩