出版社 : 風詠社
絵を描けなくなった画家が、探していたものとは何だったのか。旅の宿で出会った女性の存在を通して語る、漱石の芸術論、東洋思想、宗教哲学、文明論などを解説。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。(『草枕』より) 人は一人では生きられない。他の人と関わり合うことによって存在しているのだ。 はしがき/序論/一、余の芸術論と仏教思想の章/二、漱石の風景描写の章/三、那美さんの章 /四、余と大徹和尚の章/五、余と那美さんの章/後序/あとがき
念願であった長崎県五島列島を巡る旅に出た二人。しかし、それは百五十年前、この地で多数の潜伏キリシタンが命を落とした苦難の歴史を追体験する旅でもあった。--慶応三年、野崎島から六名の若者が洗礼を受けるため、長崎の大浦天主堂へ船出した。しかし、進路を誤り遭難。幸運にも救助されトカラ列島で百日余を過ごし、五島への帰途に就く。幕府は倒れ、新たな時代が訪れると思われたが、新政府もキリシタン禁制を続け、弾圧の嵐が吹き荒れ、不気味な空気に支配されていた。五島でも信者達に凄まじい拷問が加えられていた。明治六年二月、政府よりキリシタン禁教の高札が撤去された。しかし、キリスト教が公認されるまでに、実に二百五十余年もの時間を要した。--私は眼下に広がる真っ白な砂浜を見ながら、百五十年前にこの地域一帯で吹き荒れたキリシタン弾圧下、まさにこの地で生まれ、そして死んでいった若者達の一生を思った。 プロローグ/野崎島行き/第一章/旧野首教会/信徒発見/北魚目/島の若者たち/長崎/笛吹の町/洗礼/第二章/新天地/竹島へ/漂流/上陸/帰郷五島崩れ/教会堂の建設
ピアニストを目指す、高校生の村上琴は、原因不明の症状で左手が利かなくなり夢をあきらめかける。そんな折、旅先で出会った二人の人物が彼女の人生を変えることになる。三人は自らに吹き付ける向かい風に立ち向かうべく、ある演劇作品の上演を目指し、劇団を立ち上げる。集まった仲間たちも各々に問題を抱えていた。幾たびかの試練を乗り越え、周囲の人々の協力も得て、ついに彼らの芝居の幕が上がった…。残酷な運命に敢然と立ち向かい、自らの人生を取り戻そうとする人々の勇気と友情、そして再生の物語。
明治43年1月、七里ヶ浜沖で12名の若者が亡くなった…。逗子開成中學ボート遭難事故の真実。あの時、何があったのか。あの後、何があったのか。フィクションだからこそ、闡明に著わせた真実とは。
物語は、今なお封建的な風習が色濃く残るイギリスの小さな田舎で発生します。准男爵の称号を持つハロルド卿が「ビック」という言葉を発しながら息を引き取ります。息を引き取る前にハロルド卿は自身の「告白」ともいうべき原稿をカータレット大佐に託し、公表するかどうかを委ねていました。しかし、その数日後、カータレット大佐も死体で発見されます。ボトム橋の近くの川に生息し、地元では“伝説の大物”と呼ばれれているマスは、釣り上げられた後、なぜ移動していたのか? ハロルド卿が発表しようとしていた原稿には何が書かれていのか? 事件を担当するロデリック・アレン警警部は散らばった証拠を拾い集め丹念に解きほぐし、真相にたどり着きます。随所に張り巡らせた伏線、意外性のある真犯人、供述から徐々に犯人を絞り込んでいく緊迫感、まさに英国黄金期の本格ミステリの面白さを堪能できる傑作。 裁きの鱗/訳者あとがき
祖父母から教わった大切なこと、父親への思い、母親との葛藤。これまでの人生を回想し、胸の奥にある感情を綴った掌編集。自分を「ハンサム」だと思い込んでいたら…。「つるむ」という言葉の意味は…。「ビールは注がない」ほうがいい…。共著者である大学教授の夫が「言葉」や「文化」について考察したユニークな3編も収載。
妻に捨てられ子供を失い一人で暮らす老人のもとに、一匹の野良猫が現れた。病気を患う老人は医師の誤診を疑ったり、全快を期待しては落ち込む日々を繰り返す。行きつけの飲み屋で過ごす常連たちとの時間や心癒やされる猫との会話(?)を通して、年老いた男の心の内側を描いた物語。
嫁ぎ先の義母が認知症に…。壮絶な介護生活の中、否が応でも自らの人間性と向き合い、苦しみ、後悔しながらもそれらを乗り越えたとき、見えてきた世界があった。実体験を交え、綴った感動の物語。
その孤島は冬には気温が氷点下にまで下がるため、およそ人が住むには適さない。少年達は八歳になると「モイドム」という施設で否応なく武術や殺人術を身につけさせられる。大半が命を落とす中、そこで生き抜いた者のみが兵士となり「青軍」と呼ばれ、赤を身に纏う敵である「赤軍」との戦争という終わりのない地獄の日々へと突入していく。架空の異世界を舞台にしたファンタジー大河小説!
歴史を左右する重要な決断がなされた場に身を置くことで、小さな流れの向きや勢いを肌で感じ取り、それが大河へと成長していくプロセスを探る。…ノンフィクションとフィクションの融合を試みた意欲作。全3編を収録。歴史を追体験する新たな小説スタイル!
初老の鬼塚〓一郎は喫茶ラウンジで初対面の中峯純二に声を掛け、鞄から桧の木箱を取り出すと、中にいる人物の姿と魂について語り始めた。思い出深い人物への好悪の感情と不可思議な行動を描いた心理小説。