1976年発売
ある日突然、商船「人権号」から軍艦「軍神号」へ強制徴募された清純無垢の水夫ビリー・バッド。その彼が、不条理で抗いがたい宿命の糸にたぐられて、やがて古参兵曹長を撲殺、軍法会議に付され、死刑に処されようとは…。孤絶のなかで沈痛な思索の火を絶やさなかった『白鯨』の作者メルヴィル(1819-91)の遺作。
にんじん色の髪の少年は、根性がひねくれているという。そんなあだ名を自分の子供につけた母親。それが平気で通用している一家。美しい田園生活を舞台にくりひろげられる、無残な母と子の憎みあいのうちに、しかし溢れるばかりの人間性と詩情がただよう。
懶惰と無気力が骨の髄までしみこんでいるロシアの青年貴族オブローモフ。オネーギン、ペチョーリン、ルージンなどの系譜につらなる「無用者」「余計者」の典型を見事なまでに描き切ったゴンチャロフの代表作。
丹波の山奥に大工の倅として生れ、若くして京の植木屋に奉公、以来、四十八歳でその生涯を終えるまで、ひたむきに桜を愛し、桜を守り育てることに情熱を傾けつくした庭師弥吉。その真情と面目を、滅びゆく自然への深い哀惜の念とともに、なつかしく美しい言葉で綴り上げた感動の名作『櫻守』。他に、木造建築の伝統を守って誇り高く生きる老宮大工を描いた長編『凩』を併せ収める。
マイホームを“マイ国家”として独立宣言した男がいた。訪れた銀行外勤係は、不法侵入・スパイ容疑で、たちまち逮捕。犯罪か?狂気か?-世間の常識や通念を、新鮮奇抜な発想でくつがえし、一見平和な文明社会にひそむ恐怖と幻想を、冴えた皮肉とユーモアでとらえたショートショート31編。卓抜なアイディアとプロットを縦横に織りなして、夢の飛翔へと誘う魔法のカーペット。
いつまでもベッドを離れないオブローモフだったが、知的な少女オリガとの出会いによって、胸をはずませ、明るい未来の展望さえ思い描くに至った。しかし、それも束の間、結局は、この愛もオブローモフを現実生活に正面から立ち向かわせることはできないのだった。