1988年2月発売
持ち込み原稿はいつもボツだったが、その編集部で知り合ったみつ子に限りなく心魅かれてゆく哲明。充分なナマリと情熱を持って上京した哲明のまわりには、同じような青年達が犇めいていた。平隠な生活なんって真っ平だ。そしてついに哲明とみつ子は掛け落する。蜜月。人生の蜜月…。自伝的青春小説の傑作。
苦痛が快楽に変わり、快楽が苦痛に変わる《亀裂》の彼方の世界…。魔道士に誘われ、快楽の世界の囚われ人になった魔性の恋人、フランクを蘇らせるため、ジェリアは行きずりの男にナイフを突き立てた。血をすすり、生贅のエキスを吸い取り、フランクは人間の肉体を取り戻してゆく。「血が欲しい!皮膚をくれ!」フランクの叫びに、ジュリアは二度、三度、殺戳の刃をふるう。欲望に憑かれた男女を待っていたのは、身の毛もよだつ堕地獄の罠だった。淫魔が巣食う恍惚世界への扉を開く《ルマルシャンの箱》とは何か?この世の快楽を貧り尽くすことは罪なのか?鬼才クライヴ・バーカーが鮮烈に描く愛と妄執のドラマ。映画「ヘル・レイザー」原作。
商社マンの夫が単身でニューヨークに赴任して5年。空虚な思いを胸に、幼い子供たちと留守を守る染子は、夫にアメリカ人の情人がいることを知った。“私は彼にとって、家庭の調度品のひとつに過ぎないのか。自分の心に素直に生きたい”染子はエレクトーンを教え始めるが、生徒である青年が彼女に近づいて来た…。海外駐在エリート商社マンの妻の愛と苦悩を鮮麗に描く。
亡くなったお姉さんが日記に書き残した「高い山、青い湖」という謎めいた文字。その言葉の秘密を解くために琵琶湖や芦ノ湖をたずね歩くゆかりちゃんの前に、思いがけない事実が…。表題作ほか、ひょんなことから地球にやってきた月のウサギのピロちゃんの冒険『銀のはしご』、ショート・ショート『猫がはこんできた手紙』『ほくろのある金魚』など4編を収めた著者唯一の童話集。
髪の艶と柔らかさが自慢の津加子。6歳年上の夫は4度目の浮気が進行中だ。彼女は同窓会で再会した辻沢と、月に2、3度は逢いながら、体の関係もなく、ただ別れぎわ、辻沢が彼女の髪に触れるだけという関係を続けてきた。辻沢と旅にでた鄙びた温泉宿で夜中に二つに割れた櫛。この櫛に津加子は2人の関係の終わりを痛いほど感じとっていた…。14編収録のオリジナル短編集。
ワシントン特派員のホーキンズは、亡父の友人で大統領候補者のピータースンとのインタビューに成功した。ピータースンはヴェトナム戦当時、遺棄された米人混血孤児救出作戦を提唱し、父はこれに同行取材してピュリッツアー賞を受賞したのだった。社から父の伝記執筆を依頼されたホーキンズは、父が遺した厖大な記録を調べるうち、意外な空白部分に気づき、ヴェトナム行きを決意した。
大統領候補の系図は呪われている!-潔癖なイメージを売り物にする民主党次期大統領候補・ライデンの家系調査を依頼されたトッドは、図らずもライデンの祖父の忌まわしい過去を知るが、事実の公表を恐れた選挙参謀は彼を追う。調査を続けるトッドはさらに深刻な事実を突きとめ、恋人のロビンと共に候補者に会おうとするが…。大統領選挙の舞台裏に展開する異色の冒険小説。
響子が走ると風が生じた。太陽が虹色に砕けて、髪と共に流れてゆく-自然児のように野や山を遊び回っていた彼女は、恋のために狂気に陥った若い女や身内の男の不慮の死を目撃し、新しい世界に目を開かれてゆく。思春期を迎えようとする少女の歓びと哀しみ、輝きと翳りをくっきりと描く。ついに生まれたエコロジー小説。
あれはやっぱり事故じゃない。殺人だったんだわ!-ホテルの階段から落ちて死んだ老女の宝石が盗まれたのを知ったとき、パージェター夫人の疑念は確信に変った…〈デヴェルー〉は上流階級の人々が老後を送る、長期滞在客専用の高級ホテル。泊り客は貴族、退役軍人、元女優-誰もが申し分のない地位と富を持っている。亡き夫の遺産で優雅な生活を楽しむパージェター夫人は、その新しい住人だった。老女の転落死が起ったのは、夫人がホテルに到着した日の夜のことだ。老女は以前から目が悪く、事故であるのは明白に見えた。だが、あれは宝石目当ての殺人だったのではないか?だとしたらこのホテルに殺人者がいることになる…夫人は夫に伝授された特殊な“技術”を使って独自の調査を始めたが、まもなく第2の殺人が-陽気でリッチでちょっと謎めく、未亡人の素人探偵パージェター夫人登場。鬼才ブレットの新シリーズ第1弾!
深夜ともなると孤独な男女がひそかに語りあう秘密の電話回線-その回線で恋人探しをしていたジェニーン・ボイントンという若い女が、自宅で惨殺された。犯人探しを私立探偵アロー・ナジャーに頼みにきた被害者の双子の姉ジャネットは、妹がそんな生活をしていたことを警察に知られたくないらしい。彼女の言によれば、回線を利用していた女がすでに2人、やはり自宅で殺されているという。殺人鬼が獲物探しにその電話を使っているのだろうか?ナジヤーは、ジャネットをおとりにつかって問題の電話でデートの約束をさせ、犯人をおびき出そうと考えた。だが、調査もろくに進まないうちに、彼の周囲を不気味な大男が威嚇するようにうろつき始め、またも一人暮しの女が無残な死体で発見された…セントルイスの夜を脅かす怪事件の驚くべき真相とは?心優しき探偵アロー・ナジャー、待望の再登場!
男の名前はドネル・ハリソン。詩人。だが彼は普通の人間ではない。死後数時間以内の新鮮な死体の脳に、墓地に棲息する特殊なバクテリアを注入することにより、死から呼び戻されたゾンビーなのだ!しかも復活する以前の死体は、ドネル本人のものではない。彼の人格はどこから来たのか?自分は何者なのか?脳がバクテリアに侵しつくされ、瞳が緑の輝きをおびるまでしか生きられないことを悟ったドネルは、人里離れた秘密の研究所を脱走して、放浪の旅に出るが…アメリカ南部のむせかえるような熱気の中に、生と死の織りなす不気味なSFゴシックを構築した俊英の話題作。
文明国家アメリカは、もはやどこを探してもなかった。核戦争のために、すべてが崩壊してしまったのだ。あとに残ったのは、大混乱を必死で生きのびた人々の集落と、弱肉強食の掟が支配する廃墟のジャングルだけ。ゴードンも、そんな世界を一人で生き抜いてきた男だった。だが、山中に遺棄されていた郵便車を発見したとき、彼の中で何かが目覚めた。失われた夢の王国アメリカの幻影がよみがえってきたのだ!かくしてゴードンは、郵便配達員の制服を着て孤立無援の戦いに挑むが…ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞の新鋭が、荒廃した世界に射しいる希望の曙光を雄渾の筆致で描く。キャンベル記念賞受賞。