1988年8月1日発売
みちのくの外ヶ浜という浜に、善知鳥という名の珍が棲むという。自分を狩った猟師を、地獄で迎える鳥だそうだ。生きてる時は、黒い柔らかな羽毛に包まれた、お腹の真白なかわいい鳥だ。殺されると、恐ろしい金属の化鳥に変わる。嘴を鳴らして、猟師の肉を裂き、骨をつついて、どこまでも追い廻す。…表題作より。語りのたくらみによって物語の妖しい戯れを紡ぎ出す待望の短篇集。
太平洋戦争前夜の難局のなかで、衆望をにない首相となるが、日米開戦を避けられずに辞職し、戦後、マッカーサーによる戦犯容疑での収監を拒み、その前夜に自決した文人宰相の悲劇の生涯を、公私両面からあますところなく描く。毎日出版文化賞受賞。
孫娘の不慮の死に疑念をいだいたアモレル老婦人は、田舎の別荘で引退生活を楽しんでいるメグレに調査を依頼する。アモレル家を訪れたメグレは、そこで意外な人物に出会う。中学時代の同級生マリクが老婦人の娘婿として、この大富豪の一族を支配しているのだ。しがない税務署員の息子のマリクが…。彼は今の自分を誇示しながらも、一家の内情をメグレに知られることを極度に恐れている…。
出雲の諸手船神事の夜、1年前に死んだはずの村の有力者、那智慶一郎が突如、美保関に現れた。時を同じくして、出雲歌舞伎で沸き返る加賀戸村に異変が起こりはじめる。村の宝泉寺の五百羅漢に火がともり、誰もいないはずの賽の河原には子守唄が…。不吉な予感がした基子は、友人の麻理子と素人探偵のたかしを呼び寄せるが、出雲七不思議の手毬唄どおり奇怪な殺人がつぎつぎと実行されていく。神話シリーズ第一弾。
「『北斗星5号』を爆破する。1億円用意せよ」-「グループ3月3日」を名乗る男からの脅迫がJR東日本へ…。同時刻、同列車内でも謎の怪人物が爆破を警告!全車両の点検を命じたJRの小池社長は、苦悩の末、1億円を支払い、列車運行を決断した。ところが、直後、予告どおりロイヤル2号室が爆発、女優の浜野カオリが死亡。第2の爆破を惧れた十津川警部は、必死の対抗策を講じるが…。札幌へ向け、闇夜をひた足る豪華寝台特急「北斗星5号」はなぜ狙われたのか?十津川警部は、元部下の私立探偵橋本と連繋し、JR最大の危機に挑む。
「胃と腸が、体の中で切断されている!!」高松病院の昼食会の席上、病院長・高松良一が突然、腹部に激痛を訴え急死。手術に立ち会った医師たちは、その奇怪な症状に戦慄する。医学界の常識を覆す奇病か、それとも殺人か?しかも、同夜の宿直医・望月までが同じ症状で死亡。病院内を恐怖が疾る!解剖された2人の体内から米粒大の鉄球が発見された。不気味に光る鉄球の意味するものは何か?不可能犯罪の謎に挑む新米医師・吉松直樹。医学者としても一流の著者が、最先端の医学知識と奇抜なトリックとを縦横に駆使した、書下ろし本格推理の白眉。
くたびれた黒羽二重の着流しに雪駄ばき、はげた朱鞘を落とし差しにしたどこから見ても尾羽打ち枯らした浪人者は、人呼んで白柄朱膳。元高遠藩士で、その剣法は一刀微塵流。たったの一刀で、四方八方の敵を粉砕するという“あばれ剣法”であった。北町奉行遠山金四郎を友とする白柄朱膳が立ち向かう大江戸の怪事件とは…?稀代の絵師瀬川春草が呼び売りのかわら版に描いた“大江戸小町づくし28美人”が身を投げるやら斬り殺されるやら、はたまた心中やらとつぎつぎに惨事に見舞われるという奇怪な事件がひきつづいていた。つぎは御蔵小町、春草の娘(黒い水面)。-大江戸の闇に出没する怪人変化のからくりを斬る破邪の剣。白柄朱膳事件帖。
慶長17年(1812)夏、船島において佐々木小次郎と試合した宮本武蔵は、みごとに強敵小次郎を倒した。その後、因州鳥取6万5千石の池田家中の士に円明二刀流を指南していた武蔵に、19年春、新当唯一流岩井唯一赤山なる剣客が試合を挑む高札を立てた。が、この剣客をも苦もなく打ち倒したのち、武蔵は京へと向かった。その武蔵を追う者に、一族の長宍戸梅軒の仇討ちを名目とする手裏剣の名手天郷一郎太・小三郎の兄弟がいた。大坂夏の陣の直前、豊臣方につこうとして真田幸村らの反対に遭った武蔵は大坂城を去った。そして、不敵な少年三木之助を養子にしたのち、下野国小山の本多上野介正純のすすめで江戸へと向かった。-剣豪宮本武蔵の生涯を描く傑作長編。
一見何の関係もなさそうな2人の女が相次いで生命を奪われ、その左腕を切り取られた。1人は映画のスクリーン上で濃艶な美貌と甘い歌声をうたわれた女優吉野小夜子、もう1人はこれも凄艶な美貌の持ち主、“白蛇のお菊”の異名を持つ女スリ。いつものくせで、居酒屋でしたたかに酔ったわたし(駆け出しの探偵小説家松下研三氏)のカバンの中に、いつの間にかまぎれ込んでいたコルトの拳銃。あやめもわかぬ暗黒の中に、青白い燐光を放って浮き上がった人間の片腕。-わたしを震えあがらせたこの二つの事実から、神津恭介はみごとに犯人を推理した。残るは決め手となる証拠だけだ。(「女の手」)-ほかに表題作「血ぬられた薔薇」をはじめ6編を収録。
警察庁最強部隊ー竜崎三四郎を長とする“鬼の軍団”の隊員たちが次々と襲撃される、という事態が生起していた。日本を二分する暴力組織と、その間をぬって東南アジアの麻薬王をバックにのし上がった第三勢力、そのことごとくは潰えたはずだがはたして何者か?いつもならまっさきに飛び出す竜崎警視が、今回ばかりは副団長の壇警視やナンバー3の長島警部、婦警軍団の長部隊にまかせて、妙に落ち着いている。三四郎の胸中は…?おりしも、ヤクザが次々とアメリカ本土に乗り込んでいるとの情報が入ってきた。ヤ印と米軍MPを顎で使う謎の美女と妖しげなホテルチェーン、これを結ぶと麻薬と武器と売春の組織として一本のものにつながってくる。三四郎を先頭に竜崎軍団出撃のときが来た。