1990年10月発売
『くもの巣の小道』は『木のぼり男爵』、『マルコ・ポーロの見えない都市』等の奇想天外な現代小説の作者として知られる、イタロ・カルヴィーノの長篇代表作である。物語の舞台となるのは、第二次大戦中のドイツ占領下のイタリアの片田舎。娼婦の姉を持つ少年ピンは、姉の許に通うドイツ兵からピストルを盗み出したのがきっかけで、パルチザン部隊の一員となる。だが彼が加わったパルチザン部隊は、他の部隊からはみ出した奇妙な、愛すべき“落ちこぼれ”たちのふきだまりであった。自分が「病気だ」と主張してはばからないニヒリストの隊長ドリット、元船コックで“過激派”の食糧係マンチー、ガンマニアで元黒シャツ隊員のペッレ等々いずれ劣らぬクセ者たちとピンは“森の生活”を共にする。そして少年ピンの目の前で裏切り、待ち伏せ、報復、戦闘とパルチザンの“日常的光景”が次々と繰り広げられて行く…。本書はカルヴィーノの文学的原点であり、著者自身のレジスタンス体験から生みだされた、リリシズムに満たちネオ・レアリズム小説の傑作である。
関々原の役も家康方が勝利し、慶長8年ともなると、江戸市街は飛躍的な発展を逐げ変貌しようとしていたが、一方、大名家取潰しによる浪人が巷にあふれ、徳川幕府転覆を窺う不穏の動きを煽って…。家康の命を狙う魔性の女に翻弄される男たちの運命は…。波瀾の時代大長編。
失ったものは、たくさんある。たとえば気に入ってたサンダル。子供の時のクマのぬいぐるみ。そして、たくさんの言葉。うっとりする気分と、ときめきの混じった恋人の視線。2:02。それを見つけに、私は目覚める。
ゴールデン・スクロール名誉賞1982年、ロサンジェルスサターン賞1984年、ロサンジェルスグーテンベルグ特別賞1986年、パリテトラドラマ・ド・オロ賞1987年、ミラノ受賞。
忠臣蔵の「昭和定本」をいろどる人間模様の数々-。血をみてはならぬ殿中で、浅野内匠頭が吉良上野介めがけて腰の小刀を一閃したとき、赤穂藩五万三千石は音もなく崩れた。太守は即日切腹、城は明け渡し。三百の藩士とその家族の驚愕と困惑。それは突如として襲う直下型の激震にも似ていたが、強烈な余震はまた世人を驚倒させずにはおかなかった。四十七士の吉良邸討入りである。
刃傷事件から討入りまで、忠臣蔵はどこをとっても胸をうつドラマである。今でも我々の心を動かすのは、人生の縮図を形をかえて観るからだろう。振幅の激しかった大石内蔵助。また大石と共に立ち上がりつつも、消えてゆく同志。偽りの恋に情熱のすべてをかける女心の哀れさ。ラストシーンを飾る琴の爪の話ー。
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。遺作となった読売文学賞受賞作。
「何が何でも慶喜の首を取る!」徹底討幕に燃える西郷隆盛をいかに説得するかが、敗色濃い幕府の命運を任された勝海舟の悩みであった。そんな折、海舟は、罷免された元勘定奉行小栗忠順が立てた幕府必勝の戦略書を入手した。これで西郷を牽制できる。海舟はほくそ笑んだ。一方、小栗とともに上州へ落ちた風戸俊索は、薩長軍迫る長岡、新潟そして会津へと転戦したが…。血塗られた激動の幕末を、爽やかに駆け抜けた青年剣士俊策の生きざまを描く『新幕末風雲録』完結編!
大手スーパー“関東ストアー”の本部統括室次長の三条景彦は、自らの若さと“男”を武器に、甘美で危険な賭けに出た。美人広報課長、社長令嬢、そして社長夫人…彼女らを性の虜とし、社長の椅子を狙うためであった…。大胆不敵な男を通してサラリーマンの飽くなき野望を描く傑作官能小説!
国際麻薬組織が市民多数を人質にし、政府が押収した六十億円のコカイン返還を要求してきた。返答期限は40時間後。窮地に陥った首相は極秘混成チーム外務省領事作戦部〈F2〉の出動を決断した。F2最大の武器は、ロッキードAC-130輸送機を制圧攻撃機に改造した通称《ブルドッグ》である。飛鳥亮機長ら曲者揃いの乗組員とF2の紅一点、大蔵省審理官歩巳麗子は、八丈島西方に浮かぶ敵の要塞島=緑魔島へ向けて飛び立つが、作戦はなぜか敵に察知されていた。果たして人質救出作戦は成攻するのか?待ち受ける傭兵集団の反撃は?軍事サスペンスの俊英が新境地を切り拓く白熱の冒険アクション!