1990年8月発売
惨殺された愛するシャヒーナの、血に染まった心臓を掌に載せて、香坂正次はある決意を胸に刻みつけた。やがて荒々しい意志が日本を覆いはじめる。密輸船の乗組員が謎の失跡をし、闇の利権フィクサーが失脚、そして高級官僚が次々に死んでゆく…国家権力を主賓に招いた、正次の復讐の宴が始まったのだ。
世界各地に支社を持つ国際的なガードマン会社(V・G・S)の日本支社長のクリスは、日英の混血でハンサムな青年。ところが遊び好きで仕事大嫌い人間ときているから、美人秘書の慶子は気を抜いていられない。一兆ドルの頭脳を持つエレクトロニクスの権威、毛生え薬の秘密を抱えた薄ハゲの元C・I・A局員など、世界からやってくる要人をめぐって巻き起る騒動ー。洒落た感覚で描くユーモア・サスペンス。
倶知安町郊外の古い廃工場の中、背中に強い衝撃を受けて関口啓子は倒れた。気がついたとき一人の男が…。その男は通称“丸秀”と呼ばれ、大工をしながらひっそりと生きている男だった。“丸秀”とはいったい何者なのか?関口の問いに何も語らない“丸秀”。しかし、彼は何かを恐めている。その恐れているものとは何なのか。北海道を舞台に描く逃走と追跡の物語。
ニューヨークでイエロー・キャブの運転手をしている元大リーガーのジョージ・ハイダーは突然神戸に呼び戻された。彼はこの街で黒人との混血として生れ育ち、5年前にはここをフランチャイズとするパ・リーグのチームで投げていた。そのチームで今季大活躍のアメリカ人投手の妻が誘拐され、それを捜し出すニワカ探偵がこんどの仕事だ。ジョージの妻惟子も失踪したままで、その姿をこの神戸で見かけたものがいる…。
そのひとは、いつもなんの前ぶれもなしに現われた。日灼けした顔と、大きなからだからは房総半島の潮の香りがした。秋子は夫が戦死したあと、一人息子を育てあげ、仕事を続けてきた。月に一度、或はふた月に一度、二人は逢瀬を楽しんだ。そのひとと会った夜、息子に「潮風の匂いがする」と言われ、動揺する秋子。(「海の匂い」)表題作ほか、珠玉の八篇収録。
父母を殺されたイギリスへの復讐を誓った孤独なアイルランド人テロリストがアメリカに潜入、ワシントンを血に染めて、ひとりまたひとりイギリス人が殺される。無差別な報復は、折から、ステルス爆撃機共同配備協議のため来米する英首相サッチャーに向けられた。姿なき暗殺者を阻止せよ!特別プロジェクト「レインダンサー」が発動されるが…。グリーン・ベレーとしてヴェトナムに参戦し、その後シークレット・サービスとしてニクソン大統領の護衛を務めた経験をもつ著者が、国際舞台を背景にリアルに描くミリテク・アクション。
お祖父さんの家の庭に咲いていた小さな赤い薔薇の花。高く、空にむけてのびた梛子の樹の上を吹きぬけていく貿易風。日本からの移民が作ったアロハ・シャツ。星の形をしたジンジャ・ブレッドのお菓子。8倍の双眼鏡の彼方に見える彼女の姿。誰もが頬よせあう島、そこがぼくの故郷。訪れるたびにぼくを様々な表情で迎えてくれる…。ハワイを舞台にした5つのラブ・ストーリー。
暑い・狭い・うるさい3拍子揃った愛の巣を営む智佐子・克郎の新婚夫婦に、願ってもない話がとびこんだ。箱根湯本にある敷地3000m2の豪邸を、しばらく使ってくれないかーもちろんOK、即座に2人はお引っ越し。だがロマンスカーで新居に帰宅した克郎は、さっそく死体とご対面。それも、たしか電車で隣り合って意気投合したばかりの美女。おまけにその死体が、起き上がった…。
マダム・ジゼルは死んでいた…。パリからロンドンへ向かう定期旅客便プロミシュース号の後部客席で、なぜか蜂が機内を飛び回った後しばらくして、死体が発見されたのだ。推理作家や伯爵夫人、考古学者父子らと乗り合わせていたポアロが捜査を開始した。魅力的な若い娘ジェインの恋愛は事件に絡んでどう展開するのだろうか?飛行機内という完全密室の謎にポアロの推理が挑む。
歴史小説家である「僕」には、ウィーンで数奇な育ちをしたウチという妻がいる。一方、「僕」の友人で大学でレスリングのコーチをしているセイヴァリンは、ウィーンで知り合ったヤンキー娘のイーディスと結婚した。これら2組のカップルのユーモラスで鮮烈な夫婦交換の物語を通して浮かびあるがる現代人の内面風景とは?『熊を放つ』と『ガープの世界』をつなぐJ・アーヴィング会心の力編。
198X年5月30日、サッカー狂の銀行員ブリュノは〈柔らかい女〉運動の活動家イリスと、お忍びでローマでのヨーロッパ・カップを観戦していた。「そうだよ、パパがテレビに、ママ、本当だよ、パパだッたよ。女の人と一緒だった!」TV生中継のため、ふたりの秘められた恋は、明るみになった。夫ブリュノを信じている妻ソフィーの苦悩…。現代人の新しい恋愛と夫婦の情愛を問う長編小説。
パイオニアズのスーパー・ルーキー、デイモンがついに完全試合を達成。スタンドの熱狂は最高潮ーだがこれは、冴えない中年会計士ヘンリーの頭の中だけにある架空のプロ野球リーグ、ユニバァーサル野球協会の話。まじめ一筋の彼の唯一の趣味が、この精緻きわまる野球ゲームなのだ。しかし、そこで起きた大事件がヘンリーの人生を狂わせはじめる…。愛と優しさに満ちた現代のおとぎ話。
27歳のエリート広告マンと41歳のハンバーガー店売り子ー容姿・年齢・学歴・地位、すべて不釣合な2人が恋に落ちてしまったら…。男は2人の仲を公けにできない自分に嫌悪し、女は将来を絶望する。男はこれまでの建前生活に嫌気がさし、本音で生きる女にますます魅かれる。人が人を愛した時、どこまで相手に正直に誠実になれるかー永遠の主題を新しい感覚で捉えた話題作。
その頃、僕たちはまさしくフィッツジェラルドが創造した“神話”「グレート・ギャツビイ」の世界を実現していた。豪奢な邸宅、絢爛たるパーティ、美しき女性たちとの恋、そして涙…。主人公デスリフとモールトンの周りで夢はかない、やがて圧倒的な幻滅が訪れる。“今”を生きる世代から栄光と輝きの’20年代に贈るオマージュを、魅力的な文体で翻訳したお酒落で哀しい恋愛小説。
すべてはその門から始まった。鹿児島刑務所の門。それを作ったのがオレのじいさんだぁ?そして著者のルーツ探しの旅は、突然幕末サツマの実態へと迫り、西郷さんは来るわ山下清は出るわ、古文書は飛びかうわ刑務所取り壊し反対門前コンサートは開かれるわ…。あらゆるエピソードが時空を越えて融合する、抱腹絶倒の大著。
ここではないどこかへ行きたい方、湯微島行の船に乗りませんか。湯微島は旅人を誘う夢の島ではありませんが、心の中のなつかしいものを呼びさます不思義な島です。子供の頃の無邪気な冒険、青春のやるせない思い、甘く苦く切ない恋、そして誰かの人生の縮図のような物語。現代の民話か、奇想天外なメルヘンか。新しい長編小説の誕生。
〈嵯峨本〉は、開版者角倉素庵の創意により、琳派の能書家本阿弥光悦と名高い絵師俵屋宗達の工夫が凝らされた、わが国の書巻史上燦然と輝く豪華本である。17世紀、豊臣氏の壊滅から徳川幕府が政権をかためる慶長・元和の時代。変転きわまりない戦国の世の対極として、永遠の美を求めて〈嵯峨本〉作成にかけた光悦・宗達・素庵の献身と情熱と執念。芸術の永遠性を描く、壮大な歴史長篇。