1991年10月1日発売
ニューハンプシャー州の田舎町カタマウント-雪のちらつくある寒い日の午後、修理工のボブ・ドゥーボイズは突然自分の人生に耐えられなくなった。何ひとつ大きなことを成し遂げないままに、この寂れた町で30歳をむかえてしまった。だが、自分にはもっと華々しい未来がひらけていたはずではなかったのか。ボブは人生のやり直しをかけて全財産をステーションワゴンにつみこむと、妻子をつれて夢のフロリダへと旅立った。一方そのころ、やはり夢を求めてアメリカへ渡ろうと苦闘している若いハイチ人の女性がいた。アメリカに行きさえすれば、何もかもうまくいく-。そう信じて彼女は、自分の赤ん坊と幼い甥とともにカリブ海へと乗り出していった。やがてふたりの人生が交鎖したとき、そこには思いもかけぬ運命の罠が…。やみがたい衝動に突き動かされてアメリカン・ドリームを追い求め、人生の意味を模索しつづける男ボブ-その魂の叫びを壮大なスケールと力強い筆致で描ききった、ロード・ノヴェルの最高傑作。
長安城内の歓楽街・平康坊に入り浸る顕聖二郎真君。天上世界を統べる玉皇大帝陛下の甥御さま、金闕雲宮を守護する禁軍の総帥たる御身さまが…と相変らず東方朔が心にもない説教をくりかえすある日、魏徴は衛国公・李靖と秘書省の李淳風を訪れた。星辰の図を示した李淳風は「命を革むる。天が、他者をもって李氏を易えようとしております」と告げた。驚天動地、太宗・李世民の世が何者かに覆えされようとしている。現王朝滅亡の不吉な予言であった。シリーズ第3弾を2篇に分けて贈る、井上祐美子が雄渾に描く巨篇。
慶長3年、豊臣秀吉は伏見城で死の床についた。枕許に、五大老・五奉行を呼び寄せ、秀頼への忠誠を誓わせたが、家康はそれを公然と破り、派閥工作を開始した。危機を感じた石田三成は翌年4月、秀頼と淀殿を大坂城に移し、伏見城に残った家康との間に一触即発の緊張が高まった。そんな折り、薩摩の漢方医・入来玄蔵は師・林了敬を訪ねて上京するが、謎の集団に襲われる。奴らは了敬が開発した“麻沸湯”の秘密を手中にしたかったのだ。この薬が「関ヶ原」決戦での、恐るべき兵団創設の鍵になるとは…。
三枝恭子は、城南大学の3年生である。春休みを利用して、射撃部の合宿中だったが、訃報が入った。養父の吉蔵が死んだ、というのだ。故郷・秋田県阿仁に戻った恭子は、吉蔵の死に疑念を抱く。警察は熊による食害死と断定したが、名人マタギの吉蔵が熊に食われるはずがない。調べていくうちに“事故死”当時、入山していた4人のグループに不審な点が出てきた。東京に戻り、彼らの身辺調査をして、吉蔵の死は彼らの手によるものと分かる。恭子は抜群の美貌と九条流の小太刀の技を武器に、復讐の雪豹と化し、敵に迫る。
元刑事中館進市が撲殺され、現場から愛犬のクロベエが消えた。四年前、中館とクロベエは殺人犯逮捕に一役かったが、犯人の美笹貴信は仮出所し、父が組長の暴力団美笹組小頭として羽振りをきかせていた。美笹組員が次々と黒犬に吠み殺された。クロベエの復讎か?だが人殺し犬は法によって薬殺される。美笹組は懸賞金を賭け、犬と人間の死闘に世論は沸いた(表題作)。他五篇を収録。
総裁メーカーで陰の実力者・金丸信。田中角栄から竹下登、そして海部政権へと、その影響力は測り知れないものがある。昭和33年衆院選挙でトップ当選を果たし中央政界に乗り出した金丸は、60年安保で“自民党に金丸あり”と決定的に印象付けた。以後、妻の病死を乗り越え再度トップ当選。保利茂につき、徐々に実力を発揮し始める…。今、また自民党の総裁選で、捨身の首領の打つ次なる手は。長篇政治小説。
眼前に、三十余名の敵がいた。一刀斎をぐるりと取り囲んでいた。殺気をみなぎらしている。多数をたのんでいた。強敵と見たのであろうか、直ちに打ちかかろうとはしない。燦々とふりそそぐ陽光のもと、一刀斎は、キラリ、軽く腰をひねって愛刀・一文字を抜いた。余裕を覚えた。一刀斎の眼は、おのれを取り囲んだ敵の背後の緑の山なみを見ていた。〈見山〉を試みるときだった。書下し剣豪小説第三弾。
サンフランシスコに数多く存在する古風なヴィクトリアン・ハウス。その一つの中で“わたし”の友人が何者かに殺された。死体には赤いペンキがベッタリ…。ハウスの保存運動をめぐる確執か、それとも?唯一の手がかり〈チェシャ猫の眼〉を求めて“わたし”は事件の解決にのりだす。が、〈猫〉を手にした者たちは次々と謎の死をとげていくー。「不思議の国のアリス」の木の上で笑う猫よ、犯人を教えて。
南朝の京都回復のために影の軍団・多聞党を使い、足利家内部を撹乱する親房。その心には若くして戦場に散ったわが子顕家のおもかげが常によぎる-。公卿でありながら、武将であり、軍師であり、冷徹な経営家でもあった親房の炎の生涯を描く。
陰謀と裏切り、戦乱と飢饉、ペストと狂気-。スペイン軍支配の下、あらゆる邪道のはびこる17世紀北イタリアを舞台に、若い恋人たちが織りなすスリリングな愛の逃避行。長編小説の醍醐味が満喫できるイタリア文学の大傑作。読売文学賞、日本翻訳出版文化賞、ピーコ・デッラ・ミランドラ賞受賞。
卓抜な描写力と絶妙な語り口で、17世紀イタリアの風俗、社会、人間を生き生きとよみがえらせ、小説を読む醍醐味を満喫させてくれる大河ロマン。読売文学賞、日本翻訳出版文化賞、ピーコ・デッラ・ミランドラ賞受賞。
見出されては失われ、失われては見出される〈書物〉-。語る者は語られる者となり、書く者は書かれる者となって、時空間を遥かに超えて行く〈果てしない物語世界〉-。新しい“小説空間”の誕生を告げた会心作。
「私、あなたを抱きしめた時、生まれて初めて自分が女だと感じたの。男と寝てもそんな風に思ったことはなかったのに。」異性よりも、同性との愛を求める若い女性たちの、虚無的な生を赤裸々に描いた異色の連作長篇。
父親の代から資産家で、趣味として印刷所を営む物静かで実直な夫、ヴィクター。一方、美しく奔放な妻、メリンダは、彼とのあいだに娘までもうけながら、次々と新しい男友達を家に誘い込む。やがて、二人のわずかな関係の軋みから首をもたげる狂気と突発的に犯される殺人。郊外の閑静で小さな町を舞台に、現代人が、かかえこまざるを得ない分裂症的な病理を、一人の男の心理と行動を通して、イメージ豊かに、また冷徹に描き出した、ハイスミスの傑作長編。
秀吉が唐入りの大号令を発した年に明国で「西遊記」の初刻本が出版された。「これは余の前世を記した書物じゃ」と秀吉から家康に渡った初刻本は、今も日光山輪王寺に秘蔵されている。東海神州の一角、尾張の吉法師(信長)に転生した三蔵法師を慕った孫悟空は、童のひよしに憑り移り、ここに「悟空太閤記」の雄渾な物語が始まった。
’89年F1GP。元F1ドライヴァー、ピート・ホーソンは、新規参入のヴィターレ・チームから誘いを受ける。願ってもないF1復帰。が、チームのオーナーは、19年前、ラリー出場中に謎の失踪をしたピートの父の雇い主でもあった。事件の真相に迫るピート。開幕戦のシグナルは赤から緑に。-栄光のチェッカーめざして疾走するマシン。限界に挑むドライヴァー。華やかなサーキットの陰では、もうひとつのバトルが…。シリーズ第1弾。
1975年、ワシントン。タクシーの中で発作を起こした客が残したアタッシェケース。中身は門外不出の対ソ戦略極秘文書だった。運転手が匿名でホワイトハウスに送り返したことから、政府中枢にソ連スパイが潜入していることが明らかになる。だが、その大物スパイは、この日に備えて捨て駒を用意していた…。諜報活動の本質を描いた第一級の本格スパイ小説。