1991年2月1日発売
日本最後の清流・四万十川とトンボ王国・中村を観光パンフレットで紹介した縁で、瓜生慎親子は土佐へと家族旅行に出かけた。久しぶりに仕事抜きの旅行とあって、気分も高揚気味だ。岡山駅で駅弁を譲ってくれた女の子・水木留美が慎のファンだったとわかり、親しくなる。彼女は四万十川に身を投げた姉の葬式のため帰郷するのだという。留美が慎たちの席へ行っていたわずかの隙に、彼女の座席は若い男の死体によって占められていた。しかもこの事件は、その後慎たちを待ち受ける新たな殺人の幕開けにすぎなかったのだ。
おれは松平利春。不幸な死体を解剖して、検死する監察医だ。熱海の知人が結婚するというので来てみれば、またしても事件が待っていた。いきなり5カ月の胎児を解剖させられたのには驚いたが、これがどうやら腹の中の子だけを狙った殺人事件。数時間後、その母親も殺され、Vというダイイング・メッセージが残された。さらに、逢初橋にV字型に吊るされた裸女の死体が発見され、その後、次々とV字に関係ある殺人が続いた。一体、犯人はどんな野郎かと、メスの先に力を入れれば-。死体たちの声なき声が聞こえてきた。
9年前行方不明になったジョニーの白骨死体が発見された。当時の走り屋集団“クリムソン・ナイツ”のヘルメットと麻薬を伴って…。その頃、ナイツの元リーダー、今は探偵稼業の南虎次郎に、由香里と名乗る女から「ジョニーの死の理由が知りたい」と電話があった。彼女は、両親に反対されながらもジョニーに結婚を迫っていたという。虎次郎は、かつてのナイツのメンバーを集め、仲間の死の真相を暴くべく立ちあがった。が、彼らを迎えたのは、族、暴力団、さらに二つの屍体であった…。情愛と打算の中で、虎次郎が見た狂気とは。
古代インド。神々が住むという雪山へ旅立った若き王子・アーモンと従者・ヴァシタは、雨宿りに立寄った石小屋で、士族とおぼしき四人組の男たちに出会う。突然、何者かに追われて駆けこんできた男から、連中はラ・ホーの情報を得ようとやっきになっていた。永遠の腐老樹を手にするため、その国に潜りこもうと企んでいるようなのだ。そこから無事に戻った者は、かつていなかった。長篇怪奇冒険譚。
天皇親政の実現と鎌倉幕府打倒こそ、天の命ずる使命だとかたく覚悟されている後醍醐天皇は、日野資朝・日野俊基らと倒幕を密議されたが、正中元年、六波羅の知るところとなって事は破れた。豪宕にして英邁無比の帝は、危難に屈せず元弘元年、笠置山に挙兵されたが、雄図むなしく隠岐配流の身となられたのだった。人皇、九十六代、古今無類の英傑、苦難の生涯を描く書下し大作。
長崎を基地に海軍演習に明け暮れる勝麟太郎に、遣米の下命があった。そして米国軍艦に随従して咸臨丸で渡った異国の地は、ひたすら驚異の連続だった。麟太郎の胸底で、幕府という殻が決定的に崩れ去ったのは、この時であっただろうか。やがて帰国した麟太郎を待っていたのは桜田門外の変であり、新時代へとなだれこむ維新のうねりだった。歴史長篇完結篇。
「ごめんなさい」といってみたい、時期遅れのクリスマス・プレゼント。夢の誘導、奇妙で残酷な味わい、イメージと色彩の氾濫、ポリフォニックな技法の実験…。著者の想像力の水源に浮かぶ鮮やかな花びらの数々。
長らく癌と闘っている母親ルイーズ。夫とはそりが合わない。娘のエイプリルは奔放なシンガー。同性愛の息子ダニーはやさしいが、東部に行ってしまう。ひとりぼっちのいま、ルイーズはすがるものが欲しくなる…。現代家族の愛と孤独を感動的に描いた話題作。
第1部は、昭和20年5月24日、東京空襲の夜の、数寄屋橋での春樹と真知子の宿命の出逢いから、1年半後の再会と真知子の結婚まで。舞台は東京から佐渡、鳥羽に及び、主な登場人物も勢揃い、運命の歯車は一回転します…。
一人息子を溺愛する姑と夫の“三角関係”に苦しむ真知子。真知子の幸せを祈って、身を引きながらも、見守り続ける春樹…。混乱した戦後の時代風俗を背景に、混血の乳飲児を抱えた若い娼婦や砂糖密輸で警察に追われる元陸軍少将、夜の女となった戦争未亡人など。二人を巡る人々の運命も急展開ー。いつしか三年半の歳月が過ぎ去り、真知子はついに離婚を決意しますが…。
身ごもった真知子は、再び夫と姑のもとへ。失意の春樹は友人を頼って北海道・美幌の牧場へ…。運命の悪戯で夜の女となりながら、苦労の末に“平凡な主婦”に落着いた春樹の姉や、密輸発覚でついに逮捕された元軍人など、戦後の激動が周囲を混乱させる中で、春樹には美しいアイヌの娘との恋が、真知子にも夫との新しい愛情が芽生えるのですが…。二人の旅はさらに彼方に。
流産により夫との絆を断たれた真知子は、春樹をたずねて北海道に渡ります。嫉妬と憎悪の念から二人の仲を裂くために策を巡らす夫…。真知子は自立を求め、ひとり雲仙に旅立ちましたが、積もる苦労の果て、ついに重い病いの床に…。舞台は再び数寄屋橋に戻り、八年間に及ぶ、ひたむきな愛の行方を探る大河ロマンも完結に向いますー。新しい女性の時代が始まりました。
横浜の幼稚園を狙い、誘拐を匂わせる恐喝事件が発生した。神奈川県警特捜班が犯人の指定した取引現場に散開するが、そこには身許不明の男の絞殺死体が遺棄されていた。殺されたのは恐喝犯なのか?-進展のないまま、事件は闇に包まれてしまう。そのころ九州・福岡で、私立学園を持つ教育界のドン・武本の愛孫が誘拐されていた。高速道路網を駆使して巧妙に身代金を得ようとする姿なき脅迫者と、一瞬の犯人との接触に全てを賭ける刑事たちの対決の果てに、横浜-博多を結んで錯綜する恐るべき犯罪の全貌が明らかになる。書下ろし長篇サスペンス。
謀略組織「ダブル・クロス」との戦闘で鏑木隊員を失った鬼道組。第三世界の金融市場に敵の資金ルートを見出した野獣たちは、東西情報機関に接触、反撃へと転ずる。だが、隊長連城重吾が、突如盟友たちに別れを告げた。絶望に彩られた己の過去を胸にめ秘め、亡獣は一人復讐の戦場へ向かう。
脱サラ探偵・柏木大介の許に調査依頼が舞い込んだ。依頼主は女子高生で、内容は男子受験生の挙動であった。さらに大学教授から入試に絡む、予備校の調査依頼が来る。しかし、女子高生は高校のプールで水死体となり、教授も暴漢に襲われたのち、病院のベッドで殺害されてしまう。一方、大介も警察に追われ、殺し屋に命を狙われ始める。そんな折、同居人の知佐子がサンフランシスコへ飛び事件を解く鍵を探り出すー。
第八代将軍吉宗の曾孫・赤利豊前守高昌(灯雨近)は、江戸にはびこる悪を裁くため市中を徘徊していた。いくたびか女体に溺れ、策略を期す妖女に惑わされる雨近だが、同時に武士としての誇りを持つ男たちへの助力も発揮していた。また不審な動静を見せる長崎奉行へ密偵を疾らせるなど、公儀でも策動する雨近。己れを取り巻く、業に満ちた者たちを見た時、次第に腐り始めている国の政治を敏感に感じ取った雨近だが…。
おれは26歳、強靭な肉体を誇る。ある夜、絶世の美女に迫られ、男の液を放つ。「夢精した」と気付くと、おれは棚の天女像を見上げた。股間が汚れている。『日本霊異記』に同じ話があるので、驚いた。棚の一方には誰かの髑髏がある。おれは愛液で、それを磨き、供養したつもりだ。が、不思議な現象が次々と…。他に会心作を満載。
60人を越す死者が出たバスの転落事故で、たった一人生き残った男…宝くじを買えば、その賞金の十倍という袋くじの特賞に当たる。果たして、この世の中にそんな男が存在するのか?写真週刊誌の記者・白岩百合子は、彼に興味を持ち、追跡を開始するが…(表題作)。小気味よい推理短編の醍醐味。
南紀・白浜で女性が毒殺され、その所持品から呼び出しの手紙が発見された。差出人はT・H。そして、手紙と同じイニシャルの男性が、「私がやりました」という遺書を残して潮岬で死んでいた。同じ頃、伊豆・下田を訪ねていた壮と美緒も、殺人事件に巻き込まれた。南紀と伊豆を結ぶ見えないラインとは。逆転トリックの本格推理傑作。