1991年4月1日発売
トロイアの王妃は臨月を控えて悪い夢を見たー。生まれた男の子が火と燃えている夢だ。王はこれを凶とし、恐れおののいた。やがて赤子が生まれた。これまた凶兆として嫌われる男女の双子だった。結局、男の子は山奥に住む羊飼いの里子に出され、片やカッサンドラーと名付けられた女の子は王妃の手で育てられることになった。だが、それも12歳になるまでのこと。やがて彼女も里子に出された。女戦子アマゾーンのもとに。
クムの桎梏を逃れてあらたな歴史を踏み出した新生モンゴール。だが四囲の情勢は予断を許さず、クム軍はいまだモンゴールとの国境をうかがう。そして、救国の英雄イシュトヴァーンがその掃討のために派遣された。一方、イシュトヴァーンの軍師アリは、クムとの調停を順調に進め、和平はすぐさまにでも成立しそうに思われていたがー。前線からの報を待つトーラスにもたらされたのは、意外にも突然のクム軍の奇襲だった。
スコットランドの石油貯蔵基地に錨をおろしたマンモス・タンカー〈カローリア〉。ペルシャ湾から長途の旅を終え、これから積載した12万トンの原油を積下ろすのだ。だが、見る者を威圧する外観の下では、恐るべき事態が進行していたー。老朽化した船内ではさまざまなトラブルが発生、航海士のミスと偶然が積み重なり、船はまさに壮絶な死を迎えようとしていたのだ。巨大タンカーに潜む危険を克明に描く海洋サスペンス。
夜霧を引き裂く悲鳴を聞いて駆けつけたハマーが見たものは、死の苦悶に足を絡み合わせた、あられもない姿の美女の死体だった。誰かが彼女を縛り上げ、鞭で引っぱたいて殺したのだ…。調査を始めたハマーに伸びる何者かの魔手。執拗な追跡の末に浮かび上がったものは、美女を食い物にする謎の組織の存在だった。残虐な殺しの背後にひろがるどす黒い欲望にハマーの怒りが炸裂するセンセーショナルな問題作、遂に文庫化。
シカゴの金庫破りフェイブと麻薬課の捜査官ジミイー子供時代からの無二の親でありながら、二人はまったく別の道を選んだ。しかし二人は、お互い相手の仕事には干渉しないはずだった。フェイブが相棒と押し入った部屋で、無惨な女の死体と大量のコカインを目にするまでは…。クライム・ノヴェルの次代を担うと絶賛される大型新人が放つ鮮烈なデビュー作。
愛しのブルー・ベルへの想いを断ち切れないでいる無免許探偵バークのもとへ、幼なじみの女性キャンディから突然連絡が入った。10代の頃の遊び友だちだった彼女と20数年ぶりに会ったバークは、いまは超一流の売春婦となった彼女の変貌ぶりに驚く。彼女にはエルヴァイラという名の15歳になる娘がいて、目下、とある秘密教団に囚われているので救い出してほしいとバークに依頼してくる。前科27犯の私立探偵バーク、怪力の音なしマックス、メカの仕掛人モグラ、予言者プロフェット、粋なオカマのミシェル…。ニューヨークの暗黒街にその名を知られたアウトロー軍団の捨身の活躍。傑作『ブルー・ベル』でファンの心をつかんだ注目の鬼才が放つ、人気沸騰のシリーズ最新作。今回はあの恐怖の殺し屋ウェズリイが登場。
天下統一を成し遂げた豊臣秀吉の晩年の頃、ひとりの剣客がいた。名は、朧愁之介。年の頃は27、8で長身痩躯。彫りの深い顔には、冷徹な色と妖しい色気が漂っている。伏見の船宿の二階に居候しているが、腕は滅法強い。必殺剣は、長刀・備前長船景光をひっさげての「影の灯火」だ。愁之介には出生の秘密があった。千利休の妾腹の子なのだ。ある事件を追っているうちに、父利休の死の謎に突きあたる。真相を暴かんと単身敵地に斬り込むが、その結果、石田三成の陰謀と千利休の思いもよらぬ出自が浮かびあがる。
季節はずれの猛吹雪に襲われた南アルプス仙丈岳。市川佑子と佐倉知弘のカップルは、避難した仙丈小屋で三人連れのパーティと天候回復を待つことになった。そこへ荷物をなくした大熊友男が逃げこんできたのだ。大熊の傍若無人のふるまいと凶暴性を秘めた態度に、五人の反感は次弟に憎しみと恐怖、ついには殺意へと変る。が、一カ月後、大熊を投げこんだ谷からパーティの一人の死体が発見されたのだ。
五光百貨店のプリンスとまでいわれた榊原聡明常務は、社内政治に長けた奥谷猛専務に追い詰められていた。一度は、奥谷の社長就任を許した榊原であったが、百貨店の経営については自分の方が一枚も二枚も上手だという自負もある。そこに持ち上ったのが北山流通グループ総帥の北鋭司からの誘いだった。榊原は北山百貨店の副社長として迎えられ、敵陣より五光の奥谷の経営に挑戦する。長篇企業内幕小説。
『三国志』ほどスケールの雄大な物語は少ないだろう。玄徳、関羽、張飛が盟約を結び、天下統一をはかろうとして展開される。やがて中国史上空前の大戦といわれる赤壁の戦いを迎え、最後には晋によって天下が統一され、三国志は終わる。本書は天保年間に刊行された『絵本通俗三国志』を基にしたダイジェストである。挿画は北斎の高弟葛飾戴斗。いかにも北斎派らしい大胆な構図と躍動感に満ちた絵がすばらしい。
天正7年伊藤一刀斎は堺にいた。茶の湯の宗匠・津田宗及と相識り、招かれて夕玄庵に滞在、茶道で言う「一期一会」のなかに剣の極意がひそむのを感得し、新たなる境地を拓いた。剣に生きるものの宿命か、無眼流、反町無角に挑戦を受けた。愛刀一文字は水のように流れ、無角を真っ二つに斬り捨てていた。一刀斎は、その剣に「払捨刀」と名づけた。戦国の世を往く剣聖を描く書下し剣豪小説。
その生涯は不遇であった。奈良・聖武帝の御世に多感な青年期を送った大伴家持は、名門貴族の嫡男に生まれながら、都の政争の渦中で没落し、鄙の地・陸奥に没したとき、屍になってなお、謀反の嫌疑によって追罰を受けた。万葉集を編纂し、最多の歌を収めるこの歌人が、都を遠く去った越中や因幡、伊勢に詠った風景は、胸底にわだかまる憂愁であり、天平へのかなわぬ憧憬であっただろうか。歴史長篇。