1991年8月発売
築地の料亭“花巻”で働きながら、地唄舞いを心の支えにして生きている30歳の有紀は、日本画家の香屋雅伸と知りあい、香屋の妻の敵意と嫉妬をよそに運命的に結ばれた。激しく愛しあった10年の歳月、香屋は50歳の男盛りをガンに冒され、有紀を残してひとりで逝った。それから1年、有紀は、永遠に愛する男のために舞台に上がり、幽艶な女の情念を秘めて「雪」を舞う…。長編小説。
25歳の誕生日に春霞に沈んだプールでひとり泳ぐ美佐子。全身の感覚で水と光と風を楽しむ彼女の、プールの底に映る影は、いつもの冷静そうな影。心の動揺などまるで感じさせず、彼女の動きをそのとおりに映していた。周りのだれもが揺れ動いている時にも、あくまでもクールな美佐子。春から夏へと移る季節のなかで、いま静かに始まる彼女の、そしてあなたのためのラヴ・ストーリー。
芸者の子として生まれ、父を知らずに育った未知子は、学生結婚に失敗し、1人息子を連れて、東京・向島の花街に戻ってきた。座敷に出て間もなく、初老の紳士と知り合うが、父親にも似たその男との出会いが、未知子を惑わす。好きになってはいけない同士の、大人の恋のゆくすえは…。男女の胸の内を描いて定評のある著者が、変わりつつある花柳界を舞台に展開する意欲恋愛長編。
NATO(北大西洋条約機構)軍加盟の各国から優秀なパイロットが選抜され、改良型のトルネード戦闘攻撃機による特別飛行中隊が編成された。集まってきた彼らは、互いに競い合いつつ、厳しい訓練を耐え抜いていく。その間に起きる女性との恋、仲間の事故死、そしてソ連人パイロットの亡命…。大空を翔けめぐる若きパイロットたちの世界を爽快に描く、NATO版“トップ・ガン”。
世界的に有名なソビエトの作曲家ボリス・ニコライエフと妻ヴェラ、娘のアンナは、パリで亡命を企てた。しかし、決行の時、なぜかボリスは約束の場所に姿を見せなかった。苦しみと悲しみの20年が過ぎ去った。ある日、今はニューヨークに住む妻と娘は、ボリスがフィンランド音楽祭にやって来ることを知る。しかも、アンナの昔の恋人を伴って…。胸を打つ愛のサスペンス・ロマン。
1924年、ニューヨークは、金と権力で市議会と密接に結びついた政治結社、タマニ・ホールに牛耳られていた。タマニの実力者ウォレンの妻エミリーは、夫の無理解と暴力に耐え切れず、家を出た。幼い頃からの夢、ブロードウェーの女優を目指す彼女の前に、タマニと夫の恐ろしい罠が立ちはだかる…。愛する娘をとり戻すため、自分の身を守るため、エミリーの長い戦いが始まった。
タマニの罠に落ちたエミリーは、売春の現行犯で逮捕された。服役した彼女の再出発は苛酷だった。前科者に女優の口は来ない、勤め先もない。だが、無実を証明し娘をとり戻すには、莫大な訴訟費用が要る。悩み抜いた彼女は、ついに夜の世界へ足を踏み入れた。そして再び、タマニの摩手が…。華やかな20年代の風俗を背景に、自分の力で幸せを掴もうと努力する1人の女性の半生を描く。
10年の刑期を終えて出所した〈世紀の大怪盗〉ハドソン・ホーク。マフィアに脅迫され、盗賊稼業に舞い戻ったホークは、相棒のトミーとともにダヴィンチの騎馬像を盗み出した。騎馬像に隠されていた謎のクリスタル。このクリスタルには、大きな秘密が潜んでいるらしい…。ニューヨーク、ローマ、イタリアの古城を舞台に怪盗ホークが繰り広げる華麗なアクション・アドベンチャー。
CIAにまつわるとてつもない国家機密が隠されている小さな街、ウエストポート。ここでひっそりと暮らしている凄腕の元工作員ポールが、新聞記者のスーザンに恋したときから、波乱は始まったのだった。スーザンの父レスコーは元警官で、麻薬密売組織の大物美女との関わりをCIAに邪推されていた。組織と裏取引のあるCIA幹部は、ポールとその仲間を狙い始めるのだったが…。
野や山を蝶のように遊び回っていた自然児の響子は、望まれて結婚したが、一年たらずであっさり家に帰ってしまい、いぜん、村の掟やタブー、血縁のきずなを蹴っ飛ばして、奔放にみずみずしく生きつづける。響子に女性の“原型”を透視する作者が、生れたままの女の、とらわれない愛のかたちを追求した神話的な長編現代小説。
チヅルは小学4年生。これでもなかなかいそがしい。遊び場に突然やってきたヘンな転校生。おねえちゃんの長電話と初恋の予感。お母さんとオトーサンの秘密の取り決め。チヅルがみずみずしい眼で感じた家族や友だちのこと、かいまみた大人の世界-。夢みる少女の数々の体験を季節感豊かに描いた、甘ずっぱい連作短篇集。
夢を打ち砕かれ、わずか46歳で老人のように病み衰え、ひたすら死地へと、マグダレーナ河をさまよい下る報われぬ旅に出たシモン・ボリーバル。宗主国スペインからの独立を成し遂げ、〈解放者〉と呼ばれた華やかな面影はすでにない…。-失意のうちに没した実在の英雄を描く本格的“歴史小説”。
軍事施設なみの防護網。完璧にシールドされたコンピュータ制御機器。「不可能」のハードルを越えると、またひとつ「不可能」が二人の前に立ち塞がった…。超話題作『黄金を抱いて翔べ』から1年。高村薫は持ち前の科学知識を総動員して、原子炉に狙いを定めた。比類なきクライシス小説千枚。巨大な構築物に素手で立ち向かう男たちの、見果てぬ夢がここにある-。
ローダン一行はトルクタンでの作戦で、球状銀河M-87の支配的カーストに属している基地のエンジニアの存在を知った。かれらはM-87を支配する中枢部の設計者の側近だ。もしコンタクトに成功すれば、故郷の銀河への帰還も夢ではない。スコアルから得たデータをもとに、トルク星系から6718光年離れた休暇惑星ゲーギヴァルに潜入したローダンは、ロワ・ダントンやミュータントたちとともにとほうもない作戦を開始した。
太陽系のみならず近傍星系までもイスラム教勢力によって支配されている近未来ー。火星首長国では三十年ぶりに、首長の頭部を切断し、若いクローンの体に接合させる〈打首の儀式〉が行われようとしていた。クローニング技術者ハミード・ジョーンズは、証人としてこの儀式に参列した。ところが手術の最中に、客席にまぎれこんでいた過激派が銃を乱射。ハミード・ジョーンズの目のまえで、首長の頭部は鮮血に染まった。
瀕死の重傷をおった首長を見かぎり、太政大臣と宦官長官はクローンを用いて偽首長の擁立をはかった。偶然この秘密を知ったハミード・ジョーンズは大臣や長官、はては過激派から命を狙われる。そのうえ、砂漠に潜む王位僣称者アル・シャルク、イスラムの盟主を目指すアルファ・ケンタウリの帝王も、ハミード・ジョーンズの持つ情報を得ようと躍起になっていた…。気鋭の作者が壮大なスケールで描く奇想天外なイスラム宇宙。
1830年代、南北戦争前のアメリカ・ヴァージニア州の少年メイスンは、ひょんなことから殺人をおかしてしまった。逃げまわるメイスンが出会ったのは、なんと崇拝する作家エドガー・アラン・ポウ。この奇矯な天才と運命的な出会いが、メイスンを驚異の旅へいざなうことになったー地球内部にひろがる広大な空洞を探険する冒険旅行へと。鬼才が自由奔放な想像力で先達ポウに挑み、SF界の絶賛を博した傑作。