1992年10月発売
エイスリンは、いつしかウルフガーの孤独の影にひかれていった。父の領土を略奪し、自分を奴隷としてひざまずかせる男からの寵愛。しかし、それは単なる囚われの愛人に対するものではなくなっていた。ふたりの魂は複雑に絡み合い、運命の糸は紡がれていく。身篭ったエイスリンは、その新しい命があの狡猾な男ラグナーの子供ではなく、愛する人のウルフガーの血を引くものであってほしいと望み苦しむ。略奪と愛に、名誉を賭けて激しく戦う騎士たち、愛に揺れ動く美しい女たち-。11世紀のイギリスを舞台に繰り広げられる、壮大なる長編歴史ロマン。
箱根空間美術館の庭園に、黄金色に輝く巨大な円筒が屹立していた。美術館15周年記念として創られた立体芸術作品〈ニュートンの密室〉-。高さ15メートル、直径8メートルの円筒で、内部から上を仰ぐと円形の青空が見える。その披露パーティ当日、女性芸術家が円筒内部で惨殺された。それは万有引力に逆らわなければ到底不可能な殺人と思われた…。
グレート・ビクトリア砂漠を行く8人の元囚人たち-。彼らは、イギリスのオーストラリア開拓政策によって虐げられている原地人と共に立ち上がり反政府運動を展開しようとするが…。オーストラリア大陸を舞台に描く壮大な長篇歴史ロマン。
それは、旅行中の女子大生の失踪事件から始まった。いまだに消えぬ太平洋戦争の深い傷あと。東南アジアと日本を結ぶ麻薬機関の陰謀。日本の政界をゆるがす恐るべき犯罪の真相をさぐるため、私立探偵の中井が現地へ飛ぶ。そこで彼が見たものは-。書き下ろし社会派サスペンス。
特命武装巡察官とは、国家的大事件や広域事件を秘密裡に捜査するため、超法規的措置を許可されている者たちである。5年後に中国に吸収される香港島を、日本近海の無人島に移転しようと企む闇のシンジケート。その野望を絶つべく、巡察官・朱雀豪介が敵のアジトに乗りこんだ。
詩歌雑誌への投稿をきっかけに文通を始めた男女の間に芽生えた淡い恋心のゆくえは-?ピュアでハートフルな感性がきらめく新鋭が、愛し合う人びとの姿をさわやかに描く、珠玉のラブ・ストーリー。
白い肌、白い髪、紅い瞳の魔法少年エンジェル。彼は巡回奇人一座と一緒にやってきて、平凡なホーリイの夏をめくるめく興奮と恐怖のうずに巻き込んだ。エンジェルを意のままにあやつるハーヴァーストック、小人のティム、半獣人ミノタウロス、幻想と現実のはざまに棲む者たちーアメリカの知られざる幻想作家トム・リーミイが、ブラッドベリにも似た透明で美しい世界を織りあげた、ファンタジーの傑作。
「醜い顔に奇抜な服装、年は殆ど六十七…」幸せな気分で唄いながら、セーラはペンキを塗りたくっていった。恒例プレザンス海賊団によるギルバート&サリヴァンの公演を前に、今年は珍事が続出。急遽、伯母から大道具画家に命じられたのだが、その作業の楽しいこと。けれど、高価な絵の紛失を契機に、身代金の要求、殺人事件の発生と、不測の事態が相つぎ…。ユーモア第六弾。
LAの法律事務所での一年は、わたしを早すぎる中年の危機へと追いやった。人生をたてなおしたくなったわたしは、せきたてられるように古巣をめざした。思い出と現実が交錯する、わが街サンフランシスコ。だがそこに待ちうけていたのは、一つの錯綜した事件だった…。弁護士ウィラ・ジャンソンの苦く切実な体験をとおして、アメリカのいまが見えてくる。現代ミステリの最前線。
高度に道徳的な思想に支配され、近隣同士の相互監視体制までもがゆきとどいた近未来社会。とある調査代理店の青年社長アレンは、ある夜、自分自身にも理解できない衝動にかられ、この世界の偉人ストレイター大佐の銅像を密かに破壊するという“いたずら”に及ぶ。この事件は世界に波紋を広げるが、一方彼の周囲にも…。独特の筆でディストピアを描く、ディック本邦初訳長編。
ふくらみのない腹部は、すぐその下に、恥骨の盛りあがりにふれる。薄く細かいヘアが、かすかに指先に触れる。だが、その先のやわらかい湿地に、指を刺すと、ヌルリとした愛液のたまりがやわらかな花弁を露のように濡らしている。もう男を知っている体なのだろうか。-恐る恐る指を深みに入れていくと、なんの抵抗もなく、第一関節、第二関節、やがては指一本をそっくり呑みこんで…。処女喪失から未亡人の性愛まで、さまざまな女の官能を大胆に描くエロチカ傑作集。
新幹線『ひかり277号』の個室で、中年男が殺され、若い女が姿をくらました。中年男は息を引きとる間際、車掌に「蝶々夫人に殺された…」と言い残す。たまたま警乗中だった鉄道警察隊の女刑事・香月美沙子はその謎の女を追って長崎へ。一方、美沙子の大学時代の先輩で元警視庁捜査官、現在はトラベル・ライターの花園千明も“おくんち”祭りの取材で長崎へ来ていて、その殺人事件解明に協力することになる。トラベル・ミステリーで定評のある筆者が放つ“終着駅シリーズ”第1弾。
人民共和国成立直後の北京。舞台は小さな文学研究社。そこでは老若男女、様々な世代の職員たちが、深刻かつ滑稽な悲喜劇を演じていた…。ヨーロッパ帰りの青年研究者・許彦成と美しい妻・杜麗林、そして若い図書係の女性・桃〓@4AA8。この三人が微妙に描きだす恋愛の行方を軸にして、研究社をめぐる幾つもの男女のドラマが、時に辛辣に、時にユーモラスに語られていく。愛と政治が優雅に張りめぐらされる蜘蛛の巣としての物語。今年フランスでも訳出された、注目の一篇である。