1993年10月25日発売
勇と滝子の前に再び高秋が現れた。学生時代、司法試験に敗れた勇は滝子との愛を得、試験に勝利した高秋は愛に敗北していた。滝子をめぐる三角形は微妙な緊張感を孕みつつ、20年という歳月を越えて再び揺らぎはじめた。海の底深く美しい光景の中での激しく狂おしい慕情の錯綜は、やがて、自壊の非劇へと転調してゆく。恋愛の生む全ての敬虔な悲しみと救済と贖罪を描く渾身の恋愛長編。
見合い結婚した津田とお延の夫婦と、津田のかつての恋人清子の三角関係を軸に、エゴイズムのゆくすえを追究した夏目漱石の『明暗』。漱石の死によって未完のまま閉じられた近代小説の最高傑作が74年ぶりに書き継がれた。東京を遠く離れた温泉場で二人きり、久々に対面を果たした津田と清子はどうなるのか?漱石の文体そのままに描く話題の続編、遂に刊行。芸術選奨新人賞受賞。
離婚するのかしないのか、夫と話し合う喫茶店。洋子と背中合わせの席から「馬鹿だな」という声が聞こえてきた。若い娘と向かい合って座る灰色のコートの背中。淋しそうなその肩を、洋子が忘れるはずもなかった。意地悪な偶然に弄ばれ、かつての恋人の述懐を背中越しに聞かされる人妻の緊張を描く表題作を始め、ふとしたきっかけで日常の裏側を垣間見る女たちを描く21の短編。
アナコフ大佐には野心があった。ハインドを改造した最新鋭ヘリ・ヘルハウンドで、特別部隊を編成しようというのだ。彼にとって目の上のこぶともいうべき存在は、かつてそのヘルハウンドを撃墜した、天才的ヘリ・パイロット、デヴィッド・プロス。プロスとその愛機リンクスを抹殺しなければ、アナコフの将来はない。両者の決戦の時は刻々と迫っていた…。迫真の軍事サスペンス。
美貌の広告会社副社長、フレーム・ベネットと危険な魅力を持つやり手ディベロッパー、チャンス・スチュアートは会った瞬間に激しい恋に陥ちた。ところが皮肉なことに、チャンスを憎む伯母のハッティが彼に遺産を譲らなくてすむように探しあてた相続人がフレームだったのだ。彼が進めているプロジェクトにはその遺産がぜひとも必要だったー。愛と憎悪、打算と欲望が渦巻くロマンス。
チャンスに利用されたと思い込んだフレームは深く傷つき、復讐の炎を燃やす。以前から言い寄っていたデパート・オーナーのマルコムに身体を許し、チャンスの計画を潰すための資金を引き出すことさえ辞さなかった。その頃から彼女の周囲に不穏な影がちらつき始めた。繰り返し脅迫電話がかかり、車が追突され、銃弾が撃ち込まれた。それは果してチャンスの仕業なのだろうか。
1938年夏。ナチ党支配下のベルリンは緊迫した空気に包まれていた。私立探偵グンターは富豪の未亡人からゆすり事件を依頼されるが、犯人と目される男は何者かによって消されてしまう。一方、刑事警察首脳の脅しによって、アーリア人少女連続殺人事件の捜査の指揮を執ることになったグンターは、ゆすり事件との奇妙な符合に気付いた…。絶賛を浴びたグンター・シリーズ第2弾。
もう何年も恋らしい恋をしていないサバンナ。離婚したてのバーナディン。いつも男にだまされるロビン。仕事と息子だけが生きがいのグロリア。アリゾナ州フェニックスに住む、パワフルで、シニカルで、ファニーでタフな4人の主人公たち。’90年代の都会に生きる大人の女たちのホンネを辛辣なユーモアをまじえてリアルに描き、全世界の女性から共感をもって迎えられたベストセラー小説。
恋のゲームに熱中するほど若くはないけれど、あきらめの境地にはまだまだ。ようやく男というものの正体が見えはじめてきた年頃のサバンナ、バーナディン、ロビン、グロリア。人生を思い切り生きている彼女たちの、友情、恋愛、結婚、仕事ーあけすけなおしゃべりや、ひそやかなため息、威勢のいい啖呵、ホロッとくる愛の告白などをコミカルに綴った28編のオムニバス・ストーリー。
昭和十九年十月、戦力の大半を喪った日本は、総力を結集してレイテに殺到した。折しも特攻隊が初陣を飾り、滅びのメロディが戦場を蔽いつくした…。多大の犠牲を払った囮作戦が用意した大和の決戦場。しかし不沈戦艦は、ある理由で巨体を翻した…。特攻とレイテの真相を探る戦史小説大作。
タロット日美子が逗留している建築家の屋敷で、次々と事件が起こる。その第一は、夜中にその家の娘が誘拐されたことだった。しかし奇妙なことに、誰も警察に届け出ようとしない。そしてついに恐るべき殺人事件が発生する。事件の謎に日美子が迫っていくが…。