1993年発売
母の病死で、ロンドンから故郷のグラナダ島へ帰ることになったグラーニア。しかし、島で出迎えた父は、突然結婚話を切り出し、男の屋敷に連れていった。島の暴動に乗じて、ひとりわが家へと逃げ帰ったグラーニアだったが、誰もいないはずの家には、フランスの海賊ボフォールが待ち受けていた。
1944年6月5日、史上最大の作戦が始まるその前日、ベルリンの戦火を逃れてクリスチーナはボヘミア・モラビア保護領にあるドイツ軍の基地へ戻ってきた。翌日、基地の司令官である父親は、娘の誕生日のためにバレエの先生を求める。ゲットーから連れてこられたアンナ・バロンタイはハンガリー王立バレエのプリマバレリーナだった。祖国の崩壊を感じながらも頑強にそれを受け受れようとしないクリスチーナと、親衛隊員ワイズミュラーとの絶望的な愛、副官の妻モニカのワイズミュラーに対する爛れた恋、そしてユダヤ娘アンナの性と死…。作者の体験を踏まえた異国の民への愛と死の鎮魂歌。
後漢末、「魔」が目覚めた。この世のものならぬ魑魅魍魎が人界の動乱を求めて騒ぎだしたのだ。そのころ、北方のはずれに剛勇でならした若者がいた。後に「人中の呂布」として恐れられた武将の若き日の姿である。やがて呂布はその力を足がかりに、少しずつ中央へと近づいていく。しかし、それには常に影がまとわりついていた。彼の行くところ、必ず動乱が起こり、人々に不幸がもたらされるのだ。呂布自身も知らぬことではあったが、それこそ彼を狙う「魔」の導きであった。漢王朝は今、波乱の時代を迎えようとしている。裏切り者の代名詞、黒い英雄呂布を描く、「三国志武将列伝」第二弾、ここに登場。
誰よりも速く、遠くへ-、どれくらいの速さで生きるか?エキセントリックな少女たちが繰りひろげるポップでリリカルな「愛」の物語。処女作から後期のSF作品までを含む鈴木いづみの傑作短編小説集。
それぞれ別の相手との結婚を間近に控えた男と女がホテルの一室で最後の七日間を過ごす。濃密な情事を重ねる中で、言動に不審を覚えた女は一年前の殺人事件を思い起こす。彼女が助手を努めていた高名な日本画家夫妻が何者かに惨殺され、いまだに犯人の手掛かりは掴めていない。快感の波にもまれながらも、女は男に対する疑惑を深めていく。
速見竜男は出張帰りに妻彩子の浮気を目撃し、腹いせに元社員の道子と情事に走るが、超電導システムの秘密書類を盗まれて窮地に陥る。さらに上司の峯尾が失踪し、速見は若夫人麻衣子の捜索の旅へ出た。産業スパイの存在に気づいた速見の身にも危険が忍び寄って-。好評官能サスペンス。
多くの人が出入りするテレビ局から、白昼、売り出し中の歌手が誘拐された。しかもその直前、この誘拐を暗示する奇妙な匿名電話が警察に入っていた!芸能プロやCMのスポンサーたちの対応、駆け引き、警察の地道かつ執拗な捜査、そして事件の驚嘆すべきトリックまで、リアルに描ききった傑作長編推理。
天才ピアニストとして期待されていた輝美は、ある日突然失明した。音楽に生きがいを求めて厳しいレッスンにも耐える日々のなか、彼女の周りで次々と人が殺される。美しいピアニストに近づく男たち。気配と音だけが彼女の疑惑を深め、やがて恐ろしい真相が見えてくる…。人の虚実を鮮やかに描いた傑作短編集。表題作ほか四編を収録。
ロサンジェルスに住むイタリア人ジョヴァンニは、漠然としたサクセス・ストーリーを思い描いている。やがて、映画界のディーヴァにイタリア語を教え始めたジョヴァンニにも、チャンスが巡ってくる。カメラマン志望の彼の、正確で皮肉な目を通して、アメリカの社会とアメリカン・ドリームの緩やかな衰退が、スーパーレアリズム的な手法で描写される。