1994年12月10日発売
「生活の破産、人間の破産、そこから僕の芸術生活が始まる」と記した葛西善蔵は、大正末期から昭和初年へかけての純文学の象徴であった。文学の為にはすべてを犠牲にする特異無類の生活態度で、哀愁と飄逸を漂わせた凄絶可苛烈な作品を描いた。処女作「哀しき父」、出世作「子をつれて」、絶筆「忌明」のほか「馬糞石」「蠢く者」「湖畔手記」など代表作15篇。
〈バラの傷〉から流れ出る血。雪の上に続く血の跡。傷口から流れる魂-コロンビアの小さな村にこだわってきた作家が、一転して、バルセロナ、ジュネーヴ、ローマ、パリといったヨーロッパの都市を舞台に、異国の地を訪れたラテンアメリカ人の孤独を、洗練された文体で描き、そのアイデンティティを模索する幻想小説集。
爆発は右前輪の真下で起きた。爆風は運転席を直撃し、彼女をばらばらに吹き飛ばした。助手席のドッグは声をかぎりに悲鳴をあげ、やがて気を失った…。十年前にIRAの爆弾テロで恋人を失い、自らも顔に醜い火傷を負ったドッグ・シセロ警部にとって、今回の誘拐事件は過去の苦い記憶を呼びさますものだった。ロムチャーチで幼児が行方不明となり、捜査の過程でIRAが連れ去ったとの見方が有力となったのだ。子供の父親オリヴァーはIRAのメンバーで組織の資金を持ち逃げした矢先に不審な死を遂げていた。どうやらIRAはオリヴァーの死を偽装工作と考え、子供を囮に彼をおびきだそうとしているらしい。美しい未亡人のジェーンとともに必死の捜索を続けるドッグ。しだいに彼女に心ひかれていった彼は、子供の救出のため仇敵IRAを相手に捨身の勝負に出るが…。冒険サスペンスの名手が、男の孤独な闘いを描く最新作。
デリーに近づくにつれ、消されていた記憶の細部が甦る。洪水のあと、紙の小舟を浮かべに行ったジョージィの黄色いレインコート。血染めのレインコート。〈荒れ地〉の小川につくったダム。記念公園の給水塔。廃工場の大煙突。そこから現れた怪鳥。狼男。そして風船を持ったピエロ…あの、1958年の夏、子供たちがずいぶん消えた。
精神病院のベッドで、男がむっくり身を起こし、月からの邪悪な声に耳を傾ける。町に戻った〈はみだしクラブ〉の面々を迎えたのは、チャイニーズ・レストランの怪、夜の図書館に出現したピエロ、などだった。いまデリーでは、あらゆる狂気が目をさました。それに対抗するには、みんなの記憶を繋ぎあわせ、ひとつの力とすることだ。
二十七年前、一度七人はITと対決した、銀のばら玉を武器に。いや、それ以上の武器は、七人の友愛と勇気で結んだ“環”だった。そのときの“約束”にしたがって、彼らはいまここにいる。欠けた“環”を結びなおして、いま一度、ITと向かい合うのだ。町の下を、ITの棲み処めざして這い進む。デリーに新しいことが起こるのを信じつつ。
男にとって“処女”は永遠のあこがれ。喰べれるものなら、ひとりでも多くの処女を食してみたい…。学生たちからの信頼度も高い大学教授でありながら、香坂鉄夫は、もうひとつの顔を持ったいる。それがバージン・イーター。