1994年12月発売
物語の中では、どんな恋をも生み出せる。けれどこのやりきれない現実…。不本意な結婚と死別。義理の息子との不義の恋。時の人道長との恋愛。古今東西にわたって不朽の名作として輝く『源氏物語』に込められた作者・紫式部の想いを、知られざる人間模様・恋模様を通し、きめ細やかに浮き彫りにした魅力溢れる歴史ロマン。
江戸屈指の骨董屋・大黒堂に入婿した粂太郎は、今夜も女房のお克に責められていた。鑑定ができないなら、せめて女房孝行ぐらい満足にしてみろというのである。お克は面喰いで、粂太郎の二枚目ぶりに惚れ、粂太郎は大黒屋の身代に目がくらんでいた。ゲップのでるお克の体だが、仕方なく粂太郎はのしかかっていった…。入婿したナマクラ男の悲哀と悲劇。
神奈川県警多摩署の川合刑事は、太平洋戦争中、ミッドウェイで友軍機を誤射墜落させていた。自責の念で搭乗員の消息を長年追い続けていたところ、その人物・綾瀬勝治はつい最近、八王子の山あいの休耕田で殺されていることが判明した…。川崎市多摩区で起きた新婚夫婦惨殺事件を担当する川合が奇しくも知り得た綾瀬の過去と墜落機の謎。
「生活の破産、人間の破産、そこから僕の芸術生活が始まる」と記した葛西善蔵は、大正末期から昭和初年へかけての純文学の象徴であった。文学の為にはすべてを犠牲にする特異無類の生活態度で、哀愁と飄逸を漂わせた凄絶可苛烈な作品を描いた。処女作「哀しき父」、出世作「子をつれて」、絶筆「忌明」のほか「馬糞石」「蠢く者」「湖畔手記」など代表作15篇。
〈バラの傷〉から流れ出る血。雪の上に続く血の跡。傷口から流れる魂-コロンビアの小さな村にこだわってきた作家が、一転して、バルセロナ、ジュネーヴ、ローマ、パリといったヨーロッパの都市を舞台に、異国の地を訪れたラテンアメリカ人の孤独を、洗練された文体で描き、そのアイデンティティを模索する幻想小説集。
爆発は右前輪の真下で起きた。爆風は運転席を直撃し、彼女をばらばらに吹き飛ばした。助手席のドッグは声をかぎりに悲鳴をあげ、やがて気を失った…。十年前にIRAの爆弾テロで恋人を失い、自らも顔に醜い火傷を負ったドッグ・シセロ警部にとって、今回の誘拐事件は過去の苦い記憶を呼びさますものだった。ロムチャーチで幼児が行方不明となり、捜査の過程でIRAが連れ去ったとの見方が有力となったのだ。子供の父親オリヴァーはIRAのメンバーで組織の資金を持ち逃げした矢先に不審な死を遂げていた。どうやらIRAはオリヴァーの死を偽装工作と考え、子供を囮に彼をおびきだそうとしているらしい。美しい未亡人のジェーンとともに必死の捜索を続けるドッグ。しだいに彼女に心ひかれていった彼は、子供の救出のため仇敵IRAを相手に捨身の勝負に出るが…。冒険サスペンスの名手が、男の孤独な闘いを描く最新作。
デリーに近づくにつれ、消されていた記憶の細部が甦る。洪水のあと、紙の小舟を浮かべに行ったジョージィの黄色いレインコート。血染めのレインコート。〈荒れ地〉の小川につくったダム。記念公園の給水塔。廃工場の大煙突。そこから現れた怪鳥。狼男。そして風船を持ったピエロ…あの、1958年の夏、子供たちがずいぶん消えた。
精神病院のベッドで、男がむっくり身を起こし、月からの邪悪な声に耳を傾ける。町に戻った〈はみだしクラブ〉の面々を迎えたのは、チャイニーズ・レストランの怪、夜の図書館に出現したピエロ、などだった。いまデリーでは、あらゆる狂気が目をさました。それに対抗するには、みんなの記憶を繋ぎあわせ、ひとつの力とすることだ。
二十七年前、一度七人はITと対決した、銀のばら玉を武器に。いや、それ以上の武器は、七人の友愛と勇気で結んだ“環”だった。そのときの“約束”にしたがって、彼らはいまここにいる。欠けた“環”を結びなおして、いま一度、ITと向かい合うのだ。町の下を、ITの棲み処めざして這い進む。デリーに新しいことが起こるのを信じつつ。
男にとって“処女”は永遠のあこがれ。喰べれるものなら、ひとりでも多くの処女を食してみたい…。学生たちからの信頼度も高い大学教授でありながら、香坂鉄夫は、もうひとつの顔を持ったいる。それがバージン・イーター。
悲しくてやりきれない思い、透明で優しいやすらぎの日々。生きることはこんなにも素晴らしい…人は皆、心の故郷を求めている…全米で社会現象にもなった90年代アメリカの象徴。全米ベストセラー第1位。
『ゴーリキー・パーク』『ポーラー・スター』のアルカージ・レンコ捜査官がついにモスクワに帰ってきた。だが、久しぶりに見るモスクワはすっかり様変りしていた。共産党の解体、ルーブルの大暴落、そして組織犯罪の氾濫。闇市で、レンコの情報屋だった両替商が乗った車が爆破され、さっそく捜査に乗り出した彼は、背後にうごめくソヴィエト・マフィアを追ってドイツへ飛ぶ。そこにはかつての恋人イリーナのすっかり西側の人間になりきった姿があった。