1994年12月発売
実父と兄が対立する社内抗争に巻き込まれた晴生は、社を去らざるを得なくなるが、老いてなお盛んな実父はさらに晴生をその勢力下にからめとろうとする。奔流に逆らいながらも流されていく彼は、頽廃を秘めた年上の女性新聞記者や一途に思いつめる娘との恋愛に、動揺と安らぎを覚えつつ、老造型作家の世界に強く魅かれていく…。現代をみつめ、生の真実を問いかける、長編青春小説。
廃墟と化したアジア最大の兵器工場・大阪造兵廠跡の闇の中で残骸を掘り出す鉄泥棒アパッチ族と警官隊の果てしない攻防がつづく。そしてアパッチ族は北朝鮮へ、大村収容所へ…。戦後五十年を総括する書き下ろし長編。
マッチョに憧れる元気少年上田亀之介は、ちょっとないくらいの美少年。でも惜しいかな、アレルギー性の湿疹と黒縁メガネのせいで、その可愛さをオジャンにしていることが多い。高校の入学式の日、亀之介は幼馴染みの清水朋紀と3年ぶりに会う。ぜんそく持ちのモヤシだった朋紀は、甘ったるく整った美貌のカッコイイ少年に成長していた。ストレートな愛情表現をする朋紀だが、負けん気が強いだけの子供な亀之介には、伝わらない…。その上思わぬ伏兵も現れて。
「どうしても欲しくなった。きみのその声と-きみ自身が、ね」ロックミュージシャン九条高見は、すべての成功を手に入れる事と引換えにその身体を差し出す契約を結ぶ。相手は世界有数の財団オーナー瀬能結城。耐え難い程の屈辱と快楽を与えられればられる程、結城を求めてしまう心に、いつしか高見は追い詰められていく。出口のない闇の中に墜ちていく高見の想いと、氷のように美しく冷たい結城の中に隠された恐るべき激情が交錯した時、二人が選んだ道は…。
女は獣、獣は男、過去は未来、未来は現在…輪廻転生による、釈迦の前世物語。生とは、死とは何か。そして、釈迦の悟りとは何か。仏教創始以来、二千五百年の歴史的な謎に、深く分け入る画期的な連作小説。
リックは魔韻の書の秘密を解きあかせるのだろうか。『リルガミン冒険奇譚』でおなじみの竹内誠がついに長編ファンタジー小説で登場。不思議な力を秘めたブレスレットと魔韻の書をもった青年戦士リックはカルスクの街でフィオナとアルウィンの兄妹を助ける。彼らの館に招かれたリックは、王位継承権争いに巻き込まれ、雪竜の鱗を取るため山へと向かうことになる。リックの祖国を滅ぼしたヴァリナーが魔韻の書をねらってリックの前に立ちはだかるのだが…。
南洋に浮かぶ孤島で夕季が見たものはー。時は1943年夏、日本軍の暗号解読に成功していた連合軍は、要人を乗せた日本軍機が飛び立ったことを知るとすぐさまそれを追撃した。撃墜された日本軍機に同乗していたのは可令官の父を訪れていた少女、夕季であった。不時着から夕季を助け出したのは、南洋に浮かぶ謎の孤島に住む少年、ベン。その島とは。そして夕季が見たものは。エンターテイメントの鬼才、水城雄が放つ冒険SFの会心作。
至上の愛が時の壁を越えたとき、ふたりが迎えるのは、幸せなゴールか悲しい結末か。ここに、二通りの実験結果をご報告する。そのうちの一つは、もはや「実験」とはいえない、決死の非合法時間旅行。もう一つは、計画的な実験が思わぬ事態を引き起こす。いまや伝説として語り継がれる、感動の涙と危機一髪のスリルに満ちた愛。その軌跡を、ぜひたどっていただきたい。そして、第三の伝説を創るのは、あなたの愛。
光と闇、現世と幻想、冥府と天上の垣をかるがると越え、自在に異界へ踏み込みながら、淡い郷愁を漂わせる唯一無比の作品世界-本巻では、幼・少年のなかにひそむ無垢とその怖さをモチーフとしたものを集録。
夫の恋人と称する若いモデルに対して、冷静にふるまい夫婦の愛情の危機を乗り越える年上の妻の心情「冬の梅」。戦争のさなか、隣家の若い人妻との秘められた青年時代の思いを回想する「十九歳」。やがてこの人生を去っていく老夫婦にとって、最後の秋のヨーロッパ旅行を私小説に仕上げた「ルーアンの木蔭」「ヒースの丘」など、人生の機微を淡々と綴った5編を収める短編遺作集。