1994年3月10日発売
一九三四年五月、中野重治転向、即日出所。志を貫き筆を折れという純朴な昔気質の老いた父親と、書くことにより“転向”を引受け闘いぬくと自らに誓い課す息子。その対立をとおし、転向の内的過程を強く深く追究した「村の家」をはじめ、四高時代の鬱屈した青春を描き、抒情と訣別し変革への道を暗示した三部作「歌のわかれ」、ほかに「春さきの風」などを収録。
片隈に生きる職人の密かな誇りと覚悟を顕影する「冬の声」。不作のため娼妓となった女への暖かな眼差し「おまんが紅」。一葉研究史の画期的労作『一葉の日記』の著者和田芳恵の、晩年の読売文学賞受賞作「接木の台」、著者の名品中の名品・川端康成賞受賞の短篇「雪女」など代表作十四篇を収録。
私立探偵ジョン・カディは昔を思い出していた。最愛の妻が脳腫瘍にかかり、長いこと苦しみながら生死の境をさまよいつづけた日々。あのとき、安楽死という選択肢が頭に思い浮かばなかったといえば嘘になる。だが、ふたりでその件について話しあったことは一度もなかった…。今になってふたたび安楽死のことを考えるようになったのは、“死ぬ権利”を唱える法学教授メイジー・アンドラスの関係者から調査を依頼されたからだった。教授の死を予告する脅迫状が届いたので、差出人を突き止めてくれというのだ。教授は脳卒中で倒れた夫の自殺を幇助した過去があり、その体験をもとに始めた“死ぬ権利”を広める運動には、反対者が大勢いた。脅迫者はそのなかの一人なのか?それとも、内部事情に詳しいことからみて、教授の身辺の人間なのか?生と死のはざまで揺れ動く人間心理を繊細なタッチで描き、生きることの意味を問いかけた問題作。
六百年に及ぶ栄華を誇る古代中国商(殷)王朝の宰相箕子は、新興国周の勢力に押されて危殆に瀕した王朝を救うため死力を尽す。希代の名政治家箕子の思想を縦糸に、殷の紂王、周の文王、妲己、太公望など史上名高い暴君、名君、妖婦、名臣の実像を横糸にして、古代中国王朝の興亡を鮮かに甦らせた長篇歴史ロマン。