1994年6月25日発売
雨天の日には、履く靴も、さす傘もなく、弟妹たちは学校を休まねばならぬ状態であることを、榎本保郎は百も承知だった。が、何としても同志社の神学部に進みたかった。結局は家族を真の意味で幸せにできると、固く信じた。イエスを乗せ、命ずるがままに行く小さなロバのようになりたいと決意したー。熱血牧師の生涯を描く。
「お便り拝見いたしました。わたくしは全身から血が流れるような衝撃を受けました。榎本さんの本当のお姿が浮かんで参りました。イエス・キリストの十字架のあとに、真剣に従きしたがって行こうとするお姿です。」婚約者の野村和子からの手紙である。京都世光教会を創立し、今治教会を経て、アシュラム運動の発展に尽くした榎本保郎の52年を描く。
流行作家・角田博紀の妻、僚子にある日届けられた豪華な花束。添えられたカードにはふと知り合った男からの愛のメッセージが記されていた。謎めいたその男は、角田が雇った殺し屋だったのだ-。夫の小説と同時進行する妻の危険な恋のゆくえは。やがて起こるいくつもの殺人が物語と現実を引き裂いていく。
悠久の大地にも時は刻まれ、人は彼岸へと旅立つ-。その自然の営みが故意に断たれた跡に、人々に残していく傷みを掬い、北京・杭州・西安・吐魯蕃と旅した地での人・遺跡に、廃墟と化した故郷広島を思う。西に向う一筋の道、東に辿った文化。一木一草春秋に、生と死の重さを見つめる。積年の思いを結実させた記念碑的作品。連作長編小説。
紅白粉の行商人・藍三郎にはもう一つの顔がある。それが世間の外道を闇から闇に葬る女装の死客人・夜霧のお藍だ。彼は幼い頃に両親を惨殺した仇敵を捜しながら暗黒街に生きていた。仇敵の名は元蔵といい、右肩に『死人彫り』をしているという。復讐の神にすべてを捧げたお藍の行く手は夜の大海よりも暗く果てしがない-。
エリート銀行マンの父とは違う生き方をめざしてカネ正食品に就職したものの、社会の風は厳しい。ひとくせもふたくせもある上司や、要領のいい同僚に囲まれ、まるで見知らぬ世界に迷いこんだかのように右往左往する主人公の西条浩介。そんな出来の悪い息子を、父として、先輩サラリーマンとして蔭ながら心配しつつも、企業戦士として、派閥によるサラリーマンの悲哀を味わう浩一郎。テレビCMをうてる自社製品の開発を夢見る加藤松郎社長のもと、新米サラリーマンの汗と涙と笑いの日々が始まった。
自称「日本一わがまま」な、しかし極上のポスト鷲尾香。有能な通訳&秘書である穐谷絹一。対照的な人生を送る二人を、仕事上のほんの偶然が結びつける。ハードな毎日に身も心も疲れきっていた絹一は、鷲尾の持つ雰囲気に心地好さを感じる。そして、彼らはホストと客として契約をかわし、夜をすごした-。恋、ではない。だが、互いを愛しく想い、優しくしたいと願うこの気持ちは。大好評を博した小説b-BOY連載作品に、書き下ろしを加えた完結編。