1994年発売
辺見圭一郎は、中堅モデルクラブの社長。彼は面接と称して、必ずモデル志望の女の娘の肉体を試食することにしている。OLからの転職を希望する22歳の由香利もそんな一人だった。その夜さっそく、由香利の味見を実行した辺見だが、あどけない表情とは裏はらにベッドでの彼女は、なめらかな肌のうねりや、男を貪るようにヒクつく淫蕩な内奥の蠢きで彼を翻弄して…。
三十三年余の短い一生に、珠玉の光を放つ典雅な作品を残した中島敦(1909-42)。近代精神の屈折が祖父伝来の儒家に育ったその漢学の血脈のうちに昇華された表題作をはじめ、『西遊記』に材を取って自我の問題を掘り下げた「悟浄出世」「悟浄歎異」、また南洋への夢を紡いだ「環礁」など、彼の真面目を伝える作品11篇を収めた。
所はのどかなハーフォードシア。ベネット家には五人の娘がいる。その近所に、独身の資産家ビングリーが引越してきた。-牧師館の一隅で家事の合間に少しずつ書きためられたオースティン(1775-1817)の作品は、探偵小説にも匹敵する論理的構成と複雑微妙な心理の精確な描出によって、平凡な家庭の居間を人間喜劇の劇場に変える。
オースティンにとっては「田舎の三、四軒の家族こそが小説の恰好の題材」なのだという。ベネット一家を中心とする恋のやりとりを描いたこの作品においても、作者が最も愛したといわれる主人公エリザベスを始めとして、普通の人々ひとりひとりの個性が鮮やかに浮かび上がる。若さと陽気さと真剣さにあふれた、家庭小説の傑作。
最初で最後となったビートルズ来日の年、横浜の山の手に全寮制の新設校が現れた。期待と不安を交錯させながらも入学にのぞむ第一期生。どこか幼さを漂わせる彼らの中にも、少数ではあるが、ロックという異分化に強烈な共感を覚える連中がいた-鋭敏な感性と自由な精神を闊達に描いた、新鋭がおくる青春長編。
待ちくたびれるほど待つのじゃ。待つほどに物事は大きくなる-画期的な新商法により一代で越後屋を築いた三井高利の生涯を描く書下ろし時代小説。
五十八年前、農園で待ち伏せにあって殺されたのは、メキシコ革命の英雄サパタではなく、別人だった。ついては、サパタの現在の居所を突き止めてもらいたい…。探偵エクトルは、顔に傷のある男から依頼をたんなる妄想として片づけようとした。だが、彼が断わるまえに、男は金をおいて雨の中に消えていた。この雲をつかむような話が呼び水となったかのように、エクトルのもとには、たてつづけに調査の依頼が舞いこんできた。まずは映画女優から、娘の様子が最近おかしいので原因を探りだしてくれといわれ、ついで鉄鋼会社の社長から、労働争議で揺れ動く工場で起きた殺人事件の調査を頼まれたのだ。どちらとも引き受けたエクトルは、危険が待ち受けているとも知らずに、三つの事件の渦中へと飛びこんでいった。ハメット、チャンドラーの世界を現代のメキシコシティに甦らせ、絶賛を浴びた、話題のハードボイルド。
42歳になる主人公サイモン・ショーは、広告業界で成功を収めているものの仕事に飽き、結婚生活も破綻している。ひょんなことから自由を求めてロンドンを去り、プロヴァンスで小さなホテルを開く計画に携わることになる。仲間は“執事”ともいうべき何でもこなす腹心のアーネスト、そして魅力的なフランス女性ニコル。一方、ジョジョを始めとする南仏人の強盗集団は、地酒パスティスを傾けながら銀行襲撃のプランの仕上げに余念がない…。
貿易船フリードウッド号の船長、ブランドンと一夜を共にしたことから、ヘザーの人生は大きく変わっていく。子供をみごもっていたのだ。ヘザーは子供のために偽りの結婚式を挙げる。ブランドンの故郷アメリカに向かった二人を待ち受けていた、人々の好奇のまなざし、様々な事件、心の葛藤…それでも、やがて本当の愛が芽ばえ、甘い日々が続くようになった。そんな折、不審な事件が相次いで起こる。しかも、その疑いがブランドンにかけられているというではないか…。
「ソングライン」とは、アボリジニの先祖の足跡を辿るルート・マップであり、天地創造の神話であり、法の道であり、情報としての財産でもある。それを歌いつつさすらうことで、彼らは今も、先祖が創造した世界を再創造している。5万年の歴史に培われた特異な文化へのロマンの旅。
“地球の運命そのもの”を敵に回してしまったために、さらわれ、殺されようとした智明を庇おうとして、遂に一樹は絶命した。彼ら2人はこうして引き裂かれたままの運命で終わるのか。彼らが救われる道は本当にないのだろうか。宇宙の創生、そして人類の誕生の謎が解き明かされるシリーズ完結編。
風雲急を告げる大坂夏の陣を目前にして繰り拡げられる、真田一族、服部半蔵一味、風摩の一党、入り乱れての忍者合戦。数奇な星のもとに生まれたがため、そのまっただ中に投げ込まれる駒太郎、波瀾の人生。