1994年発売
…そのとき、彼は悟った。そこにあるのはただひとつの真理、「人生には一杯の酒で語りつくせぬものなど何もない」という、古人の諺だった。彼はグラスを空にした。目的はただひとつだった。二杯目を頼むことだ。〈二杯目のジンフィズより〉それぞれの酒、それぞれの時間そして、それぞれの人生。街で、旅先で聞こえてくる大人の囁きをリリカルに綴った掌編小説集。
千年の昔のこと、ラケツという町でとんでもない不運の元に三人の主人公が生まれた。王子として生まれたのに貧乏と悲惨という運命をしょいこんだ「文無し男」、絶え間なく絶叫し戦い続ける「絶叫女」、どこまでも邪悪でものぐさな「罵り男」。この三人、次々と混乱を引き起こし町から追い出されるはめになる。異国の町々をさまよい続け、巻き起こす大騒動数知れず…。随所に挿入されるヨルバ族の諺もとぼけた笑いを誘う。いわば神話的な時空の中に繰り広げられる、アフリカ流運命の不条理の物語。『やし酒飲み』で知られるナイジェリアの奇才チュツオーラ会心の作。
人気ゲームの『ウルティマ』がついに冒険文庫に登場だ。美しく、強いヒロイン・シャロンに魅せられるはず。アバタール(八つの徳を究めし聖者)となったシャロンは何者かに導かれ、ふたたび異世界ブルタニアを訪れることとなる。アムリック男爵の娘アリエルを救うべく、アビスに旅立つのだった。彼女は襲いかかる幾多の敵に立ち向かいながら、アリエルを探し求めるのだが…。
天狗党に占拠された故郷のジパングを救うため、冒険者養成学校セルファーの女生徒サラスは、戦士科の仲間たちとともに冒険の旅に出た。魔法士科やメカ召喚士科の少女たちも巻き込んで、サラスたちのパーティーは天狗党を倒すことができるのか。マイクロキャビンから発売された同名のパソコンゲームを、アクションたっぷりにノベライズ。
東アジアの「チェルノブイリ」を防げるか。不審な放射能データから幕が開く日韓米ロを巻き込む一大国際謀略。今、注目、北朝鮮・寧辺の「疑惑の核」を巡る書き下ろし。近未来シミュレーション小説。
ラグビーのチームメイト・宏樹を狂おしく想い続ける隆之、18歳。20歳の年上のカメラマン・北崎との関係に傷つく都、18歳。それぞれの悩みを共有しながら、ピュアな生を疾走する、みずみずしく切ない青春小説。
個性尊重の全人教育を唱え、昭和の初めに創立された玉川学園。園内に住む少年の眼がとらえた開戦前夜から終戦までの日々。都市部から離れているため、どこかのどかなところのある学園にも-戦闘機の空中戦、陸軍の装甲車の駐屯、農家への買出しや疎開-戦争は次第に、そして確実に忍びよってくる。幼き戦争体験を軽やかに描く傑作長篇。
駿河湾沖海戦で、アメリカ艦隊を撃破した藤原ら日本の自衛軍だが、双方の被害は甚大であった。さらにアメリカ側の巧みな情報操作で日本国内の世論は、自衛隊に対する非難も強まっていた。そうした四面楚歌の中で、藤原たちはアメリカ側の反撃を確信しつつ、新鋭戦闘機ランをスクランブル待機させていた。やがてアメリカは、状況打波のために、遂に核ミサイルを使うという噂が流れ出した。日米間は最悪の状況を迎え始める-。
サファイアの青のイメージで彩られた、西欧とオリエントの幻想的なからみ合いを描く表題作の他に、ユルスナールの実父の新婚旅行に想を得た「初夜」、イタリアを舞台に、地中海世界の呪縛からの解放をテーマにした「呪文」の三編を収録。初期の未発表短編を詩人の清新な翻訳でおくる。
OL三年目にして会社を辞めた麻子は、旅先で美しく有能な女性・ヨーコに出会う。同い年でありながら仕事も結婚もスマートにこなすヨーコは、麻子の自慢の親友に。ところが、そのヨーコが妻子ある男との不倫に溺れはじめた。しかも相手は口先だけの男。次々と繰りだされる嘘にこりもせず一喜一憂し、次第にボロボロになっていく…。“愛さえあれば他に何もいらない”彼女の涙を前に、麻子はうんざりしながら思う-一体それは愛なのだろうか?
1799年、イギリス。ヘザー・シモンズは17歳になったばかりだというのにすでに両親はなく、冷酷な伯母のもとで辛く希望のない日々を送っていた。そんな折、伯母の弟ウィリアムがやってくる。アイリシュの血をひいた美しいヘザーをみるなり、好色な彼は甘言を重ねてロンドンに連れ出した。罠と気づいたヘザーに襲いかかるウィリアム…もみ合ううちに胸にナイフが突き刺さる。「私は人を殺してしまった。」背後から呼びかける追手の声にすべてを諦めた彼女だったが…。
1968年秋、東京・京都・函館・名古屋にまたがる連続射殺事件は「広域重要108号」と指定された。犯人は19歳の無口な少年。逮捕後、彼は20余年の法廷闘争を展開して「永山則夫」としての生を生きることになる。厖大な公判記録を読破して再構築した著者畢生のノンフィクション・ノベル。
水平社結成から2年、秀昭や和一は全国に広がった運動の中心となって奔走している。小森の人々の意識も、根底から変わりつつあった。刈入れ前の稲を差押えようとする地主に対抗し、孝二ら青年たちは夜の稲刈りを決行する。一方、運動に対する理不尽な弾圧は強まっていく。皇太子狙撃事件の顛末を息をつめて見守る、孝二たちの憤りと憂いは尽きない。20年ぶりに書下ろされた待望の続編。