1994年発売
1066年。イギリスはノルマン軍の手中に落ちようとしていた。ダーケンウォルドの領主の一人娘エイスリンも、戦乱に巻き込まれ、父やその部下たちは目の前で惨殺される。エイスリンも、命はたすかったものの、母とともに奴隷という屈辱の身の上にあった。誇り高く、ブロンドの髪とすみれ色の瞳の美しいエイスリンを、略奪の騎士ラグナーは無理矢理に自分のものにしようとする。やがて、新して領主ウルフガーが入城。エイスリンは傷つき、激しい憎しみと愛のうねりの中にのみこまれていく。
エイスリンは、いつしかウルフガーの孤独の影にひかれていった。父の領土を略奪し、自分を奴隷としてひざまずかせる男からの寵愛。ふたりの魂は複雑に絡み合い、運命の糸は紡がれていく。身篭ったエイスリンは、その新しい命があの狡猾な男ラグナーの子ではなく、愛するウルフガーの血を引くものであってほしいと望み苦しむ。略奪と愛に、名誉を掛けて激しく戦う騎士たち、愛に揺れ動く美しい女たち-11世紀のイギリスを舞台に繰り広げられる、壮大なる長編歴史ロマン。
1968年12月21日、毛沢東は「知識青年は農村へ行って貧農・下層中農の再教育を受ける必要がある」との指示を発した。いわゆる“下放(挿隊)”である。69年1月、本書の作者史鉄生は陜西省の農村に向かった。彼、17歳の冬であった。その村で見たものは…。-文革期の青春の“光と影”と今を生きる自分の思考と感性を過去への巡礼として総括した記念碑的作品の邦訳ついになる。
昭和五十年暮、帝国海軍きっての知性といわれた最後の海軍大将井上成美が逝った。彼は終始無謀な対米戦回避を主張、兵学校長時代には英語教育廃止論をしりぞけた。敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら清貧の生活を貫いた。狂熱の時代に、合理性を保ち続けた〈意志〉の人生の生涯。
戦争に反対しながらも、自ら対米戦争の口火を切り、世界を震撼させた連合鑑隊司令長官山本五十六。今日なお人々の胸中に鮮烈な印象をとどめる天才提督の赤裸々な人間像、その栄光と悲劇を、膨大な資料と存命者の口述をもとに余すところなく描き、激動の昭和史を浮彫りにした、必読の記録文学。
白人農園主と黒人奴隷が愛しあって生れた「白い黒人」、美しいクイーン。奴隷の身から自由になった時、流転の運命が彼女を待ち構えていた…。ヘイリーが、愛情を込めて描く実の祖母の人生と、奴隷たちの“その後”。
クリスマス・タイム。わたしはある高級レストランのオーナーから店の警備状況を調べるよう依頼を受けた。零下15度のなか敢行した調査がもたらしたものは、凍えそうな子猫と、ゴミ缶を漁る牧師との出会いのみ。あっさり首を切られたわたしだったが、数日後依頼人射殺の報が届けられた…。事件の裏に見え隠れするホームレスの影。モノクロームの街に探偵が見た、衝撃の真実とは。
人間が子を生み継ぐ、この自然の営為によって生まれさせられた雲見翼は、祖父から父へ、そして自分へと流れる、この血の鎖を愛しまた憎んだ。彼は人間が造り出した悪魔「Pluto」を武器に、自らの血の源流を破壊しつくそうとする。一方、彼をめぐる女性たちは、子を生み継ぐ人間の力を讃歌してやまない。翼はどこへ歩き出すのか。
好漢青江又八郎も今は四十代半ば、若かりし用心棒稼業の日々は遠い…。国元での平穏な日常を破ったのは、藩の陰の組織「嗅足組」解散を伝える密明を帯びての江戸出府だった。なつかしい女嗅足・佐知との十六年ぶりの再会も束の間、藩の秘密をめぐる暗闘に巻きこまれる。幕府隠密、藩内の黒幕、嗅足組ー三つ巴の死闘の背後にある、藩存亡にかかわる秘密とは?シリーズ第四作。
「この男を今、私のものにしたい」何もかもどうしようもない、という磨理枝と、何もかもどうでもいい、という夕凪。クラスメイトのなかで、どこか違っている二人。子供であることを嫌悪し、大人であることを武器にする少女たちの季節…。誇りたかく多感な彼女たちの傷つきやすい恋愛を、瑞々しいタッチで描く、青春の物語。