1995年6月発売
エキゾチックな顔立ちに小麦色の肌-写真の娘はまるで生きているように美しく見えた。見開かれた紫色の瞳は、なにかを訴えかけるようにカディを見つめている…。保険会社の依頼で人気モデルが絞殺された事件の調査を始めた私立探偵のジョン・カディは、警察で彼女の写真を目にした。どうやら警察は強盗の仕業と考えているようだが、五十万ドルもの保険金が掛けられていたことから、計画殺人の疑いもあった。折しもカディはマフィアのボス、トミー・ダヌッチから接触を受ける。殺されたモデルは実は彼の孫娘で、カディに犯人を見つけだしてくれというのだ。関係者の証言からしだいに明らかになっていく娘の意外な素顔。執拗な調査を試みるカディが突き当たったものは、マフィア一族の隠された過去と錯綜した人間関係だった…。アメリカ私立探偵作家クラブ賞を受賞した筆者が放つ、話題のハードボイルド・シリーズ第七作。
騎士階級の男が殺される事件が続発していた。そのさなか、財務官になった若き貴族デキウスは、神殿の地下室に隠された大量の武器を発見する。相次ぐ事件につながりはあるのか。法務官から特別捜査官に任命されたデキウスは、やがて大がかりな陰謀を探り出すが…紀元前のローマを舞台に、カエサル、キケロら実在の人物を交えて描く冒険歴史ミステリ第二弾。
ニュー・ヒロー誕生-名は水乃紗杜留。常識的な人のあいだでは、奇人・変人扱いされる二十八歳、独身の美男子である。旅行代理店課長代理で、七歳下の美並由加理と仕事の帰り『あさま38号』に乗って軽井沢まできたところ、事故で列車が遅延。友人の熊田夫婦が経営するペンションに、由加理と泊ることになる。そこで由加理は熊田夫婦から、これまでのサトルの名(迷)探偵ぶりをきかされ、彼に多大な興味(以上)を持つ。翌朝、二人は軽井沢に住む高名な小説家の変死事件にまきこまれ、サトルの出番となるが…。
人を捜していただきたいのです-石神探偵事務所の野上英太郎を訪ねてきた黒ずくめの女・鈴木道子は一枚の古い写真をとり出し、そこに写っている少年の行方の調査を依頼した。野上の助手で名探偵の狩野俊介は、猫のジャンヌと夏休みを利用して同級生の別荘に出かけて不在。野上が調査を始めた矢先、道子が野上の眼の前で毒死した。道子と名のった女は、街の実力者・天霧家の娘だったことがわかり、次第に天霧家の複雑な家族構成と遺産がからんだ人間模様が明らかになるが…。
午後七時、上海の人民政府ビルに灯が入った。建設ラッシュと数十万人の喧騒が中国最大の都市の夜を染めはじめた。深緑の制服に赤い星を付けた若い公安警察・荘飛鴻はパトロー中にシンガポールの実業家が眼前で暗殺されるのを目撃した。殺手は准南中路に佇む黒のチャイナドレスの女だった。事件より数時間前、狂龍は上海上空にいた。本名、李修龍。香港皇家警察の禄を食み、精鋭中の精鋭で組織されたO記の探長(警部)である。彼は隣席の若い婦人から奇妙にも声をかけられた。「上海にないもの、それは香港皇家警察」と。
後年、米ソ二大列国の権威の崩壊をある歴史家は、「世界的規模の応仁の乱」と呼んだ世紀末、日本は隣国の大動乱によって国際活動専門部隊の設立を余儀なくされた。国連による北朝鮮に対するPKO実施決定を受けての派遣である。日韓両国内は騒然となり、対立する国民感情を鑑みて、国連事務総長は「交換PKO」方式を提案した。すなわち、朝鮮半島は利害関係の少ない西欧諸国が行ない、日本はアジア、アフリカ、中南米の地域を引き受けるというものだ。西暦2003年、陸上自衛隊第一国際旅団はついにエトロフへ-。
あの空を自由に飛べたら…人間に喰われるのをただ待つだけの一生なんてまっぴらと、飛行訓練を重ねたにわとりのジョナサン。努力の甲斐あって大空へと羽ばたくことができるようになった。そのジョナサンの新たなる挑戦は、人間どもの迫害に対しにわとりを解放すること。フライド・チキン店に殴り込みをかけ、養鶏場を占拠し、自由と平和をかかげてニューヨークを飛ぶ飛ぶ、滑稽だが偉大なる戦士。奇想天外、抱腹絶倒、青島幸男の創作翻訳によるパロディ小説の決定版。
昔の恋人を裏切って結婚してすでに6年、夫婦生活も倦怠期を迎えた妻の前に、エリート商社マンとなったその彼が現われた。夫や子供の顔が頭にチラつきながらも、やがて2人はめくるめく背徳の情事へとのめり込んでいくのだった…一方、企業間戦争の中、夫の闇の世界との接触が、次第に表面化して…。書下ろし官能サスペンス。
1988年大統流選挙。取材旅行をするエリクソンの前に一人の女性が現れる。アメリカの聖人トーマス・ジェファーソンの愛人、サリー。彼女の存在によって現代は歴史の一部になり、アメリカが壮大なスケールで語られる。
日常の平穏な時の流れの中に、ふと、梶井基次郎の痛ましい青春を思い、画家佐伯祐三の自殺にも等しい生きざまをパリ近郊のモランの村まで追い、また俳人山頭火の漂泊の影を旅先きで凝視し、幻の詩人逸見猶吉の閉ざされた生涯に思いをはせつつ、一方では何げない凡庸な空間へ多角的に割り込んでくる、みずからの寒々とした遠景を透視した十四の短篇。
羊飼いに学校はいらない、すべては自然が教えてくれる-太古からの牧畜世界サルデーニャ島。厳格な主人でもある父との葛藤をへて少年は成長をとげる。ある自伝のこころみ。
昭和二十年、八月十五日。南の海で敵を待つ日本軍の潜水艦を、てっきりメスと勘違いしたモテない雄クジラ。しきりにつきまとううちに、アメリカ軍に包囲され、クジラは爆雷の攻撃から“恋人”を守ろうとするが…。表題作ほか二篇、戦争の中で、誰かを愛し、誰かに愛され、死んでいった人と動物たちの絵物語。
人妻やヌードモデルとの逢瀬を重ね、その情事をクールに観察し、小説を書きつづける流行作家・三田村倶治。そんな三田村を溺れさせるほどの人妻・坂崎彩子が突然、殺害された。彩子の死に様は、扇情的で怪異な姿であった。しかも殺害場所は、三田村と彩子の密会場所、面影坂ホテル…。ホテル従業員の証言から警察にマークされた三田村は、自らの疑惑を晴らすべく、事件解明に乗り出す。だが、彩子に潜む戦慄の過去と血脈が、三田村を追いつめる。男と女の狭間に蠢く欲望を大胆に活写。著者会心のロマンミステリー、書下ろしで登場。
美貌のOL純子は21歳のとき、20歳年上の日本画九鬼と出会い、初めて性の歓びを知った。やがて若い純子は九鬼と別れ、家庭をもち共稼ぎ主婦となるが、会社の周囲から信頼され、管理職として活躍する。しかし人生の充実感が感じられず、その不満から途絶えた九鬼との関係が復活する。そして以前にも増して深い性の充足を覚える。だが純子の好色はプロ野球選手、取引先のエリート社員などと交渉を持つが、いずれも満足できず、また九鬼のもとに帰って行く。純子の25年におよぶ半生の性と愛との真実の姿を描く。
夏の暑い日、女子大生の鈴木かおるは、アパートの隣室に無断で入り込んでいた女を殺してしまった。かおるは遺体を処分。完全犯罪を心に誓う。一方、同じく夏の暑い日、サイコ・セラピストの須山久美子は、「わたし、人を殺してしまったんです」という若い女性からの電話を受けた。後日、久美子を指名して、大学生のクライアント、小柳陶子がやって来た。陶子は、「兄を轢き殺した男への殺意が抑えきれない」と言う。久美子のまわりで、暑い夏は次第に複雑な様相を帯びていく。謎めいたクライアント、無言電話、女子大生の自殺、女性のバラバラ死体…。七本の糸が一本に結び合わされるとき、驚愕のドラマが始まる。