1996年12月発売
落ちぶれて、二百円券一枚握りしめ競馬場の金網にぶら下がって大声出していたって、それも一生じゃねえかー天国か地獄かという勝負を仕掛けた松崎の前を、十九頭の馬が疾駆して行く。東洋スポーツの競馬担当記者・松崎は、博奕三昧の日々を送っていた。ホンビキ、麻雀、チンチロリンと身を焦がす勝負にささくれては三人の女の所を泊り歩く…。凄まじいまでの賭博シーンが伝説となった傑作、遂に文庫化。
絶え間ない父母の諍いをなす術なく見つめる子供。自閉症の子供を通し、親子の関係をあらためて問う父親。父親のない子を森の中でひっそりと育てる女。女友達の妊娠の知らせに揺れる少年…。親と子、そして男と女の視線から、生命の永遠の姿を浮き彫りにする鮮烈な作品集。
過去の辛い思い出に縛られた美希は、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。そして美希の一族は村人から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける!不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った傑作伝奇小説。
確かな史実と豊かな巷説を現地踏査によって再構成し、隊士たちのさまざまな運命を鮮烈に描いた不朽の実録。新選組研究の古典として定評のある、子母沢寛作品の原点となった記念作。
最愛の夫の癩治療のため、高橋お伝は名医ヘボン博士を頼って文明開化間もない横浜に移り住む。異国情緒と活気あふれる港街で、治療費捻出のために夜ごと男を求めるお伝。そして出合った運命の男。彼女は底知れぬ無間地獄の闇に、否応なく引きずりこまれていった…。お伝は悪女か、はたまた貞女か。美貌ゆえに人生を狂わされた一人の女の凄絶な宿命と真実の姿を追った、大衆文学史を飾る傑作長編。
女ーそれは男を迷わせるだけではない。会社組織をも狂わせる凶器だ。篭絡した四人の美女を武器に、高度成長の波に乗る電機業界の舞台裏に暗躍する産業スパイ・片桐七郎。俺こそが影の凶器だ、と豪語する非情の男は、アメリカ仕込みの凄腕で、着々と成果を挙げていく…。精力的な取材とダイナミックなストーリー展開で、わが国に企業スパイ小説というすぐれて現代的なジャンルを拓いた著者の代表作。
時は室町の末。木曽の領主・義明に愛妾として迎えられた遊女の鳰鳥には、秘めた大望があった。イスパニア司僧であった父を惨殺した義明への復讐である。兄の御岳冠者もまた御岳山中深く一党を率いて仇の隙をうかがっていた。兄妹の怨念が数多の妖士怪人を呼び集め、風雲まさに急を告げるとき、妖異壮大な物語の幕は開く。
物語の舞台は、中国は宋の時代。妖術を操る老孤精の聖姑姑とその息子、娘の3匹の狐が則天武后の生まれ変わりという軍人とともに反乱を起こす。そこに妖術や法術を駆使する仏家や道士たち妖人が跳梁跋扈するというのが全体の流れである。この物語のキーワードは秘書『如意冊』である。これは道家百八様の変化の法書で、この秘書をめぐる戦いが縦糸となって展開される。さて、くだんの主人公である3匹の狐たちは、ある山麓に棲んでいた。息子狐は山里の人間界で猟師の妻に横恋慕し、左足を射られてしまう。母狐は人間に化けて評判の名医に薬はもらいに行くが、そこで妖狐であることを見破られ道教を修めることを諭される。まずはこんなはじまりから、波瀾万丈、驚天動地のストーリーは展開する-。
国土は千々に分裂し、「律令(法律)」は失われ、悪鬼や化生の跳梁を押さえる道士の呪禁も効をなくした、奇しき乱世の物語。屈強な若武者から、か弱い少女に変成させられた「半神仙」の遍歴譚-。強硬な軍事国家「北漠」の中枢部で、現の範疇をこえた、邪悪な事件が起ころうとしている…。人頭蛇身の妖異な母、九連玄女が手操る運命の糸に引き寄せられ、シャーフは「北漠」の首都へおもむく。そして、軍人と魔女の集団がくり広げている権力闘争に巻き込まれる。血風が渦巻く争い直中には、迷宮に封じられた太古の邪神、やみくもに「世の秩序」を呪い、滅亡の「混沌」を欲する蚩尤がいる。幾多の人命を糧として、蚩尤は今にもよみがえろうとしている。はたしてシャーフは、蚩尤の復活を阻止することができるのだろうか。