1996年1月発売
深川で起きるさまざまな面倒を引き受け、解決する始末屋・鳴海屋。蓮見宗二郎は渋沢念流の遣い手で腕のたつ始末人である。鳴海屋の始末人たちが命を狙われ始めた。新たな大きな力が深川の闇の中で蠢めいている-。宗二郎の剣は、この陰謀を切り裂けるか。
絶海に行方定めぬ小船が一艘、瀕死の有明男爵と忠臣久留須左門、そして親友と謀り内心で男爵を憎む大曾根五郎が飢渇に喘いでいた。もはやこれまでと己が妻と財産を友に託す男爵。だが一夜明けて陸影を認めた途端、本性を現わした大曾根は二人を手に掛け、まんまと男爵の後釜に据わる。それから二十数年、飛行競技大会で超絶技巧を披露する二青年があった。それと知らず出逢い宿業の仇敵と認めあうに至る二人こそ、有明と大曾根を継ぐ者である。正義を旗幟に掲げる貴公子と、帝都に大暗室と呼ぶ王国を築き全世界の覇者たらんと欲する地底魔との凄絶な戦いの火蓋が切って落とされた。
千利休の娘・お吟の胸には、堺の豪商・万代屋宗安に嫁いだ後も、初恋のキリシタン大名・高山右近の俤がひそかに生きつづけていた。やがて離婚したお吟の美貌は、最高権力者・秀吉の関心をひき、その軋轢が、お吟と利休を苛酷な運命の袋小路に引きずりこむ…。戦国の世を生きた薄幸の美女を描き直木賞を受けた名作に、平家滅亡に生涯を賭した僧の生きざまを綴る『弱法師』を加えた本格歴史小説集。
女は広島の山間から、男は四国の松山から、時を同じくして裸一貫の旅に出た。日露戦争を目前に探え近代日本は興隆の頂点をめざしていた。門司港の石炭荷役に携っていた二人の若者は、運命の糸に操られるように殺伐たる九州の港を流れるなかで結ばれ、転変の人生をともに歩みはじめる。玉井金五郎の侠気とマンの心意気、その底に通いあう細やかな愛情。著者天性の雄渾なロマンみなぎる名作。
喧嘩と暴力が日常の沖仲仕の上にも、近代化の波は押し寄せる。巨大資本による石炭積み込みの機械化が企てられ、若松港で玉井組の親方となった金五郎は、荷主側との交渉に身体をはった。争議、脅迫、奸計、ヤクザとの生命をかけた抗争…。時代の激流と沖仲仕の独特な信念がひきおこす事件の連続のなかに、明治の男と女の豪放で繊細な交情を鮮やかに定着させた、痛快無類、興趣抜群の自伝的長編。
本書は、『ユリシーズ』に興味をもちながらも読む機会がなかった、あるいは難解な構文と複雑な内容とに恐れをなして気おくれした文学愛好家を対象に、この長編小説を読むための手引きとなるような詳注をつけた。また、大学の英語や英文学の授業でも使えることを考慮して、語学上の注を豊富に付け、手元の英和辞典を引きながら『ユリシーズ』を原文で読んでいけるように工夫した。本書は、『ユリシーズ』全体の約二十分の一をその前半部からとりあげた。主人公と若い娘との手紙のやりとりや主人公が友人の葬儀に参列する場面などを中心に、4つの章に編集。
浴衣の裾を裂いて東山の手が内腿に入り、パンティのはざまに迫った。一瞬強く交差したが、二度三度なぞられると、力を失って股はゆるやかに開いた。パンティの横から指が入る。クリットがつままれた。体が震え痺れる。-彼の怒張しきったペニスが、もう遠慮なく浴衣の裾を乱した桐子の股間に感じられる。それはブリーフを突き抜け、ズボンの外に突出している。桐子は、その温みに誘われ、握って…。熟した未亡人教師・桐子と尼さく・春恵尼の快感絶頂物語。
『ワンダラーズフロムイース』での冒険から1年。勇者アドルは、今や20才の青年へと成長していた。“さまよえる幻の都”の噂を聞き、新天地アフロカ大陸に渡ったアドルは、ナルムの豪商ドーマンの依頼を受け、幻の都への手掛かりとなる5つの結晶探しの旅に出るのだが…。同名SFCソフトを全三巻にわたり大胆に小説化。
浄化隊の隊長逆井は、牧場の一人娘ひいなを連れ出すよう手児名に命令される。手児名に疑念を抱いていた逆井は、浄化隊が仕掛ける容赦ないやり方を見て、手児名の命に背き、ひいなとともに凡樹の里を目指す。その頃凡樹の里では、東日流の跡を継いでトミオジとなった高市が伝説の剣を探して五霞山の洞窟を奥深く進んでいたのだが…。彼の前に突如現われたものとは。
きっと彼女に白いヴェールをかぶせて赤いコンバーチブルで連れて帰ろう。高3の夏をグルグルまわったミオと僕の恋。全審査員を感動させた純・青春小説。第32回文芸賞受賞作。
美希は過去の辛い思い出に縛られ、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。それが幸せなのだと自ら言い聞かせて…。時の流れから取り残された小さな山村で、美希の一族は人々から「狗神筋」と忌み嫌われながらも平穏な日々が坦々と続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し、惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける。不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った、傑作伝奇小説。
二十世紀における最も重要な二人の思想家の出会いが生んだ幻の名著。本論に加え、1934年から40年にかけてのベンヤミン宛書簡を通し、時とともに輝きを増すその思考の核心に迫る。
健児が盗みを。ゲームセンターで発生した盗難で犯人の疑いをかけられたわが子。思い返せばあんなことこんなこと、私の子育てはまちがっていたのだろうか…平凡な親と子をおそう危機を描いた表題作のほか、いじめや自殺や登校拒否など、「教育」という名の戦場を必死で生き抜く親と子の切ない胸のうちを一人の母親の眼で描いた傑作小説集。