1996年1月発売
福祉事務所の万年係長・重松は、アル中のために周囲から疎んじられていた。そんな彼がかつて担当したケース-やはりアル中で家族と生き別れた男-が二十数年ぶりに、重松の前に現われて…。表題作ほか全八篇収録の連作集。
春の新番組で念願叶って実力派の人気俳優、沖田仁光との共演が決まった篝龍司。医学部出身の異色俳優、篝にとって沖田という存在は特別だった。美しく整った品のいい面立ち、スーツのよく似合う長身、そして何より他人を寄せつけない孤高の雰囲気。憧れ続けた愛しい男。惚れていることを隠しもせず、ひたむきな視線を投げかけてくる篝に、冷たく閉ざされた沖田の心も次第にほどけてくる…。そんな時、沖田を屈辱の淵へと突き落とす事件が…。
高校一年生の清貴と智彦は従兄弟同士。孤独な境遇の二人にとって、お互いはかけがえのない存在だった。しかし、ある日、智彦の前にバスケ部の篤志が現れたことで、ピーナッツの殻にくるまれたような二人の時期が、変わりはじめた…。大人への階段をのぼりはじめた少年たちがおりなす、センシティヴ・ラヴ・ストーリー。
ジェームズ・ジョイスは、ピカソやシェーンベルクやストラヴィンスキーとならぶモダニズムの旗手の1人だ。本書は、このアイルランドのスフィンクス(謎めいた人物)の作品を前に感じていた読者の抵抗感と逡巡を払拭して、じかにその作品に接してみようという気を起こさせてくれるに違いない。カール・フリントのイラストも魅力である。
青年将校たちの間で昭和維新が熱っぽく語られる時代-。若き陸軍中尉・剣持梓は、幼い頃から繰り返し見る幻の中で、陛下への熱い思いを募らせる。魔王のような存在・北一輝との交流や、実姉との危うい関係の果てに梓はついに“叛乱”に身を投じてゆく…。歴史上希有な“官能的事件”とも言うべき二・二六事件外伝にして、刺激的な“恋愛小説”の登場。山本周五郎賞受賞第一作、衝撃の長編小説。
『猫』の最後で死んだはずが、目覚めたらなぜか上海にいた「吾輩」。そこへ飛び込んだ、なんと苦沙弥先生殺害の報、そして犯人はこの街に。個性的な猫たちが、上海の街を縦横無尽に駆け回って事件解決に大活躍、『猫』でお馴染みの登場人物も総出演。漱石文体を駆使した書下ろし一千枚、“純文学”をぶっ飛ばす奇想天外の冒険ミステリー。
“愛”の一文字を兜の前立に掲げ、戦場を疾駆した男・直江兼続。知略の限りを尽くし、主君景勝を補佐して乱世を生きぬき、のちの上杉鷹山に引き継がれる領国経営のもとをつくった戦国随一の知謀と信念の男の生涯を描く。
東西呼応して家康を撃つ。関ケ原合戦における石田三成との密謀の裏には、直江山城守兼続の大いなる賭けがあった。処世にあけくれる上方政権を見限り、東北に独自の「王国」を築こうとした名将兼続の壮大な構想とロマン…。新しい視点で描き出された時代小説の傑作。
幼いころに両親を亡くし、施設で育った小料理屋の板前・楠木谷純一郎。彼は、女性に接すると狂乱状態になり、性的不能に陥るという奇妙な病いを持っていた。そんな彼が、通っていた歯医者の受付をしている佐々木千織に声をかけられ、生まれて初めて恋におちた。彼の心の病いを治そうと、千織の献身的な努力が始まる。純一郎の閉ざされた心の殻が、千織によって一枚一枚はがされたとき、ある衝撃の事実が浮かび上がった。少年時代の戦慄の記憶。謎の女・千織の真の目的は。謎と恐怖を孕んだ著者会心のロマン・サイコ・サスペンス、全力の書下ろし長編野心作。
御手洗潔が日本を去って一年半、横浜馬車道に住む御手洗の友人で推理作家の石岡のもとに、二宮佳世という若い女性が訪れ、「悪霊祓いに岡山県の山奥に一緒に行ってほしい」と言う。なんとその理由は、大きな樹の根もとに埋められた人間の手首を掘り出すためだった…。三月末、石岡と佳世は、霊の導くままに、姫新線の寂しい駅に降り、山中に分け入り、龍臥亭という奇怪な旅館にたどり着いた。これが、身の毛もよだつ、おぞましい、不可解な大量連続殺人事件に遭遇する幕開きだった。推理界の鬼才が、構想を練りに練り一年、満を持して放つ、二千枚を超す、渾身の書下ろし傑作超大作。
時代が、体制が音を立てて崩れ、移り変わってゆこうとする幕末に生きた九州は柳川藩の一剣士・神影流大石進の一代記である。六尺余の長身に長刀を持たせ、必殺の突き技を使わせたら江戸の千葉周作道場、斎藤弥九郎道場を破るほどの腕を持ち、天保年間の剣術界に旋風を巻き起こし、剣技・剣道具の改良にとり組んだ異色の剣豪である。
強力な磁場を持つ中性子星「スター」の内部では、体長約10ミクロンの微小な人類が驚くべき都市を形成していた。だが近年、グリッチと呼ばれる星震現象が頻発し、人類の居住域は徐々に崩壊しつつあった。想像もつかないほど強大な何かが「スター」を騒がせているのか。その陰には宇宙の支配的種属ジーリーに関わる重大な秘密が…エキゾチックな中性子星を舞台に驚異のスケールで展開する、ハードSFファン待望の書。
植民惑星ハーモニーを軌道上で密かに統轄するマスター・コンピューター「オーヴァーソウル」。入植以来四千万年を経て機能低下を自覚したこのコンピューターは、夢のお告げを送って人々を地球へ導こうとする。兄弟とともに花嫁を探せとのお告げを受けた少年ニャーファイは、独裁者ムウズーの侵略に揺れる都市バシリカを訪れた。そのお告げに隠された、コンピューターの真の思惑とは。人気作家の新たなる未来史、第二巻。
何万人もの人が居住するワルシャワ市のはずれの高層ビル団地。そこには様々な人生があり、老いも若きも、男も女も、それぞれの過去を、愛を、苦悩を、希望を、孤独をみつめながら、ひたむきに現代を生きていた。運命に左右されすれ違うこともあり、出会うこともあり…。それは偶然と必然の糸でつながれた不可思議な心の物語。十篇の愛の物語を鮮やかに描いた名匠キェシロフスキの伝説的連作映画を完全小説化する話題作。