1996年2月発売
合戦場の死人から腹当を剥ぎ盗っていた藤吉郎は、火付け・強盗・略奪・人殺し、なんでもやることを条件に、一椀のめしにありつくと同時に、野盗蜂須賀小六の子分となった。そして数日後、蜂須賀小六の弟分で、実は父が歴とした武士で、本名を石川五右衛門宗郷という文吾と知り合った。ここから、尾張中村生まれの流れ者藤吉郎の人生は転変する。やがて織田信長の下、金柑頭の明智光秀とともに、“秀鼠”と渾名された秀吉の出世競争が続き、信長本能寺の憤死、光秀討滅を経て“天下人”となった秀吉の前に引き出されたのは、かつての盟友石川文吾すなわち盗賊五右衛門であった。釜茹の刑に処された男とは…。-“太閤”と、おのれを敬称で呼んだ男、豊臣秀吉の“型破り人生”を描く長編傑作。
サハラ砂漠で純朴に生きていた羊飼いの美少年が、パリでCM映画やマネキンのモデルに仕立てられていく…。移民労働者の現実を背景に、映像文化に翻弄された人間の自己回復を描く、巨匠の最高傑作。
OLのマリアンにはピーターという恋人がいる。このままいけば、結婚し、世間なみの幸福な家庭が約束されている。だが、果してそれだけが自分の人生だろうか、マリアンのアイデンティティを求める悩みは深く、彼女は拒食症に…。人生の岐路に立つ若い女性が一度はかならず経験する心の迷いを、女性特有の生理からリアルに描く、フェミニズム文学の先駆けとなった著者の処女作。
雪のコペンハーゲン。イヌイットの血をひき、雪と氷と孤独を愛する女性、スミラ。友人の少年が雪の屋根から転落死する。が、雪が「読める」スミラに残された足跡は告げる、これは事故ではない-。真相を追う彼女にかかる検察の圧力。無言の脅し。そして、スミラが単身乗り込んだ謎の船は、氷に閉ざされたグリーンランドへ…。全く新しいヒロイン像が欧米で爆発的にヒットした、北欧産海洋冒険ミステリー。
2038年。若き天才物理学者アレックスはマイクロ・ブラックホールの生成に取り組んでいた。これが完成すれば画期的なエネルギー源となる。ところが思わぬ事故でブラックホールが地中へ落下、このままでは地球は内部から食いつくされてしまう。人口爆発や深刻な環境汚染などの危機的状況に加え、さらなる致命的な壊滅の危機に直面した“母なる地球”を救うべく、アレックスたち科学者チームは絶望的な戦いに乗り出すが。
ドイツの誇る無敵戦艦が二隻の巡洋艦を従えて出撃したーこの情報は英国海軍を震撼させた。折りしもカナダからは、大船団が英国を目指している。また、米兵二個師団を乗せた二隻の豪華客船も洋上にあった。出撃がこのいずれかを狙ったものであることは明白。強敵を捕捉すべく、英国海軍は全艦船に出動を命令。やがてキャメロン指揮する駆逐艦のレーダーに三つの影が浮かび上がった。巨艦との死闘を描くシリーズの白眉。
全米各地で動機のまったく不明な殺人事件が続発していた。被害者は赤ん坊から老人まで多岐にわたったが、手口は共通していた。そんな時、ミネアポリスに住む大学教授のフィルは、旧友サムの招きで孤島を訪れた。だがそこは、サムが指導者として君臨する教団の島で、彼はやがて驚くべき体験をすることに…カルト教団を題材に、気鋭が放つ衝撃のミステリ。
「私は無実です。真犯人を探し出してほしい」夫殺しの容疑で起訴された美しい女性は、元警官の私立探偵フェイガンに訴えた。情況は彼女に圧倒的に不利。だが高額の報酬、それに警官を免職された汚名をそそぐ証拠が手に入ると知り、彼は引き受ける。しかし、事件は驚くほど奥深かった。サンフランシスコを舞台に、意表をつく展開で描く出色のハードボイルド。
家族の絆に亀裂を入れたあの女が憎い…顔に醜いあざがあるためドリーは人づきあいを嫌い、母亡き後、父と弟の世話に喜びを見出してきた。が、父親が再婚し、すべてが変わってしまった。継母に罰を与えるため、彼女は弟と共に魔術で呪いをかける。直後、継母に恐ろしい災難がふりかかるが、やがてドリーにも無慈悲な運命の刃が。英国推理作家協会賞に五度輝く著者が、異常心理を極限まで追究した傑作サイコ・スリラー。
死ぬ瞬間、人の眼に何が現われるか。そのことに強い興味を抱く非常な美男子の医師ベッカー。彼は顔に傷痕のある男と出会い、妻を殺し眼を潰すよう依頼した。計画は成功するが、ミネアポリス市警のダヴンポート警部補はベッカーに嫌疑をかける。やがて鋭利な凶器で眼を潰された死体が次々と発見されて…狡猾な異常殺人者と一匹狼の刑事の息詰まる対決。骨の髄まで凍る衝撃のサイコ・サスペンス。
十セントの古本の山から、数百ドルの値打ちの本を探しだすーそんな腕利きの“古本掘出し屋”が何者かに殺された。捜査に当たった刑事のクリフは、被害者の蔵書に莫大な価値があることを知る。貧乏だったはずなのに、いったいどこから。さらに、その男が掘出し屋を廃業すると宣言していた事実も判明し…古書に関して博覧強記を誇る刑事が、稀覯本取引に絡む殺人を追う。すべての本好きに捧げるネロ・ウルフ賞受賞作。
夫の最高裁判事を殺害した容疑で突如、起訴された美貌の検事補アビー。彼女の弁護に立つのは、連戦連勝の辣腕弁護士レイノルズ。そして検察側の証人として出廷するのはかつてアビーに訴追され、死刑判決を受けた卑劣な殺人犯ディームズ。アビーに圧倒的に不利な状況のなか、レイノルズに秘策はあるのか。やがて激しい法廷戦の末、驚愕の真実が-裏あり、謎あり、仕掛けあり、読み始めたら止まらない『黒い薔薇』につづくノンストップ・サスペンス。
ルネッサンスの都、十五世紀フィオレンツァ。ヴェロッキオ工房にヴェネツィア政府からの依頼が舞い込んだ-それさえ運命だったのだろうか。運河と、橋と。石畳の街でアンジェロは出会う。愛する少女に、そして-彼に。少女のために初めて己れの力を認め、天使でいてもいいと思った。だがその命を握る者がいる-彼の魂が共に堕ちよとアンジェロを呼ぶ。「私は、君さ」と微笑う。その意味は、そして天使の恋が呼び醒ますのは。いま、天使という存在が地上に生まれてきたことの意味が明らかになる-入魂の超大作。
天使の力をもってエウジェニアを癒したアンジェロだったが、その力は心にまでは及ばなかった。ケルヴィーノに捕われたアンジェロを生に繋ぎとめるのは、エウジェニアへの想いだけ。自らの心を肉体と切り離し、頑なに彼を拒む。だがケルヴィーノは同胞を求めていた、恋うように切望していた-少なくとも五百年の昔には神の従僕であった、堕天使は。「愛せないのなら、いっそ憎むがいい」-天使たちは痛みを孕んで天空に闘う。魂の孤独は癒されることはないのか。奇蹟は救いをもたらすか。超傑作、クライマックス。
タバコ業界のスポークスマンのニックことニコラス・ネイラーは、吹き荒れる嫌煙運動の嵐に立ち向かい、健康問題シンポジウムで、人気TVトークショーで、愛煙家の自由と権利を護るべく、日夜、論戦を繰り広げていた。チーズは血管を詰まらせる、それなのにどうしてタバコだけが責められるんだ。クッキー入りアイスクリームなんていう恐るべき食べ物があるというのに、タバコだけがやりだまにあげられるのはなぜ、なぜなんだ。タバコには、パーキンソン病の発症を遅らせる効能があるというではないか。それにですよ、タバコ無しのハンフリー・ボガートなんて、考えられますかあなた。愛煙家の味方ニックは戦っていた。アルコール産業のスポークスウーマンと、銃関係団体のスポークスマンとの三人で、自らを「死の商人」と称し、集まってはグチを言い合い、怪気炎を上げ、ストレスを解消しつつ…。彼はこの仕事が好きだった。それより何より、彼には家のローンがあった。ニックはしゃべりつづける。まるでナチスででもあるかのように人々に糾弾されようと、嫌煙活動家に殺されかけようと。そうなのだ、彼は拉致され、皮膚から少量ずつニコチンを吸収させるという、ニコチン中毒治療用のニコチン・パッチを全身に貼られ本当に殺されかけたのだ。FBIまで巻き込んでの、吸ったもんだの大騒動。腐敗した政治、メディア戦略、パワーゲーム…ワシントンの構造を痛烈に徹底的に揶揄する抱腹絶倒のタバコ小説。愛煙派も嫌煙派も絶対必読。