1996年3月発売
定職にもつかず、母親や祖母と、もたれ合うようにふらふら暮らしていた僕が、ニナとの結婚を期にデパートに就職した。しかし、その生活は相変わらず怠惰で、いいかげんで、宣伝部に籍を置いてはいるものの、上司に頼まれたスパイ行為が唯一の仕事といった毎日だった。そこに、社長交替の話が…新社長は出世街道をつき進んで来たやり手の大物。その彼に思いがけず抜擢されて、僕の生活は一変した。独身で謎めいた新社長ベルトラン、彼につき従う二人の部下。その仲間に入ることになった喜び、うって変わった宣伝部の活気、僕はただ、酔っていた。すべての時間は社長ベルトランのためにあった。社長が生活の中心となったのだ。彼のペースにすっかり巻き込まれた僕は、ニナも家族も、友人も…何もかもを失うという悲劇が待ち受けていることを、まだ知らなかった。ルノードー賞受賞作。
サム・レイナー、二十八歳。海軍航空基地所属の一等兵曹。妻への虐待を繰り返し、離婚訴訟のただ中にあるこの男は、十万ドルを越える金を貯めこんでいた。金の行方を探ってほしいというのが依頼の内容だったが、ある夜、そのレイナーが何者かに射殺されてしまう。疑われたのは妻。調査に乗りだしたわたしの目に、壊れた家族の肖像が見えてくる。自然体の探偵ジェリ、待望第三弾。
ある日、ぽっかりと、男の部屋に窓が開いた。その矩形にくりぬかれた風景に誘われて、男の心は自由に駆けめぐる。(「風景」)。時代の流れがあたりの景色を一変させるなか、黙々と仕立屋を営み、泉のように静かな日々を紡ぎ続ける男の密やかな想い(「化粧」)。ほかに「満月」「供物」「祝詞」の3篇をあわせ、市井の人々の哀歓を語って、独自の美的境位と、読む快楽を追求する連作集。すばる文学賞作家の新境地を拓く最新作。
田村正和主演・大人気ドラマのノベライズがついに文庫化。事件が起こると忽然と姿を現わし、犯人を逮捕すると忽然と消えてしまう、バカ丁寧だが捕らえどころのない変わった男ー警部補・古畑任三郎が大活躍。今回、古畑に挑戦するのは精神科医の笹山アリ、歌舞伎役者の中村右近、ミステリー作家の幡随院大、ピアニストの井口薫、超能力少年の黒田聖の五人。それぞれクセのある殺人事件だが、首尾よく古畑をだませるのか。それとも…。
うだつの上がらない弁護士のヘンリーは、ある日、日頃から憎々しく思っている醜い妻を毒殺する決心をした。ところが、妻を狙ったはずが見当はずれの人間ばかりが次々と死んで、のどかな郊外住宅地は一転、上を下への大騒ぎに…。あの『ウィンブルドンの毒殺魔』事件から数年後、ヘンリーは相変わらず妻に頭が上がらず、一人娘との関係もぎくしゃくしている。今年こそはいい年にしようと年頭の誓いをたてるが、雇ったばかりの掃除婦をめぐって騒動が持ち上がり新年早々なにやら前途多難な予感。果たして、山であやうく遭難しかけたり、漫画雑誌の通信講座に加入したために死ぬほどの恐怖を経験したり、老女連続殺人に巻き込まれたりと、さまざまなトラブルが…。妻殺しに失敗し、戦々恐々とする中年男の身辺で起きる一年間の出来事を、ブラック・ユーモアたっぷりにつづった小粋な連作短篇集。
人類は友好的異星人ムルディニと協力して艦艇を送り出し、共通の敵「ハイヴ」の母星探索を続けていた。優れた超能力者ダミアの子どもたちは幼いころからムルディニ人に親しんで育ち、「ハイヴ」探索の貴重な戦力となっていく。ある日、長男ティアンが乗った艦艇が「ハイヴ」の廃船を発見するが…。両親から受け継いだ超能力を生かしつつ、それぞれの個性を開花させていく子どもたちの活躍を描く、人気シリーズ第三弾。
ぼくはロリン・ホウバート、人呼んでヘリクツ屋。ある日突然うさんくさい爺さんに拉致され、やけに三原色が目につく変てこな異世界に連れてこられた。ここでぼくは、まさに怪物に喰われんとしている姫君をヘリクツを駆使して救出したんだが、そのせいで勇者だと勘違いされ、次々に難儀な目にあうことになってしまった…大御所ディ・キャンプの幻の名作とベテラン作家ドレイクのコミカルな短篇を併録した、必笑の一冊。
テレサは、以前に上司ブライスからセクハラを受けたので、彼女を訴えようとしていた。現在のブライスは、連邦最高裁判事ホーナーの首席調査官。裁判になれば、高い地位についていて、大きな組織の後ろ盾もあるホーナーまでも相手にしなければならない。だが、被告となるべきブライスは何者かに殺害され、訴訟準備の調査をしていた私立探偵も殺されてしまう…裁判の関係者に迫る連続殺人の恐怖を描く、話題のサスペンス。
抱腹絶倒のクロス・ジェネレーション・コメディ。怒濤の60年代を生き抜いた男が、90年代のマテリアル・ガールに恋をした。1960年代の後半に“セックス、ドラッグ、ロックンロール”を掲げて、世界中を揺るがしたウッドストック世代の若者-だが、時は流れ、そんな彼も、いまや中年の危機に怯える毎日。しかもよりによって、キュートな女子大生と恋に落ちてしまった日には…。おまけに、前妻との間にもうけた息子まで引き取ることになって、もう、家じゅう大騒ぎ。期待の新進作家がアップテンポに奏でる、痛快ラヴ(&ピース)・コメディ。
若く美しい女性の死体が、ボストン郊外で発見された。捜査の結果、彼女と愛人関係にあった外科医ディラードが、事件の当日に彼女と会っていたことが判明、有力な容疑者として浮かび上がった。野心的な地方検事はディラードの知名度に目をつけ、彼を被告として起訴し、自らの政界進出のためにこの事件を利用しようとたくらむ。窮地に立されたディラードは、敏腕弁護士として名高いダン・シェリダンに自らの弁護を託した。だが、現行の法制度下では、大陪審において、弁護士は異議申立てや反対尋問を行なうことはできない。ディラードの起訴を防ぐチャンスは無に等しいのだ。やがて、シェリダンの事務所に女性FBI捜査官が秘書として送りこまれ、弁護側の手の内は、すべて検察側に把握されてしまう。そして、そのことを露知らぬシェリダンは、天真爛漫にふるまう彼女をいつしか愛し始めていた…。
村を焼かれ、両親、仲間を殺されて、ジャングルにとり残された少年達。彼らの前に現れたのは、よその国から来たと思われる一人の女性兵士だった。その女は、少年達に自分を“お母さん”と呼ばせ、武器の扱いやジャングルでの移動の仕方を叩き込む。厳しい戦闘訓練が始ったのだ。ジャングルにひそむ“敵”との遭遇、病気…15人になった少年達の行手に待ちうけるものは…。そして“お母さん”の目的は。『後宮小説』で華々しいデビューを飾った酒見賢一の新コンバット・アクションにオリジナル短篇を加えた傑作集。