1997年1月発売
どうしてあなたは生まれ、こんなにも早く死んだのかー息子と共に過ごした時間を丹念に辿り直し、自分の人生、そして母の人生へと溯るうち、生と死の必然性にゆっくりと思いいたる。母もまた、わたしの兄である息子を失っているのだ…。表題作のほか「泣き声」「春夜」の2篇を収録。手繰り寄せる夢と記憶の中に今は亡い息子の生を確信する美しい鎮魂歌。平林たい子賞受賞作。
深夜、十津川警部の電話が鳴った。妻を殺し最近出所した男からだった。死んだはずの妻を見たという。同日、電話の男が殺され、現場に次の殺人を予告する血文字「文殊に聞け!」が残されていた。十津川は丹後に急ぐが、予告通り男が射殺され、凶器の指紋から、ライフルのオリンピック選手が浮上する。だが、彼は昨年焼身自殺していた…。死者が絡む奇怪な予告殺人を描く長編ミステリー。
商用で中国奥地を訪ねた男が、ふと立ち寄った少数民族の村。そこでは人が空を飛んでいた。幻を見ているのだと思いつつも、いつしか現実との境目がわからなくなり…(「中国の鳥人」)。タクシー運転手の饒舌にうんざりして、思わず口走った小さな嘘が招いた悲劇とは(「たどん」)。妄想が産みだす恐怖と笑いに満ちた不思議な世界へ読者を誘う幻想譚八編。著者の短編小説リストを収録。
斬るか斬られるかの厳しい剣の世界で死と隣り合わせに生きる剣客たち。そのさまざまな生のかたちの中に、人の世の情け、人生の妙が味わい深く捉えられた粋な剣豪小説集。卑劣な手段で父を殺された娘が、蛇を小道具に旅の武芸者の助太刀を得て敵を討つ表題作、弱者相手の他流試合で賭金を稼ぐ男の末路を描いた「見世物剣法」など10篇に、女剣士・川崎小秀が活躍する連作4篇を併録。
自然豊かな島に暮らす女の子は、夢想好きで誰よりも早起き。それで、朝の少女と呼ばれている。夜が大好きな少年は、いつしか暗闇に変身できるようになり、眠る必要がなくなってしまった星の子。対極的な姉弟は、両親の教えや大自然との対話を通して、少しずつ大人になっていく。海や星や太陽に抱かれ、ふたりは幸せだった。運命の日がくるまでー。生命の輝きに満ち溢れた愛の物語。
息子は医者です。物騒な市の汚ない市営病院の、戦場みたいな救急治療科に勤めています。早くよそへ移ればいいのに。その息子が恋をしました。相手は同じ職場の掃除婦で、しかも子持ちの黒人でした。確かに息子も黒人です。でも、この女とは住む世界が違います。いったい息子は何を考えて…。緊迫する医療現場で献身的に戦う人々が、ひたむきに織りなす愛と勇気、情熱の人間模様。
ママ特製チキン・スープ、自宅の庭に生える珍しい茸のシチュー、自家菜園でとれた野菜サラダ、愛情のこもったラム・レッグのロースト、もちろん年代物のワイン…。みんなおいしくて、完璧な凶器です。ひと味足りないから塩を取ってほしい?それはとても危険!なぜって塩も立派な凶器ですから。名シェフのアシモフが、16品のフルコースの献立にちなんで殺人事件を集めました。
美しく聡明な女性ばかりを狙った連続誘拐殺人事件がノース・カロライナとロサンジェルスで発生した。ワシントン市警刑事アレックス・クロスの姪ナオミも行方不明になり、彼は南部へ向かう。自らカサノヴァ、ジェントルマン・コーラーと名乗って警察を挑発する誘拐犯は同一人物か?そしてナオミの安否は…サイコドクター刑事アレックス・クロス・シリーズ第二弾。
主婦のジュンコは、眠る大切なマリカを見つめて機中にいた。多重人格のマリカの願いはバリ島へ行くこと。新たな祈りと魂の輝きにみちた小説に、著者が訪れたバリで発見した神秘を綴る傑作紀行を併録。
すべてのミステリの総決算…。究極の連続不可能犯罪を企む天才犯罪者が、陸の孤島で「幻影城殺人事件」を演出する。作家・江戸川乱歩と同じ本名を持つ富豪が、生涯を賭して築いた幻影城。美しい湖の小島に浮かぶ紅の城は、様々な趣向が凝らされた「異形の館」である。推理作家たちが秘境を訪れる。-老いた探偵が惨劇に引き寄せられた時、舞台は整い、物語が始まる。作家の一人が執筆する推理小説が、現実世界を侵蝕し、虚構が世界を包む。虚無の深淵に在る闇の水脈から惨劇が生じ、空前の事件が幕を上げる。装飾的な不可能犯罪が繰り返される。屍は日を追うごとに増えていく。推理小説のありとあらゆる構成要素をすべて制覇すべく犯行を続ける「犯人」-その正体は、限られた「登場人物」の中の一人!事件を支配する犯人の武器は、その天才と「言」の魔力。ひたすら「言」が「迷」い続ける「謎」の山に挑むのは、言と謎を極めた推理作家の集団、百戦錬磨の警察精鋭捜査陣、犯罪捜査のプロフェッショナルたるJDC(日本探偵倶楽部)の名探偵チーム…そして「読者」-「君」自身。神出鬼没、史上最凶の天才「真犯人」、その名は「芸術家」!物語の覇者たる「神」は誰か?「真犯人」の究極の正体は!?旧き約に操られた世紀末の探偵神話を語る「僕」とは!?JDCの切り札・九十九十九が、決して解けない世界の秘密-「神の理」-を悟る時、匣の中の物語は幻魔作用を失い、世界は暗黒の死の館から、めくるめく虚無の彼方へと飛翔する。
断崖に建つ雪の日の洋館で起こった足跡なき殺人に迫る「変装の家」、舞台に突如バラバラ死体を降らせる恐怖を描く「サーカスの怪人」、バラ園のある館で催されたパーティでの毒死-花ことばと呪われた家系の秘密を解く「薔薇の家の殺人」など、才気と優しさに溢れる、名探偵二階堂蘭子の鮮やかな推理傑作集。
周囲から隔絶された、死人が甦る館に住む異形の女性たち。その隣り街で起きる連続殺人事件。奇想と謎が交錯し、不思議の物語は驚愕のフィナーレを迎える!殺人犯は、生きている者か、生ける屍たちか。それとも…。
おっとりした姉・可季子と重い病いを抱えながらも、のびやかな妹・鱈子さん。父母姉妹での穏やかな生活に、父の病いという思わぬ波紋が広がり…。家族という日常の不思議と夢のリアリズムを静穏な筆で描いた三島賞受賞作。
九州の玄海灘を臨む観光の町で、人気写真家の愛人とエリート・サラリーマンの変死体が発見された。続いて長崎の観光の島で、この写真家と若く美しい教え子の変死体も。事件の裏には、純愛を貫く女性たちの極限状況と意外な行動が…。
1931年満州に武力介入を果たした日本は、親日政権を樹立、実質支配に乗り出した。しかし五族共和、王道楽土を標榜する石原莞爾と武力支配を主張する東条英樹が対立、東条の策により石原は満州を去る。勢いづいた関東軍はノモンハンでソ連軍と激突、壊滅的敗北を喫す。全面戦争突入を憂慮した石原は海軍に協力を要請、最強を誇る連合艦隊の主砲が火を噴き、搭載機がソ連軍めがけ殺到した…。