1998年10月発売
「美苗」は12歳で渡米し滞在20年目を迎えた大学院生。アメリカにとけこめず、漱石や一葉など日本近代文学を読み耽りつ育ったが、現代の日本にも違和感を覚え帰国を躊躇い続けてきた。Toreturn or not to return.雪のある日、ニューヨークの片隅で生きる彫刻家の姉と、英語・日本語まじりの長電話が始まる。異国に生きる姉妹の孤独を浮き彫りにする、本邦初の横書きbilingual長編小説。野間文芸新人賞受賞。
闇に覆われた謎の街。娼婦ばかりを標的に、連続殺人が発生する。容疑者ジョン・マードックは記憶を喪失していた。僅かな記憶の断片を頼りに、真実を追うジョン。そして彼を追う刑事バムステッドと妻のエマ。だが、彼らにもまた、不気味な黒い影が忍び寄っていた。ストレンジャーー宇宙の寄生体。彼らは人間の「記憶」を奪おうとしていた…。超絶スケールの新世紀SFスリラー。
大の犬好きだった作家が飼っていたフォックステリアのイリスに、かわいい小犬が生まれました。名前はターシェンカ。やんちゃでいたずらな彼女に、作家はもう夢中です。毎日の成長の様子を、写真に撮ったり、肖像画を描いたり、あげくは小犬のためにおとぎ話まで作る始末。世界中の犬たちと、そして犬に手を焼きそれでも犬がかわいくてたまらないすべてのひとたちに贈る愛犬ノート。
異端信仰の嵐が吹き荒れるルネッサンス前夜の南仏で、若き神学僧が体験した錬金術の驚異、荘厳な光の充溢、そして、めくるめく霊肉一致の瞬間…。本作の投稿で「新潮」巻頭一挙掲載という前代未聞のデビューを飾った現役大学生が聖文学を世紀末の虚空に解き放つ。
好きなように犯罪を犯したあげく、まんまと法網をくぐって罰せられずにいられるものなら、こんなすてきなことはないだろう。完全犯罪ーそれはプロ、アマを問わず、すべての犯罪者の夢である。本書はこうした完全犯罪を達成した悪党たちを、殺人者、泥棒、詐欺師、悪徳弁護士、各種悪党の五つの展示場に分類して、その巧妙な手口を披露する、まことにユニークなアンソロジー。いわゆる名探偵に食傷した読者なら、この悪党本位の名作選を編集したエラリー・クイーンの着想の妙に盛大な拍手を送るだろう。
洋の東西を問わず、来し方行く末かわりなく、素人玄人の垣を越えて、ありとあらゆる犯罪者の飽くなきテーマである“完全犯罪”。この言葉の蠱惑的に甘美な響き…本書においては、もはや見果てぬ夢ではない。アンソロジスト自ら「ぺてん師エラリー・クイーン」をもって永遠の主題を追究する。善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をやー偉大なる犯罪者と彼らの創造者に乾杯。
その朝、マリウスと署名された慇懃無礼きわまる投書がロンドンの主な新聞社と警視庁に届いた。興味本位に受け止められ、あるいは持て余された文書は、結果的に五紙が掲載、英国全土に話題を撒いた。第二第三の手紙で日時と場所を指定し、正面きって「完全殺人」を予告するマリウス。やがて文字通りの事件が…。傲岸不遜な犯人の、金城鉄壁・森厳壁塁の勝算を突き崩す方途は。
時は1869年。ニューヨークから九年ぶりにもどってきたキット・ファレルは、ロンドンに着いた早々、奇怪な事態に次々と遭遇する。友人たちや、アメリカで別れ別れになった恋人の不可思議な行動、キットを狙う銃弾…。そしてついに彼の目前の密室状況下で、その名もユドルフォ荘という館の主人が撃たれたのだ!この謎に挑戦し、名推理を発揮するのは、名作『月長石』の著者ウィルキー・コリンズその人であった!!ガス灯のきらめく十九世紀半ばのロンドンを舞台に、怪奇・歴史趣味に彩られた不可能犯罪を描く、巨匠ディクスン・カー最後の作品。
花の都パリは、また犯罪の都でもある。そこでは殺人、強盗、詐欺、放火等、あらゆる犯罪が渦巻いている。これは探偵趣味の持主ルボルニュ青年が、貧弱な新聞記事を手がかりに十三の犯罪の謎をいとも鮮かに解明してみせる連続短編集。いわゆる純粋推理だけで事件を解決する安楽椅子探偵の好例で、シムノンの作品中でも特に高く評価される傑作集である。メグレものの長編『第1号水門』を併載。
人間の存在そのものに解き難い“謎”を抱かざるを得なかった太宰は、誰にも増して本質的にミステリアスな作家であると言えるだろう。だから、ある意味で太宰の作品はすべて、「生れて、すみません」の一語が投げかける深い謎をめぐるミステリ小説なのかもしれないー編者 人間の“原罪”に共感し続けた作家が、哀切なユーモアをこめ描き出す、罪と罰の15の風景。
21世紀初頭、起こしてはならない愚行を人類は犯した。世界規模の核戦争が勃発し、地球の人口は1億弱にまで減少。さらに突然変異で出現した「妖獣」が人間を襲い、残された人類の存在を脅かしていた。大戦後、半世紀を経て唯一の国家「ミレニアム」が建国され分散していた人間たちは、安全なミレニアムを目指して歩みを進めていた。廃墟となった街に身を潜めていた沖原はある家族と知り合った直後妖獣に襲われ、ミレニアムを目前にして死を待つだけだった。その時、夜の闇の中から突如銃声が鳴り響き、「アウローラ」と呼ばれる少女達のチームが現れた…。
魔族が支配するとある王国。少年フィットは、病死寸前の父より本当の父がいることを告げられる。15年前、国王であった実の父と母は魔族に殺され、双子の妹レナは魔王に拉致されたと。養父が死に、悲しむフィットの前に、光の精霊プリムが出現。「私が味方になる」の言葉をたよりに、魔族を倒す戦いの旅に出る。旅の途中で精霊達が現れ、フィットに好意を持っては次々と仲間になるが、鈍感なフィットは、精霊達の気持ちに気づかない。そんな恋のさや当てが続くなか、突然レナが一行の前に現れた…。
池田屋ノ変、蛤御門ノ変と血なまぐさい事件が続き、時勢は急速に緊迫する。しかし幕府の屋台骨はゆるんだようにも見えない。まだ時期が早すぎるのだ…次々死んでゆく同志を想い、竜馬は暗涙にむせんだ。竜馬も窮迫した。心血を注いだ神戸海軍塾が幕府の手で解散させられてしまい、かれの壮大な計画も無に帰してしまった。
幕府を倒すには薩摩と長州が力を合せれば可能であろう。しかし互いに憎悪しあっているこの両藩が手を組むとは誰も考えなかった。奇蹟を、一人の浪人が現出した。竜馬の決死の奔走によって、慶応二年一月、幕府の厳重な監視下にある京で、密かに薩長の軍事同盟は成った。維新への道はこの時、大きく未来に開かれたのである。
同盟した薩摩と長州は着々と討幕の態勢を整えてゆく。が、竜馬はこの薩長に土佐等を加えた軍事力を背景に、思い切った奇手を案出した。大政奉還ー幕府のもつ政権をおだやかに朝廷に返させようというものである。これによって内乱を避け、外国に侵食する暇を与えず、京で一挙に新政府を樹立するー無血革命方式であった。
慶応三年十月十三日、京は二条城の大広間で、十五代将軍徳川慶喜は大政を奉還すると表明した。ここに幕府の三百年近い政権は幕を閉じた。-時勢はこの後、坂を転げるように維新にたどりつく。しかし竜馬はそれを見とどけることもなく、歴史の扉を未来へ押しあけたまま、流星のように…。巻末に「あとがき集」を収む。
昭和38年9月、地下鉄爆破に遭遇した週刊誌記者・村野は連続爆弾魔・草加次郎事件を取材するうちに、一人の女子高生の殺人事件の容疑者に。東京オリンピック前夜の高度成長期を駆け抜ける激動の東京を舞台に、村野の執念が追いつめたおぞましい真実とは。孤独なトップ屋の魂の遍歴を描く傑作ミステリー。
ぼくは踏みにじられたぼろ屑だった。不幸を自分の身に引きよせ、死にかかっていた…。スペイン戦争前夜。まっ黒な予兆をはらんだ青空の下で、破滅に瀕したひとりの男。彼をうちのめした苦悶とはなんだったのか。嫌悪と倦怠と恍惚とー。「黒いイロニー」をもとめつづける孤独な魂の彷徨を、息づまるばかりの切実さで描く。著者自身によって発表まで20年間遺棄されていた、思想的作家バタイユの危険と魅惑にみちた傑作。