2000年5月発売
目白のアパート「紅梅荘」ふたたび!桃子、30歳。定職、ボーイフレンドなし。親友・花子は荻窪の実家のパテ屋から目白に戻り、小説家のおばさんは相変わらず辛辣。桃子の母親は、なんと恋愛、再婚!謎めいた隣人・岡崎さんは「ね、ね、おもしろいでしょ」が口癖…傑作『小春日和(インデイアン・サマー)』から10余年を経て語られる「彼女(たち)」の物語。
類人猿の言語能力を研究し、チンパンジーと人間を同列に扱うことを主張する学者・井手元。大学を辞め、チンパンジーと隠遁生活を送っていた彼が失踪。残されたチンパンジーが示唆したのは、残酷な結末だったーヒトとサルの境界はどこか、聖域を越えた研究の果てに真理はあるのか。哀切かつ危険なラストまで二転三転、人類のアイデンティティをゆるがし、新世紀へ跳躍する問題作。
最大瞬間風速88メートル、未だかつて日本が経験したことのない大型台風が三浦半島を直撃した。電話も電気も不通、陸路も遮断され、孤立したリゾートマンション。猛る風と迸る雨は、心に台風の眼のごとき空白を抱える滞在客を見境なく襲う。立て続けに訪れる極限の恐怖。そして炎までも、彼らを舐め尽くすべく身じろぎを始めたー若竹ミステリの分岐点となった大パニックサスペンス。
発端は女だった。富豪の老人を夫に持つ美女ノーラ。彼女が青年チャドにうずきを覚えたときから、悲劇は始まった。二人の関係を知った夫は、自らの死を偽装して保険金を手に入れる計画に、彼らを巻き込もうとしたのだ。三つ巴の化かし合いは、いつしか予想だにしない展開を迎えることにー。人種の坩堝ホノルルを舞台に、クールな笑いと色気と騙りで読者を煙にまく新世代犯罪小説。
カール・ハーボールドの脱獄が、ブルーワー郡を恐怖に陥れた。退職を迎えた保安官エズィー・ハージの脳裏からは、カールたちの犯行とされた暴行殺人事件の謎が今も離れない。牧場主デルレイ・コービットも状況を憂慮して、流れ者のジャック・ソーヤーを雇い入れた。デルレイの義娘で耳の不自由な未亡人アンナは、一粒種デイヴィッドとの平穏な生活を根底から揺さぶられてゆくー。
デルレイは世を去り、土地の買収を目論む開発会社と銀行の圧力は日増しに強まる。カールとその一味は近隣に恐怖を振りまきながら、ブルーワー郡へと迫る。ジャックを慕う息子デイヴィッドの姿に戸惑いながらも、アンナはジャックと力を合わせて牧場と生活を守る決意を固める。そして、対決の時はやってきた。かつての忌まわしい事件の真相と、それぞれの秘密が明かされる時がー。
スターリンが遺した秘密文書がある。死の直前、個人用金庫の鍵を奪った側近のベリアが中身を持ち出し、ある場所に隠したのだー。モスクワ滞在中の英国人歴史学者ケルソーは、ベリアの警備員だったという老人ラパヴァの突然の訪問を受け、その話に強い興味を覚える。しかしラパヴァはすぐに姿を消してしまった。裏にはロシア情報機関の暗躍が…?歴史の闇をえぐった長編サスペンス。
老人の娘ジナイダの助けを得て、ケルソーはスターリンのノートをついに発見。それはアルハンゲリスクから共産党の命で呼び出され、スターリンの身辺に仕えた少女アンナ・サファノヴァの日記だったが、ページが途中からちぎり取られていた。ケルソーは真相を探るべく、米テレビ局記者のオブライアンとともにアルハンゲリスクを目指す。そこで彼らは恐るべき「亡霊」と出会った…。
時計台の磔刑、気球の絞首刑、監禁した美女への拷問-異形の無差別復讐鬼“殺人喜劇王”の凶行はどこまでエスカレートするのか。奇想に富んだ手口のすべてを記した謎の小説。黄昏の街を奔走する名探偵と少年助手。そして大団円で森江春策が明かす驚愕の真相。江戸川乱歩へ捧げる最高の本格推理。
百花繚乱の唐。貞観の治と謳われ、武則天の君臨を経て、玄宗と楊貴妃の華麗なストーリーが展開するが、時は動き、中原は五代十国に分裂。趙匡胤の宋も遼・金と対立。突如、勃興するチンギス汗のモンゴル。宋との激突いかに。白熱の王朝史完結篇。
灯油の原料を求めて大海に出た捕鯨船の船長エイハブの壮絶な白鯨との死闘。それを物語る唯一の生き残りの乗員イシュメールの魅力的な語り口。苛酷な宿命の下での自然と神、卑俗と聖性、博愛と弱肉強食等の混沌とした人間的葛藤の奥に、男だけの世界の濃密な関係が息づく。近代の文明の行き詰った危機に改めて注目される古典を朗唱にふさわしい平明な新訳とした文庫版。全二冊。
はっと、平蔵が舟の中へ身を伏せた。荒屋敷の潜門がしずかに開き浪人風の男があらわれ、あたりに目をくばっている。(これほどの奴がいたのか…)平蔵の全身をするどい緊張がつらぬいた。凄絶な鬼平の剣技を描く「血闘」をはじめ「霧の七郎」「五年目の客」「密通」「あばたの新助」「おみね徳次郎」など八篇。
「つくづくとばかばかしく思うのだよ」なれど「このお役目が、おれの性にぴたりはまっている」のである。だから火盗改方の長官・長谷川平蔵は、疲れにもめげず今日もまた出動する。作者もいよいよ脂の乗った「礼金二百両」「猫じゃらしの女」「剣客」「狐火」「大川の隠居」「盗賊人相書」「のっその医者」の七篇収録。
八丁堀同心・畝源三郎の嫡男・源太郎も、はや七歳。いつもよりしおらしい麻生家の花世が気にかかる。花世の歯痛を治そうとして、幼い二人が偶然巻き込まれたのは…。表題作ほか、東吾とるいに待望の長子誕生の顛末を描いた「立春大吉」「虹のおもかげ」「狸穴坂の医者」など全八篇。江戸の春とともに旅籠「かわせみ」にも春の訪れか。
単車で転んで彼女にケガさせた。でも、彼女の白い肌もBMWも俺には同じ位愛しくて。伊豆の海沿いのカーブで、歌舞伎町の路上で、また二人きりの空間で生み出される“青春”という時間のつらなり。そこに在るのは、自由すらもて余してしまう凶暴な情熱と、ほんの少しの虚しさ…。切なくて、愛しい青春の五断片。
帰りたい、でもどこへ?僕たちの人生も半ばを過ぎたー。古郷を出て20年あまり。旧友の死が、4人を再会させた。彼らの帰る場所はどこなのか?渾身250枚の書き下ろしを含む力作中篇集。
エレーヌは眠らなかった。ロイックを起こしては悪いと思い、できるだけ動かないようにした。時々足と膝でシーツを少し揺すり、途切れ途切れに鼻先に届く自分達の匂いをかいだ。そうやって小さな風が送られてくるたびに、ロイックの髪がふわりと持ち上がった。「匂い」と「肌触り」を感じる、不思議な恋愛小説。
店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商う「旗師」宇佐見陶子。彼女が同業の橘董堂から仕入れた唐様切子紺碧碗は、贋作だった。プロを騙す「目利き殺し」に陶子も意趣返しの罠を仕掛けようとするが、橘董堂の外商・田倉俊子が殺されて、殺人事件に巻き込まれてしまう。古美術ミステリーの傑作長編。