2000年発売
秋原健一、製薬会社課長、四十三歳。波多野妙子、調理師専門学校講師、三十歳。二人は京浜急行の中で出会い、蕎麦屋でせいろを食べ、ホテルでただTVを見るー。(「蕎麦屋の恋」)姫野カオルコが描く、六つの「非・恋愛小説」。
自分の母犬を殺し、自分を虐待した男に復讐する犬(「死にゆく道」)、自分から飼い主の少女を奪った男を捜し続ける猫(「トラベルはわが影法師」)、失踪した妻を捜すために、妻がかわいがっていた犬の行方を追う男(「ねむけ」)。仁川高丸が描く、新境地アニマル・ミステリ5編。
一対の壺と皿を発端に、やがて発見されていく一連の青い波濤模様のやきもの。清朝末、そして日中戦争時に、激しく生きた男女の物語を綾おりにして、現代に脈うつ人間の運命を描く感動の恋愛小説。他に短篇五作収録。
ピアノ教室の講師をする女は、離婚して娘と暮している。娘は受験を口実に伯母の家に下宿して母親から離れようとしている。体調の変化から、ある日女は妊娠を確信する。戸惑う女が男たちとの過去を振返り自立を決意した時、妊娠は想像だと診断され、深い衝撃を受ける。自立する女の孤独な日常と危うい精神の深淵を“想像妊娠”を背景に鮮やかに描く傑作長篇小説。女流文学賞受賞。
貧窮のどん底にあえぐ米沢藩。一汁一菜をもちい、木綿を着て、藩政たてなおしに心血をそそいだ上杉鷹山と執政たち。政治とは、民を富まし、しあわせな日々の暮しをあたえることにほかならない。藤沢さんが読者にのこした遺書とでもいうべきこの長篇小説は、無私に殉じたひとびとの、類いなくうつくしい物語である。
天よ、いつまでわれらをくるしめるつもりですか。改革はままならない。鷹山の孤独と哀しみを明澄な筆でえがきだす下巻。けれど漆は生長し熟しはじめていた。その実は触れあって枝先でからからと音をたてるだろう。秋の野はその音でみたされるだろうー。物語は、いよいよふかく静かな響きをたたえはじめる。
良寛さまの晩年にあたたかな春が再来したような親愛の時をもたらした女性。師とも父とも慕い仕え、ともに学芸に遊び、清らかな情愛をはぐくんだ。下級藩士の家に生まれ、医者に嫁いだのち離別し、仏門に入った貞心尼の生涯と、良寛さまとの魂の交情を情感豊かに描く。超高齢化、介護の時代を迎える今日にこそ通ずる愛の形が、この物語の中に示されている。
諏訪徳雄は、コンピュータおたくの四十男。ある日突然、妻の沙夜子がコツコツ貯めた一千万円の貯金とともに蒸発してしまった。人生に躓き挫折した夫、妻も仕事も金も希望も、すべて失った中年男を救うのは、ヤクザ者の義弟とソープ嬢!?胸を打ち、魂を震わせる「再生」の物語。吉川英治文学新人賞受賞作品。
突然の大地震で、ファーストフード店にいた6人が逃げ込んだ先は、人格を入れ替える実験施設だった。法則に沿って6人の人格が入れ替わり、脱出不能の隔絶された空間で連続殺人事件が起こる。犯人は誰の人格で、凶行の目的は何なのか?人格と論理が輪舞する奇想天外西沢マジック。寝不足覚悟の面白さ。
ルーアン、リヨン、熱海で起きた怪現象を綴った「三つの幽霊」をはじめ、とっておきの怖い話が九編。人一倍怖がり屋だった作者の恐怖心と好奇心が生み出した、不朽の名作集の新撰版。
早期退職優遇制度で会社を辞めたが、再就職先の話が宙に浮いてしまった、大手電機メーカー課長の平田。上司にセクハラを受け、やむなく退職した春名さち子。高校中退、転職歴無数、ようやく落ち着いた印刷会社は社長が夜逃げ、バッグ一つで大阪から上京してきた長吉。そんな三人が出会って考えた。自分たちで会社を作り、いろいろなアイデアを売り込もう。しかし…。抱腹絶倒、長篇ユーモア小説。書下し。
満ち足りた生活を送っていたリビーの幸せは、ある日突然悪夢へと変わった。夫殺しの罪を着せられ服役。最愛の息子マティとも連絡が取れなくなった。失意の刑務所暮らしの中、やがて彼女は自分を陥れた陰謀に気づき決意する。“罪にならない殺人”で復讐を遂げ、息子を取り戻す…。リビーの長く、孤独な闘いが始まった。ドラマティック・サスペンスの傑作。
アーノルドはブランチとの新婚旅行の最中にアンから衝撃的な手紙を受け取ることになる。それは彼ら三人が知らずに陥ってしまった悲劇的な事態を告げるものだった。サー・パトリックに彼らを救うことが出来るのか。そして、ジェフリーはレースで勝利を収めるのか。不気味な料理人ヘスターの再登場は何を意味するのか。物語は意外な展開を経て衝撃的な結末に至る。コリンズ最盛期の気力溢れる傑作娯楽小説の完結編。
「憧れを知る者のみが、わが悲しみを知る」ミニヨン竪琴弾きの哀切を帯びた歌の調べ。『ハムレット』上演を機に、ヴィルヘルムは演劇の世界について様々に思いを巡らせる。本巻には作全体に豊かな厚みを与え、一収束点をも成す「美わしき魂の告白」を収録。