2002年2月15日発売
『修業時代』の続篇である本書は、「諦念」を主題とした、ゲーテ(一七四九ー一八三二)最晩年の豊かな英知に満ちた作品である。主筋に数篇の挿話と二つのアフォリズム群をはめこんだ独特のスタイルを持ち、底知れぬスケールを感じさせる「大作」である。新訳。
紺屋の大店の末娘おたえは、幼くして両親を亡くし、叔父の店で育った。奉公人の弥吉は、五つ年上の型付け職人。いい仲になった二人を、叔父は夫婦養子にと考えていたのだが…。ささやかな幸せを求め健気に生きている、そんな女の一途な想いを情感溢れる筆致で細やかに描いた、珠玉の時代小説七篇を収録。
兼務寺の再建計画に伴う一億円の寄付。僧理洲は先物取引に溺れた自身の放埓な青年時代、「気」の力を知った厳しい修行時代を思い出していた。…再建が始まり、今度は見知らぬ人物から一円玉ばかりの高額の寄付が送られてくる。現役僧侶が描く人間とお金の物語。
母親が死んだ今、ビルの収入はまったくゼロになってしまった。母の死を届け出ず、死体を寝室に隠すところまでは知恵がまわったが、送られてくる年金の小切手を換金することが出来ないのでは、まったく同じことだ。もはや母親が溜め込んでいた食糧も底をつき、どうにもならない瀬戸際まで追い込まれていた。そこでビルが思いついたのは強盗だった。遊び仲間二人をさそって、手近な屋台を襲い、売り上げ金をいただくのだ。だが、やはりと言うべきか、襲撃は失敗に終わった。うろたえた仲間が店員を射殺してしまい、警察に追われて逃走中に起こした事故で仲間の一人は死に、金は沼に沈んだ。逃げ込んだ沼地ではもう一人が蛇に噛まれて死に、追ってきた警官も銃の暴発で命を落とし、ビル自身も虫の大群に襲われる。半死半生で沼地を抜け出したビルは、旅回りのカーニバルに拾われた。だがそこで暮らしていたのは、いままで考えたこともないような連中だった。やむなくそこへ身を隠し、彼らと生活を共にしながら逃亡を決意するビルだが、やがて…『ボトムズ』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を獲得したランズデールのパワーが全開された会心作。
小学校の問題児ティモシーは、いつも突飛なものになりきってしまう。特に彼が狼男になっている時は警戒が必要だ。先生のたび重なる注意も聞かず、彼は女の子に噛みつき、学校は大パニックに…思いこみの激しい少年が引き起こす珍騒動を描く表題作。少年時代の記憶に捕われ、自分は幼児性愛者なのではないかと恐れる教育書の作家が、愛娘の教育に右往左往する姿が滑稽な「グリーンの本」。失業、破産、離婚と重なり自棄になったエディは、別れた妻の祖母から宝石箱を騙し取ろうと企み、家に行った。ところが老婆のとまらない思い出話を聞かされたあげく、一泊するはめに…思うように事が運ばずあせる男に意外な結末が待ちうける「ミセス・ボックス」。家族の人間関係のほころびを繕おうと奮闘する人人の姿が、皮肉な笑いを誘う。現代アメリカを代表する作家の粒ぞろいの9篇。