2002年4月10日発売
征台の気運が高まる明治七年、大久保利通は政府内の反対を押し切り清国へ渡る。実権を握る李鴻章を故意に無視して北京へ入った大久保は、五十日に及ぶ滞在の末、ついに平和的解決の糸口をつかむ。一方西郷従道率いる三千人の征台部隊は清との戦闘開始を待ち望んでいた。大久保の処置は兵士達の失望と不満を生む。
台湾撤兵以後、全国的に慢性化している士族の反乱気分を、政府は抑えかねていた。鹿児島の私学校の潰滅を狙う政府は、その戦略として前原一誠を頭目とする長州人集団を潰そうとする。川路利良が放つ密偵は萩において前原を牽制した。しかし、士族の蜂起は熊本の方が早かった。明治九年、神風連ノ乱である。
敗戦後、信介は恐るべき陰謀を知る。占領軍が「忌むべき過去」を断ち切るべく、日本語のローマ字化を図っているのだ。戦時下の日本人を支えたのは国家ではなく、「国のことば」ではなかったか。未曾有の危機に七人の名花・東京セブンローズが立ち向かう。国敗れて国語あり。末長く読みつがれる名編、堂々の完結。
東吾が花世や源太郎を伴って出かけた宝船祭で、村の幼児がさらわれた。時を同じくして、旅篭「かわせみ」に逗留していた名主の嫁が失踪。二つの事件を結びつける手がかりは、奇しくも二十年前の同じ宝船祭で起こった子さらいなのか…。表題作ほか、「冬鳥の恋」「神明ノ原の血闘」「大力お石」「大山まいり」など全八篇を収録。
不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけではない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。
「腕を一本、芋の根元に埋めてくれ」大教団幹部の伯父から託された奇妙な遺言。謎の答えは遠い異国の大自然に埋もれていた。衝撃的な事実が神秘の世界を呼び起こす表題作ほか、幼児虐待の不気味さを描く「コンクリートの巣」など、別世界へ扉を開けてしまつた孤独な現代人の心の闇に迫る六つの幻想短篇集。
新宿区内でOLの他殺死体が発見された。女は勤務する新宿中央信用金庫の理事長萩原の愛人だった。事件を知って執拗に萩原をつけ回す迷彩服姿の不気味な男がいた。歌舞伎町分室の警視ムラマサは、男がかつてあと一歩のところで海外逃亡を許した殺人鬼梶応毅ではないかと直感した。傭兵経験もある梶応なら歌舞伎町にまた血の雨が降る-ムラマサの想像はすぐに現実のものとなった…。圧倒的迫力のハード・サスペンス。