2002年5月10日発売
一八七九年、当代きってのフランスの人気作家ボアゴベによって書かれた『鉄仮面』は、日本に於ても明治の黒岩涙香の翻訳以来、広く親しく読み継がれてきた。居酒屋“破れ絹”亭で密議をこらす青年貴族モリスと恋人ヴァンダ。ルイ十四世に対する謀反の計画に叛乱の騎士達が集結する。罠に堕ちたモリスの運命は、謎の鉄仮面の行方は…。フランス語原典による初の完訳の文庫化。上下二巻。
酒と食をこよなく愛し、中国各地に美味佳肴を探訪する英文学者・でふ氏こと南蝶氏は、敬愛する恩師の喜寿を祝って大宴会を企画。八年前に催した「満漢全席」に続き、南宋宮廷の名高い祝宴「寿宴」を再現しようという未だかつてない試みだ。押し寄せる不況の波を振り切って、でふ氏一行は食都・杭州へ飛んだー。「満漢全席」では飽き足らない!南宋皇帝の伝説の大宴がよみがえる知られざる美味の世界へご招待。
自分が誰なのか確認するために、まわりのすべてを数え続ける少年・ヒロキ。その笑顔は十歳にして一切の他者を拒絶していた!マコトは複雑に絡んだ誘拐事件に巻きこまれていくが…。池袋の街を疾走する若く、鋭く、危険な青春。爽快なリズム感あふれる新世代ストリートミステリー、絶好調第2弾。
2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界の注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が始まったー。壮大な規模で現代日本の絶望と希望を描く傑作長編。
初夏の風物に賑わう江戸に辻斬りが出没した。一撃で獲物を仕留め、目撃者が語る異様な風貌から、辻斬りは“天狗”ではないかと噂が立つ。被害者に共通する特殊な刺し傷、女が消える廻船問屋など、初めて遭遇する奇怪な出来事に、南町奉行所のはみだし同心・祖式弦一郎の気は騒ぐ。不死身の敵に独り向かう、人気捕物帳第五弾。
「心に決めてたんです…わたし、郷さんの娼婦になるって」25年ぶりに再会した中年男女の激しく一途に燃える愛。汲めども尽きぬ恋心と、逢瀬を重ねるたびに増してゆく肉の悲しみを、著者渾身の熱い文体で描き、第35回谷崎潤一郎賞を受賞。すべての現実感が消えるほどの「結晶のような」透明な恋の物語。
古美術でひと儲けをたくらむ男たちの騙しあいに容赦はない。入札目録の図版さしかえ、水墨画を薄く剥いで二枚にする相剥本、ブロンズ彫像の分割線のチェック、あらゆる手段を用いて贋作づくりに励む男たちの姿は、ある種感動的ともいえる。はたして「茶釜」に狸の足は生えるのか?古美術ミステリーの傑作。
三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行った。誰もいない部屋に転がる不愉快きわまりない金属の大黒、今日こそ捨ててこますー日本にパンクを実在させた町田康が文学の新世紀を切り拓き、作家としても熱狂的な支持を得た鮮烈のデビュー作、待望の文庫化。
火星に憧れる高校生だったぼくは、現在は新聞社の科学部担当記者。過激派のミサイル爆発事件の取材で同期の女性記者を手伝ううち、高校時代の天文部ロケット班の仲間の影に気づく。非合法ロケットの打ち上げと事件は関係があるのか。ライトミステリーの筋立てで宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた青春小説。第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞のデビュー作。
熊本、萩における士族の蜂起をただちに鎮圧した政府は、鹿児島への警戒を怠らなかった。殊に大警視川路利良の鹿児島私学校に対する牽制はすさまじい。川路に命を受けた密偵が西郷の暗殺を図っているー風聞が私学校に伝わった。明治十年二月六日、私学校本局では対政府挙兵の決議がなされた。大久保利通の衝撃は大きかった…。
明治十年二月十七日、薩軍は鹿児島を出発、熊本城めざして進軍する。西郷隆盛にとって妻子との永別の日であった。迎える熊本鎮台司令長官谷干城は篭城を決意、援軍到着を待った。戦闘は開始された。「熊本城など青竹一本でたたき割る」勢いの薩軍に、綿密な作戦など存在しなかった。圧倒的な士気で城を攻めたてた。