2002年6月発売
秀吉には天下統一、世継問題に重要な鍵を握っていた知られざる名参謀がいた。甲賀出身で比叡山に学び、医術の師・曲直瀬道三を踏み台に豊臣政権の中枢に食い込み、秀吉の筆頭侍医となった施薬院全宗ー竹中半兵衛、黒田如水、石田三成等の名だたる側近の中でも異彩をはなった男の野心と生涯、群雄割拠の乱世を見事に描ききった傑作長編、初の文庫化。
はじまりはN国・T地方・Y県の通学列車。不良高校生の些細な喧嘩がなぜヤクザを巻き込む全面抗争にまで暴走したのか?あの“戦争”から数年後、執拗に真相を追う青年の姿は、あたかも探偵であり、暗号解読者であり、哲学者であり、そして小説家でもあり…。世界の激動に曝され、迷走する日本を鋭く転写する「ABC戦争」他、文学の最先端で闘い続ける著者の初期ベスト作品。
ありふれた日常の裏側で増殖し、出口を求めて蠢く幻想の行き着く果ては…。巨大地震が引き起こす食糧危機、老女の心の中で育まれた介護ロボットへの偏愛、摂食障害のために限りなく肥満していく女、豚の世話だけに熱中する孤独な少年の心の爆発ー。抑圧された情念が臨界まで膨れ上がり、過剰な暴力となって襲いかかる瞬間を描いた戦慄の七篇。
「私の笑顔は呪われているんです」。過去の悲劇に囚われたまま、笑顔を封印した一人の女。保母でありながら子供たちに笑みを見せられない彼女にまたしても事件が…。ハーフリース保育園を舞台にした園児誘拐事件。犯人から現金運搬役に指名された彼女は、幼児図書の営業マン・次郎丸諒、保母の桜沢みどりらの助けを借りて、すべての悲しみの源に突きあたる。
志を継ぐ者の炎は消えず。曹真を大将軍とする三十万の魏軍の進攻に対し、諸葛亮孔明率いる蜀軍は、迎撃の陣を南鄭に構えた。先鋒を退け、緒戦を制した蜀軍だったが、長雨に両軍撤退を余儀なくされる。蜀の存亡を賭け、魏への侵攻に『漢』の旗を掲げる孔明。長安を死守すべく、魏の運命を背負う司馬懿。そして、時代を生き抜いた馬超、爰京は、戦いの果てに何を見るのか。壮大な叙事詩の幕が厳かに降りる。北方「三国志」堂々の完結。
江戸を高波が襲った夜、人気絵師・喜多川歌麿の女房が惨殺された。歌麿の絵に込められた風刺を憎む幕閣から妨害されながらも、事件の真相を追う同心・仙波の前に、やがて明らかとなる黒幕の正体と、あまりに意外な歌麿のもう一つの顔とは!?浮世絵研究の泰斗でもある著者が、満を持して放つ傑作時代小説。
中学生の珠子の前に、ある日、突然現れたグランパ(祖父)はなんと刑務所帰りだった。だが、侠気あふれるグランパは、町の人からは慕われ、珠子や家族をめぐる問題を次々と解決していく。そしてグランパの秘密を知った珠子に大事件が襲いかかる。「時をかける少女」以来、待望のジュブナイル。読売文学賞受賞作。
私立探偵・橋本が受けたある依頼ー。それは、2年前に突然引退した女優・白石由加里を捜すこと。簡単に居場所を見つけ出した橋本は、由加里の部屋で話をするうちに意識を失う。病院で目覚めた橋本は驚愕の事実を知らされた。由加里は死んでいたのだ。無理心中の疑いをかけられた探偵を助けるため、十津川警部が立ち上がる。
拝郷鏡三郎は、もと勘定方で将来を属望されていた役人だったが、いささかの仔細あって、クビとなる。“しくじり鏡三郎”と呼ばれることもあるが、今ではかつての上司の尽力のかいあって八丁堀近くの大番屋の元締として再就職を果す。仮牢兼調所でもある大番屋では、町方から武士まで、あらゆる相談事がいつも持ち込まれる。
大番屋元締の拝郷鏡三郎の許には、町方の怪事件から老中の心配事まで相談事が持ち込まれる。鮮かに解決する鏡三郎の評判はあがり、遂には将軍から、ある難問を持ち込まれたー最近、長崎での交易が不振となり、赤字が続くようになっている。どうやら、陰に薩摩藩の存在があるらしい。長崎へ向う鏡三郎を待ち受けるものは…。
排気量2000ccの改造バイクを愛する売れない物書きのジョー。新興宗教団体に麻薬で縛られた知人を助けるため、絶世の美女にして空手の有段者である律子とともに、東京から丹後半島までバイクで駆け抜け、教祖と対峙する。性と麻薬と宗教を描いた長篇ハードボイルド。
熊本をめざして進軍する政府軍を薩軍は田原坂で迎えた。ここで十数日間の激しい攻防戦が続くのである。薩軍は強かった。すさまじい士気に圧倒される政府軍は惨敗を続けた。しかし陸続と大軍を繰り出す政府軍に対し、篠原国幹以下多数の兵を失った薩軍は、銃弾の不足にも悩まされる。薩軍はついに田原坂から後退した…。
薩軍は各地を転戦の末、鹿児島へ帰った。城山に篭る薩兵は三百余人。包囲する七万の政府軍は九月二十四日早朝、総攻撃を開始する。西郷隆盛に続き、桐野利秋、村田新八、別府晋介ら薩軍幹部はそれぞれの生を閉じた。反乱士族を鎮圧した大久保利通もまた翌年、凶刃に斃れ、激動の時代は終熄したのだった。
史実にもとづく伝説“鉄仮面”を題材にした作品のうちボアゴベ原作の本書は、黒岩涙香翻案の原典となった。数々の策謀と冒険の果てに、三十年の歳月を経てもなお罠に堕ちた恋人モリスを捜すヴァンダと腹心の部下たち。バスチーユの牢獄に囚われた鉄仮面の運命は?仮面の下の人物は?いよいよ核心に迫る愛と陰謀渦巻く波瀾万丈の歴史冒険大ロマン、上下二巻完結。
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹、三人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」等五作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。