2002年8月発売
痴呆の老女の心に甦る初恋の少年との幼い遊戯の思い出(「紙」)、祗王寺の庵主の「男」をめぐるすさまじい逸話(「露」)、放浪の僧侶が抱く、さる女性の絹のように豊かな黒髪(「髪」)など、人間の宿業の深さを炙り出す11の物語。なかでも表題作の「髪」は寂聴訳「源氏物語」から生まれ、新作能『夢浮橋』として上演され評判を呼んだ作品。煩悩を照らし、光明を見いだす短編集。
深川の長寿庵の主人であり、源三郎の下で岡っ引を長年つとめてきた長助が、お上から褒賞を受けた。町内あげてのお祭騒ぎの中、取り残されたように、一人ぼんやり店番をする女房おえい。が、そのおえいが気になる人物を見かけ、目の前で思わぬ事件がおこる。表題作ほか、「千手観音の謎」「嫁入り舟」「唐獅子の産着」など全八篇。
真珠のように美しく気高い、男爵の娘・瑠璃子は、子爵の息子・直也と潔い交際をしていた。が、家の借金と名誉のため、成金である勝平の妻に。体を許さぬうちに勝平も死に、未亡人となった瑠璃子。サロンに集う男たちを弄び、孔雀のように嫣然と微笑む妖婦と化した彼女の心の内とは。話題騒然のTVドラマの原作。
作家としての行き詰まりを感じていた孝夫は、医者である妻・美智子が心の病を得たのを機に、故郷の信州へ戻ることにした。山里の美しい村でふたりが出会ったのは、村人の霊を祀る「阿弥陀堂」に暮らす老婆、難病とたたかいながら明るく生きる娘。静かな時の流れと豊かな自然のなかでふたりが見つけたものとは…。
新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。
「紫木一姫って生徒を学園から救い出すのが、今回のあたしのお仕事」「救い出すって…まるで学園がその娘を拘禁してるみたいな言い方ですね」人類最強の請負人、哀川潤から舞い込んだ奇妙な依頼に従って私立澄百合学園、またの名を“首吊高校”に潜入した「ぼく」こと“戯言遣い・いーちゃん”は恐るべき殺戮の嵐に巻き込まれるー。新青春エンタの真打ち、「戯言シリーズ」。
見つめあい、探りあい、やがて笑いだした彼らの瞳に少年らしい光が宿った。一瞬先のことなんて誰にもわからない。わずか1.4秒後のことですら。だからこそわくわくするし、駆け足でそれを確かめに行きたくなる。水泳競技「飛込み」。学園生活を送りながらダイビングクラブに通い、オリンピックをめざしはじめた少年ダイバーたちをドラマチックに描くスポ根シリーズ最終巻。
おなごとして生を享けながら、武家の嫡男として育てられた南条貞季。戦に生き、おなごを愛し、ひたすらに剛毅なる者を、非情な運命は容赦なく翻弄する。毘沙門天に愛でられし貞季は、夜叉となりて修羅の道を行くー。戦国の世、謙信・信玄の二君に愛されし武士を鮮烈に描く、大型新人の書下ろしデビュー作。
人は過去を振り返ることはできても、未来を予測できない。巨大地震のたびに時を超え、リュウグウノツカイとともに現れる女亜玖梨。海溝の三重交点、浦島伝説、墨子の仙薬、空飛ぶ鉢ー鳥玄坊一派こそが永遠の時を生きる者なのか?十日間電撃作戦の危機が迫るこの国で、不老不死の謎を追う者たちの「未来」は。
作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で「メドゥサを見た」と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死。
地球連邦軍の月面基地に所属する“雷獣”迎撃小隊、通称「脳天気小隊」が遭遇したのは、「?」や「!」や「恥ずかしいもの」に見える不審な物体だった。調査の結果それは、敵対する水星軍の平行宇宙移動探索機マーキュリーと、その意識を言語化する思考装置・迷惑一番であることが判明。だがそのあまりにも御都合主義的なプロジェクトにより、脳天気小隊の5名は平行宇宙へと飛ばされてしまう…。初期傑作、待望の復刊。