2002年発売
「ぼくは行くよ」と語り手は言う。でも、どこへ?北極へ、南仏へ、なにもないガレージへ。軽やかに錯綜する物語の糸が、やがてその空白の行き先をひとつに絞っていく。災厄を呼ぶ美女と善悪のコミカルな変わり身。エシュノーズの話術がもっともまろやかにブレンドされた、円環するロードムービー小説の快作。ゴンクール賞受賞作。
衰運にむかいつつある映画監督モゲルと青春の盛りに近づきつつある少女ナシマ。“帆船アザール=危険な夢”に我が身を賭けた男と少女を描いて、現代フランス最大の作家が、壮麗なる冒険の世界へ読者を誘う。洞窟で伝説となった男を描く予言的な中篇「アンゴリ・マーラ」所収。
書店のアルバイトとして働くキャル・カニングハムは作家志望の青年。いつの日か傑作をものすることを夢見ているが、小説の素材集めと称して女遊びに興じるばかりでいっこうに筆は進まない。ある日、ルームメートの法学生スチュワートがひそかに小説を書いていることを知ったキャルは、留守中にその原稿を盗み見てしまう。それはキャル自身をモデルにした小説で、まごうことなき傑作だった!ところがその矢先、スチュワートが交通事故で亡くなり、キャルはその原稿を自分の作品と偽って発表する。一躍ベストセラー作家となったキャルだったが、盗作の事実を知る脅迫者が現われた時から、彼の人生は音を立てて崩れていく…。スティーヴン・キングをして「ヒッチコックの最高傑作に比肩するスリラー」と言わしめた、異能の大型新人のデビュー・ノヴェル。
私の人生は17歳から始まった。ある早朝、意識をなくし、傷つき、顔を潰され、全裸で放り出されているのを発見されたのだ。ようやく昏睡状態からさめたとき、私は何も覚えていなかった。自分の名前も、顔も、自分が何をしてきたのかも…15年後。その雑誌を見た時、確信が私を襲った。この男は、私の過去を知っている。写真に写っていたのは、ワイナリーの経営者ジェームズ・マクゲイン。過去を知るため、私は彼のワイナリーに料理人として勤めることにする。やがて、私の正体に気づいたジェームズは、自分の過去を知りたがる私に条件を出す。15年前の真相を知りたければ…それは、性の奴隷として絶対的な服従を強いることだった。拘束、凌辱、調教。ジェームズの要求に限界はなかった。過去を知りたい一心で背徳の世界に踏みこんだ私は、いつしかその虜になっていく。だがその先で私を待っていたのは、あまりにも衝撃的な事件だった!『Mの日記』の官能と衝撃を上回り、モラルの限界を超える、超エロティック・サスペンス。
文化大改革の嵐が吹き荒れる1971年、医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として再教育のため山奥深くに送りこまれた。僕は17歳、羅は18歳だった。厳しい労働に明け暮れるなか、僕らは村に唯一ある仕立屋の美しい娘、小裁縫に恋をした。あるとき僕らは、いまや禁書となっている西欧の小説を友人が隠し持っていることを知る。壮大な愛や冒険の物語に僕らはすっかり夢中になり、これに刺激を受けた羅は、小裁縫にバルザックの小説を語り聞かせる。二人は次第に親密になっていくが、本によって自分たちの運命が大きく変わってしまうとは知らなかった…。在仏中国人作家が自らの青年時代の体験をもとに綴り、世界30カ国で翻訳された話題作。
20年前、町中が甲子園の夢に燃えていた。夢が壊れたとき、捨てたはずの故郷だった。しかし、今。母を亡くした父一人の家に帰ってきた失業中の男と、小学5年の娘。ボストン留学中の妻はメール家族。新しい家族の暮らしがはじまる。懐かしいナインの面々。会いたかった人々。母校野球部のコーチとして、とまどう日々。そして、見つけたのは。
同僚をケチな窃盗犯に射殺され、追跡中に犯人を誤って殺してしまった井川刑事。窃盗犯の上着から、三千万円の情報価値を持つメモリーカードが出てきたとき、彼は警察官であることをやめた。死体を始末し、三千万円を頂く人生を選んだのだ。しかしメモリーカード情報の現金交換可能期限は当日午後七時まで。隅田川の花火大会がまさに始まろうという狂騒の東京向島で、警察とギャングを相手に灼熱狂気の数時間がスタートした。
昭和末期の日本を騒然とさせた、あの名著がいま甦る。 丸の内の東京海上ビルの高さが99.7mに抑えられた理由は? お召し列車運行の際の3原則とは? ヨーロッパでポピュラーな「ミカド」ゲームとは? アメリカ・ミシガン州に「ミカド」という町がある? 欧米では誰もが知っているオペラ「ミカド」とは?「プリンスホテル」が発展してきた陰にあったブランドとしての皇室の意味は?なぜ「御真影」が外国人によって描かれたのか?──いくつもの「?」を解くことで、「近代日本」と「天皇」が鮮やかに見えてくる。妥協を許さない綿密な取材と、世界的視座に立った壮大な考察から導き出される真理の的確さはこれまでの日本論の常識を覆した。昭和62年に大宅壮一賞を受賞。
花菱清太郎が家族全員を巻き込んで始めたのは、レンタル家族派遣業。元大衆演劇役者という経歴と経験を武器に意気揚々と張り切ったものの、浮草稼業に楽はなし。失敗につぐ失敗に、借金がかさみ火の車。やがて住む家すらも失い、かつての義理で旅まわりの大衆演劇の一座に加わることとなったがー。はてさて、一家六人の運命やいかに。
1973年8月8日。滞日中の金大中が白昼のホテルから姿を消した!現場の痕跡が物語るのは、韓国KCIAによる「拉致」。背後には政敵・朴正煕の憎悪の炎が燃え盛っていたー。計画の存在を知りながら看過した警察、事件に関与した元自衛官、米政府の暗躍…。政治決着により真相究明の道を断たれた金大中事件に取材。大胆な発想で、日韓現代史の闇に迫る傑作ノンフィクション・ノヴェル。
死体に書き込まれた意味のない数字…この世を呪う双子の少女…運命を統べる数値を弄び賭博する男…そして、恋人の復讐で連続殺人犯を射殺した刑事・小林洋介の内部に新たに生まれた幾多の人格…。透明な語り部によって刑事・小林洋介の「最後の事件」かつ多重人格探偵・雨宮一彦の「最初の事件」が語られるとき、殺人者へと人を誘うルーシー・モノストーンの歌声がこの世の「真実」を引き裂く。『多重人格探偵サイコ』ワールドのすべてはここからはじまる。
かたくななまでに他人を受け入れようなとしないレンジと、背負った過去の重さゆえに、他人との距離を縮められない吉田。ふたりは、まだ浅い、春の夜に出会った。お互いの存在をそれぞれの心に見いだしつつも、素直になれなくて…。切なさに満ちた恋愛小説。表題作ほか7編を収録。叙情系ファンタスティック作品集。
清朝で五人の皇后を出すという、栄光に包まれた巨大な一族。その末裔で、大伯母に西太后をいただく著者が、清朝崩壊、中華民国成立、国共分裂、中華人民共和国成立さらに文化大革命を経て現代まで、激動の歴史に翻弄される清朝貴族の流転を描く。うつろう時の背後で奏でられるのは「采桑子」の哀切な調べ…西太后の末裔が描く自伝的小説。魯迅文学賞受賞。
許されぬ恋は雨にうち震え、閉じこめられた遙かな思いにライラックは香る。旧き邸によぎる遠い人の面影。革命と動乱はやむことなく、骨肉のあらそいと生死のあわいに京劇の調べはたゆたう。時をこえてひそやかに息づくおさなき日の想い。十四の愛と十四の宿命は、酔うもやるせなく、醒めるもまたやるせない…清朝貴族の斜陽を描く自伝的小説。魯迅文学賞受賞。
閑静な地方都市、Q市。だが大それた犯罪が、市民を街を司法当局を未曾有の大混乱に陥れていた。そこに燦然と現れた乙名探偵、人呼んで“名探偵Z”が人の迷惑省みず、卓越した推理で快刀乱麻と事件を解決する!そんな大活躍をあざ笑うかのように、敢然と闇夜を闊歩し挑戦状を叩きつける名探偵Z最大の強敵“少女怪盗Ψ”!両者の対決は果たして如何ばかりなものであろうか!!不幸にも彼等の巻き起こす大事件担当にされてしまったQ市きっての名捜査官、仙波警部らの心労や如何に。