2002年発売
芥川賞が百一回目を迎えた時、奇しくも時代は昭和から平成へ移り変わった。第百一回から百五回までの六作品と選評・自筆年譜を収録 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 昭和十年に始まった芥川賞が百一回を迎えたのは、日本近代文学の流れによりそうかのように、奇しくも時代が昭和から平成へと移ったときだった。 百回までを収録して好評を博した第一期・第二期十四巻に続き、文藝春秋八十周年記念出版として第三期五巻を刊行する。 第一回配本の第十五巻は新時代の文学の出発点を示す百一回から百五回の六作品、瀧澤美恵子「ネコババのいる町で」、大岡玲「表層生活」、辻原登「村の名前」、小川洋子「妊娠カレンダー」、辺見庸「自動起床装置」、荻野アンナ「背負い水」。既刊同様、選評、受賞者のことば、自筆年譜を併載。(文藝春秋)
征台の気運が高まる明治七年、大久保利通は政府内の反対を押し切り清国へ渡る。実権を握る李鴻章を故意に無視して北京へ入った大久保は、五十日に及ぶ滞在の末、ついに平和的解決の糸口をつかむ。一方西郷従道率いる三千人の征台部隊は清との戦闘開始を待ち望んでいた。大久保の処置は兵士達の失望と不満を生む。
台湾撤兵以後、全国的に慢性化している士族の反乱気分を、政府は抑えかねていた。鹿児島の私学校の潰滅を狙う政府は、その戦略として前原一誠を頭目とする長州人集団を潰そうとする。川路利良が放つ密偵は萩において前原を牽制した。しかし、士族の蜂起は熊本の方が早かった。明治九年、神風連ノ乱である。
敗戦後、信介は恐るべき陰謀を知る。占領軍が「忌むべき過去」を断ち切るべく、日本語のローマ字化を図っているのだ。戦時下の日本人を支えたのは国家ではなく、「国のことば」ではなかったか。未曾有の危機に七人の名花・東京セブンローズが立ち向かう。国敗れて国語あり。末長く読みつがれる名編、堂々の完結。
東吾が花世や源太郎を伴って出かけた宝船祭で、村の幼児がさらわれた。時を同じくして、旅篭「かわせみ」に逗留していた名主の嫁が失踪。二つの事件を結びつける手がかりは、奇しくも二十年前の同じ宝船祭で起こった子さらいなのか…。表題作ほか、「冬鳥の恋」「神明ノ原の血闘」「大力お石」「大山まいり」など全八篇を収録。
不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけではない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。
「腕を一本、芋の根元に埋めてくれ」大教団幹部の伯父から託された奇妙な遺言。謎の答えは遠い異国の大自然に埋もれていた。衝撃的な事実が神秘の世界を呼び起こす表題作ほか、幼児虐待の不気味さを描く「コンクリートの巣」など、別世界へ扉を開けてしまつた孤独な現代人の心の闇に迫る六つの幻想短篇集。
新宿区内でOLの他殺死体が発見された。女は勤務する新宿中央信用金庫の理事長萩原の愛人だった。事件を知って執拗に萩原をつけ回す迷彩服姿の不気味な男がいた。歌舞伎町分室の警視ムラマサは、男がかつてあと一歩のところで海外逃亡を許した殺人鬼梶応毅ではないかと直感した。傭兵経験もある梶応なら歌舞伎町にまた血の雨が降る-ムラマサの想像はすぐに現実のものとなった…。圧倒的迫力のハード・サスペンス。
駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチル。奇妙な同棲生活が始まった?。書き下ろし小説。
転職二十回。十四歳で留学したアメリカでは奴隷に売られ、日本では相場師から首相までを経験した高橋是清。昭和初期の金融恐慌を鎮めるなど蔵相七回をつとめた不世出の政治家は後に、二・二六事件に倒れる。労苦と挫折を糧に卓越した人間観と金融政策で日本の危機を何度も乗りきった男は何を優先し、どう決断したか。渾身の力作評伝。
開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに30年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。20世紀最高のミステリを1100ページ超の全1冊で贈る!
幸せ一杯の結婚式場に突然死体が降ってきた。空には巨大な翼と人間の顔をもつ異形の影が。奇怪な事件に大喜びで着手したのは、超美人にして性悪、乱暴、史上最強の公僕・薬師寺涼子警視である。国家機密も周囲の迷惑も一切無視、疑惑の渦中へズカズカ土足で踏み込んでいく。『魔天楼』に続くシリーズ第二弾。
騙し騙され、一攫千金を狙っては燻り続ける男たち。関西アンダーグラウンド世界に蠢く悪党どもが、シノギを削って繰り広げる暗躍死闘を活き活きと描く。悪事の手際、会話の一言、仕種の細部にまで行き渡った、痺れるほどの緊張感とリアリティ。極上のピカレスク・ハードボイルド、9編を収録した傑作集。
南極大陸に突如出現した超空間通路によって、地球への侵攻を開始した未知の異星体「ジャム」。反撃を開始した人類は、「通路」の彼方に存在する惑星フェアリイに実戦組織FAFを派遣した。戦術戦闘電子偵察機・雪風とともに、孤独な戦いを続ける特殊戦の深井零。その任務は、味方を犠牲にしてでも敵の情報を持ち帰るという非情かつ冷徹なものだったー。発表から20年、緻密な加筆訂正と新解説・新装幀でおくる改訂新版。
少女の死体は、夕暮れの湖畔に流れついた。パラダイス署の者たちは死体を見るのをいやがった。水に長く漬かっていた死体は不愉快なものだ。やむなく死体を検分したジェッシイ・ストーン署長は、少女の耳の後ろの弾痕に気づく。何者かが少女を射殺し、死体を湖に投げ込んだのだ。少女の身元はなかなか判明しなかった。湖畔で発見された指輪を手がかりに、ようやくジェッシイたちは少女がこの夏、ハイ・スクールを中退したビリイであることを突き止めた。だが、ビリイの家をたずねたジェッシイに母親は告げる。「うちにはビリイという娘はいません」家族に見放され、家出同然に大都会ボストンへ出た少女に、いったい何があったのか?警察署長ジェッシイ・ストーンの推理と調査が、大都会の暗部に迫る。巨匠パーカーが贈る、男気満載のシリーズ最新作。