2003年1月発売
藍子叔母は、いつも物憂げで無関心で孤独だった。まるで、心の内部に暗くて深い裂け目が横たわっているかのように。ふとしたきっかけで叔母の謎多き過去を調べるようになった私は、叔母の旧友という老婦人から、古ぼけた八ミリフィルムを見せられた。そして、その中に写し撮られていたのは、初々しく、朗らかで、健康的な美しさを持つ、女学生時代の叔母の姿だった。いったい何が叔母を変えたのか。香気あふれる文芸ミステリー。
三十三歳の若さで、ゲームソフト業界の雄にのし上がった日系人経営者、デービッド・イマキタは、ひょんなことから“謎の美女”クロエ・デュボワと出逢う。彼女はじつは、自社のCGアニメキャラのモデルだった。デービッドの日本式豪邸で、出張先の東京で、本番ショークラブで、次々と明かされる彼女の秘められた過去…。そして事故によるクロエの記憶喪失。デービッドは戸惑い、魅せられながら、しだいに彼女の壮絶な世界に…。
セックスを謳歌する娘・レイチェル。悦楽の知恵にかけては経験豊富な母・リズ。自分のルーツ探しに執心するアメリカ人大富豪・ロバートとの仕事の契約成立を目指し、母はスコットランドへ。また娘は、ロバートの祖先の家系調査を依頼され、奮闘する。女の武器を最大限に利用する母娘。そして、レイチェルが大英図書館で探し当てたロバートの祖先の日記。読み進むうちにレイチェルは、その堕落と退廃に満ちたセックスの虜に…。
頭の上に猿がいる。話しかければクーと鳴き、からかえば一人前に怒りもする。お前はいったい何者だー。近所の仲間と茶飲み話をするだけの平凡な老後をおくっていた作次。だが、突然あらわれた猿との奇妙な「共同生活」がはじまる。きっかけは、同居する嫁にほのかな恋情を抱いたことだった…。老いのやるせなさ、そして生の哀しみと可笑しさを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作品。
男は剣を揮っていた。黒髪は乱れ日に灼けた逞しい長身のあちこちに返り血が飛んでいる。孤立無援の男が今まさに凶刃に倒れようとしたその時、助太刀を申し出たのは十二、三と見える少年であった…。二人の孤独な戦士の邂逅が、一国を、そして大陸全土の運命を変えていくー。
東急世田谷線上町駅近くのマンションで起きた29歳の既婚女性墜死事件は、自殺の様相を濃くしていた。世田谷中央署の蔵前一郎刑事の相談を受けた元警視庁警視の父親は、自分が被害者の恩師に成りすますことを提案。頼りない息子に指図しながら捜査を進めるうち、同じマンション内の意外な交友関係が浮上する…(「三か四か」)。など、私鉄沿線在住の人間たちの錯綜した関係が織りなす六つの事件。
大手都市銀行の次長職から地方銀行の庶務行員となった恋窪商太郎。駐車場の整理とフロア案内の傍ら、融資に悩む後輩社員へアドバイスする…そんな日々に、以前より「人間らしさ」を取り戻した恋窪だったが-。「正義」を求めたばかりに組織を弾き出された男が、大銀行の闇に再び立ち向かう!メガバンクの内幕と、地方銀行の実情を描ききる銀行ミステリーの傑作。
西暦2111年、第三次大戦下の地球。アメリカの挑発に乗ったロシアは、戦乱を終わらせるため戦略核兵器軍による大陸弾道ミサイル発射に踏み切る。それは、アメリカの描いた地球破壊のシナリオ通りだった…。宇宙ステーション「きぼう」に所属するシャトルから、日本列島が消滅する様子を五人のクルーが見つめていた。彼らにはもはや帰るべき場所は存在しなかった。彼らにできることは、核兵器のない世界を実現するため、後戻り不可能な時空移動の旅を実行することだった。石原莞爾、米内光政、山本五十六、東条英機らを巻き込んだ新たなる楽園を築くための戦いの先に待ち受ける未来は。