2003年1月発売
戦国の梟雄・松永弾正は、主君三好家の美姫・右京太夫に邪恋を抱いた。そして己が欲望を成就せんと、幻術師・果心居士配下の根来僧七人に催淫剤を作るための美女狩りを命じた。淫石と呼ばれるこの媚薬を口にした女人は、男に対して本心を失い、一匹の淫獣と化すという。犠牲となったのは伊賀忍者・笛吹城太郎の妻・篝火であった。操を守って自決したものの、死んだ体を根来僧に犯され、さらに弾正の妾と首だけすげ替えられた。慟哭し、半狂乱の城太郎は怒りを胸に復讐を誓うが…。伊賀忍法と根来忍法の血みどろの戦いを描く、風太郎忍法帖の代表作。
精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる…。正常と異常の境界とは、「治す」ということとはどういうことなのか?七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。
男は剣を揮っていた。黒髪は乱れ日に灼けた逞しい長身のあちこちに返り血が飛んでいる。孤立無援の男が今まさに凶刃に倒れようとしたその時、助太刀を申し出たのは十二、三と見える少年であった…。二人の孤独な戦士の邂逅が、一国を、そして大陸全土の運命を変えていくー。
東急世田谷線上町駅近くのマンションで起きた29歳の既婚女性墜死事件は、自殺の様相を濃くしていた。世田谷中央署の蔵前一郎刑事の相談を受けた元警視庁警視の父親は、自分が被害者の恩師に成りすますことを提案。頼りない息子に指図しながら捜査を進めるうち、同じマンション内の意外な交友関係が浮上する…(「三か四か」)。など、私鉄沿線在住の人間たちの錯綜した関係が織りなす六つの事件。
大手都市銀行の次長職から地方銀行の庶務行員となった恋窪商太郎。駐車場の整理とフロア案内の傍ら、融資に悩む後輩社員へアドバイスする…そんな日々に、以前より「人間らしさ」を取り戻した恋窪だったが-。「正義」を求めたばかりに組織を弾き出された男が、大銀行の闇に再び立ち向かう!メガバンクの内幕と、地方銀行の実情を描ききる銀行ミステリーの傑作。
西暦2111年、第三次大戦下の地球。アメリカの挑発に乗ったロシアは、戦乱を終わらせるため戦略核兵器軍による大陸弾道ミサイル発射に踏み切る。それは、アメリカの描いた地球破壊のシナリオ通りだった…。宇宙ステーション「きぼう」に所属するシャトルから、日本列島が消滅する様子を五人のクルーが見つめていた。彼らにはもはや帰るべき場所は存在しなかった。彼らにできることは、核兵器のない世界を実現するため、後戻り不可能な時空移動の旅を実行することだった。石原莞爾、米内光政、山本五十六、東条英機らを巻き込んだ新たなる楽園を築くための戦いの先に待ち受ける未来は。
文公、襄公の相次ぐ死後、覇権争いによりさらに乱れた中国・春秋時代の晋。身を呈し仕えてきた祖国・晋から離れざるを得なかった士会を、新たな時代の風が…。下級の一兵士から名宰相に上りつめた天才的な兵法家の清冽な生涯を描いた傑作歴史巨編。