2003年1月発売
白熱の太陽が眩しい南の島への社員旅行ー上司のお供で桂木が訪れた先は実弾射撃場だ。まだ若い日本人オーナー…引き締まった体躯、猛々しい野生に生きる獣めいた匂いを放つ、その男…柴田との強烈な出会い。そして、射撃場で起きた一つの事件が引き金となって、桂木は柴田から屈辱的で、底なしの愉悦に満ちた一夜をもたらされることに…。しかし、皮肉な運命の悪戯は二人を弄び…。
1914年春、パリで警察署へ放火した容疑で手配されている無政府主義者の青年が、ロンドンで拘束された。身柄引き渡しの裁判が始まるが、青年は弁護士を通してある告発をする。自分をフランスへ引き渡すなら、英国王室の驚くべきスキャンダルを暴露するというのだ。いち早く情報をつかんだランクリン大尉は、ただちにその青年、グローヴァーの弁護士に接触する。やがて入手した「スキャンダル」の中身は-彼は、自分が現英国国王の息子であり、王位の継承者であると言うのだ。若き日の母親が、ポーツマスで海軍勤務だった頃の皇太子と情を通じた証しが自分である、と。しかも、当の母親は息子の言葉を裏付ける手紙を残して、突如失踪していた。ランクリンたちの調査でも、それを否定するような事実は発見されない。では、告発は真実なのか?だとしたら、いったいどんな影響が?国王のフランス公式訪問を間近にひかえ、スキャンダルの可能性に震撼した王宮は、情報局に圧力をかける。何としても真相を探り出し、もしもそれが真実ならば、闇に葬りたい。ランクリンと相棒のオギルロイは、いつもと勝手の違う仕事に戸惑いつつも調査にあたる。だが、グローヴァーとその母親の背後には、フランス無政府主義者たちの影が見え隠れしはじめた…。激動の時代に、誇りのために、そしてまた時には誇りを捨てても、熱く闘う人々の姿を描く、巨匠の渾身作。『スパイの誇り』『誇りへの決別』『誇り高き男たち』に続く冒険スパイ小説シリーズ最新刊。
一九二三年、夏。ハーディング大統領は、遊説先のサンフランシスコで謎の死を遂げた。大統領は生前、「おそろしい秘密を知ってしまったら、きみはどうするかね?」と、誰かれなくもらしては、怯えていたという。暗殺の可能性もささやかれるなか、死亡前夜に大統領が奇術ショウに特別ゲストとして参加していたことから、ショウの直前に大統領と二人きりで打ち合わせを行なった、人気奇術師のカーターに暗殺の嫌疑がかけられる。シークレット・サーヴィスや新聞記者、そして奇術のライバルたちが、カーターの背後関係を洗い始めた。カーターが一介の奇術師から、ショウの真打ちに出世するまでには、あのフーディーニを巻き込み、関係者に死者も出すような、相当あぶない駆け引きがあったらしいが…フーディーニと並び称された実在の大奇術師チャールズ・カーターが仕掛けた、歴史をも動かす最高のイリュージョンとは。
最愛の妻を亡くし、失意の底にあった奇術師カーターにもたらされた二つの救い-一つは、ハーディング大統領から託された秘密で、完成はまだ夢物語とされていたテレビジョンの設計図。もう一つは、盲目の女性フィービとの出会いだった。だがある日、彼がフィービとのデートから帰ると、家が何者かに荒らされていた。賊の狙いは設計図では?カーターは開発を急ぐが、あと一歩のところで設計図を盗まれてしまう。ショウへの投資で破産寸前の彼は、テレビジョンを使った新しいイリュージョンを企画するが…果してテレビジョンの完成はなるか?そして大統領の怪死の謎は?カーターは一世一代の大マジックに挑む!歴史上の謎とされるハーディング大統領の怪死と世紀の発明であるテレビジョンの開発秘話。これに、実在の天才奇術師の波瀾の半生を絡めて、華やかな奇術ショウを背景に描く、エンターテインメント超大作。
「近藤、こいつをおれだと思って持っていってくれ」そう言って、真鍋はスイス製の高価なクロノメーターを突き出した。「おれの代わりにこいつを出撃させてやってくれ。おれたちは一蓮托生だ」九七式艦上攻撃機の乗員である一等飛行兵の近藤(操縦員)、鈴原(電信員)、真鍋(偵察員)の三人は、海軍鹿児島基地での猛訓練を経て、いままさに実戦に臨もうとしていた。出撃命令の下らなかった真鍋を残し、近藤らはオワフ島の北方二百三十海里の海上でハワイ空襲部隊の旗艦・空母『赤城』から飛び立つべく、自機に搭乗した-。昭和十六年十二月八日。若き飛行兵たちを通して真珠湾攻撃のすべてを描く、鳴海章渾身の書下し長篇大作。
ト・ツ・レ“突撃隊形制レ”…。土手っ腹だ、土手っ腹をねらえ!照星、照門が重なり敵艦・ウエストバージニアの中央-ちょうど煙突と煙突の間にぴたりとのった。「射っ」八百三十キロの魚雷を投下した九七式艦上攻撃機は、近藤の意志とはかかわりなく、ふわりと浮かびあがった。「魚雷は?」「走ってます!」鈴原は白い航跡を曳きながら敵艦に向かって真っ直ぐ走る魚雷の姿を捉えた。「右舷甲板に対空砲。鈴原、撃て!」九七艦攻の旋回機銃とウエストバージニアの対空機関砲が真っ向からむきあった。鼻先を薄緑色の曳光弾が唸りをあげる。衝撃波が顔を打つ。鈴原はのけぞり、そのまま側壁にたたきつけられた-。迫真、長く短い真珠湾攻撃の一日。