2003年2月発売
ふいに現れたその老人、国吉彬圀は郷土史家と名乗った。小さなPR会社を経営する俵谷慎介。彼の先祖の廻船問屋が江戸時代に北日本のどこかに隠したという財宝を探しているというのだ。財宝の総額は小判と砂金で百億円!さらに接近してきた国吉の姪の美貌。次第に俵谷も底の見えないゲームの中に巻きこまれて行く。冴える志水節、入魂のハードボイルド。
時は明治期。戊辰戦争の余燼も冷めやらぬ会津の地から、ひとりの若者が上京してきた。五尺に満たない小兵ながら、その天賦の才を講道館創始者嘉納治五郎に見出された彼は、柔道の修業を始める。独自の技「山嵐」を編み出し、講道館四天王のひとりに数え上げられるほどになるが、かねてから夢を馳せていた大陸への渡航を決意する。『姿三四郎』のモデルとなった天才柔術家西郷四郎の壮烈なる半生。
「東京は焼け野原だそうです。自衛隊は一挙にやられたらしい。ああ、なんてばかなことなんだ!日本が世界中の憤懣の捌け口にされようとは。とにかく、大きな町の近くは危険だから、どこかへ避難したほうが」-でも、どこへ?海からも山からも、連合国軍にすっかり包囲されてしまったこの日本列島の、いったいどこへ?予見的問題作。
明治十七年、姫路藩家老のひいさまの身代わりになった少女ミサオと、大志を抱いて留学する青年・光次郎は、神戸からアメリカへ向かう船の上で出逢った。留学後ヨーロッパ貴族へ嫁いだミサオと、実業家として成功への道を歩み始めた光次郎は、再会して惹かれ合い、そして…運命の荒波に翻弄された。感動の大河恋愛小説。
男はこの女の苦難にみちた人生のために。そして女はこの男との壮大な夢のために。たがいに一生をかけ、並んでここまで歩いてきた。ミサオ。自分は彼にそう呼ばれる女となるために、長い日々を航海してきた船だと知った。どうしてずっと一緒にいられないのか、問うてもしかたのない現実に、せめて今は狂わずにいられることだけが救いだった…。壮大な書下ろし大作。
一家心中で一人だけ生き残った少年アルネは、父親の友人一家の新しい家族として迎えられる。けれども運命は彼にとってあまりに過酷だった。北ドイツの港町ハンブルクを舞台に、美しいエルベ河畔の自然の中で、ゆっくりと進行する繊細な魂の悲劇。
焼跡にはじまる青春の喪失と解放の記憶。戦後を放浪しつづける著者が、戦争の悲惨な極限に生まれえた非現実の愛とその終りを“8月15日”に集約して描く万人のための、鎮魂の童話集。
成瀬和樹はスナックからの帰り道、暴力団風の男に拉致されかけた美女を救った。彼女は大手食品メーカーの常務秘書だった。襲われた理由は、勤務先の食肉不正にからんだ内部告発をめぐってのトラブルのようだった。金づるになるとにらんだ成瀬は、元全共闘の活動家だった磯村と調査を開始する。二人は、不正をかぎつけては口止め料をせしめるのを生業としていたのだ。だが、その食品メーカーが突然倒産してしまった…。
本書は、J.R.R.トールキンの壮大なファンタジー『指輪物語』の9人の旅の仲間がたどった道筋を、詳細な地図で再現したものである。その数は実に51枚にも及ぶ。熱烈な『指輪物語』のファンだった著者のバーバラ・ストレイチーは、トールキンの手になる地図以外に、より詳しい地図を、長い間待ち望んだ。そしてとうとう、自らこの困難な作業に挑むことにした。その結果、あの「中つ国」が、私たちの目の前に完全で鮮明な姿で立ち現れることとなった。また地図には、フロドたちがナズグルから身を隠した場所、食事をした場所、野宿をした場所…に至るまでが記されている。日本語版では、巻末に地図索引をつけた。『指輪物語』本編の場面がどのような地形になっているのか、すぐに見つけやすいように。さらに、訳者によって、指輪の仲間の旅の行程を日を追って詳述する解説が加えられた。物語世界の醍醐味を再び味わう一助になることだろう。
好きな人を思うとき、必ずその思いには別離の予感が寄り添っている。-もし、そうだとしても。書かれているのは、ただ「愛している」ということ。思いきり涙を流してください。新しいベストセラー恋愛小説の誕生です。
毎夜1時間の停電の夜に、ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦ー「停電の夜に」。観光で訪れたインドで、なぜか夫への内緒事をタクシー運転手に打ち明ける妻ー「病気の通訳」。夫婦、家族など親しい関係の中に存在する亀裂を、みずみずしい感性と端麗な文章で表す9編。ピュリツァー賞など著名な文学賞を総なめにした、インド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集。
待っていた。足の震えを寒さのせいにしながら。小霏を殴った袁力という上海マフィアのマンションの前。拳銃は、懐に入っている。小霏は恵と名乗った。雑居ビルの中のクラブ“魔都”。他の女は日本語が下手だった。給料日の夜、小霏は上海の近くの自分の村の話をした。問われて、おれのろくでもない家族や、生い立ちの話をしていた。本名の小霏で呼んでよいといわれた。金。続かなかった。客と店から出てきた小霏を尾けた。金を払わず逃げた客と間違えられ殴られた。小霏も。恐怖。狂犬のような袁力。殺してやる。