2003年発売
明治十七年、姫路藩家老のひいさまの身代わりになった少女ミサオと、大志を抱いて留学する青年・光次郎は、神戸からアメリカへ向かう船の上で出逢った。留学後ヨーロッパ貴族へ嫁いだミサオと、実業家として成功への道を歩み始めた光次郎は、再会して惹かれ合い、そして…運命の荒波に翻弄された。感動の大河恋愛小説。
男はこの女の苦難にみちた人生のために。そして女はこの男との壮大な夢のために。たがいに一生をかけ、並んでここまで歩いてきた。ミサオ。自分は彼にそう呼ばれる女となるために、長い日々を航海してきた船だと知った。どうしてずっと一緒にいられないのか、問うてもしかたのない現実に、せめて今は狂わずにいられることだけが救いだった…。壮大な書下ろし大作。
一家心中で一人だけ生き残った少年アルネは、父親の友人一家の新しい家族として迎えられる。けれども運命は彼にとってあまりに過酷だった。北ドイツの港町ハンブルクを舞台に、美しいエルベ河畔の自然の中で、ゆっくりと進行する繊細な魂の悲劇。
焼跡にはじまる青春の喪失と解放の記憶。戦後を放浪しつづける著者が、戦争の悲惨な極限に生まれえた非現実の愛とその終りを“8月15日”に集約して描く万人のための、鎮魂の童話集。
成瀬和樹はスナックからの帰り道、暴力団風の男に拉致されかけた美女を救った。彼女は大手食品メーカーの常務秘書だった。襲われた理由は、勤務先の食肉不正にからんだ内部告発をめぐってのトラブルのようだった。金づるになるとにらんだ成瀬は、元全共闘の活動家だった磯村と調査を開始する。二人は、不正をかぎつけては口止め料をせしめるのを生業としていたのだ。だが、その食品メーカーが突然倒産してしまった…。
本書は、J.R.R.トールキンの壮大なファンタジー『指輪物語』の9人の旅の仲間がたどった道筋を、詳細な地図で再現したものである。その数は実に51枚にも及ぶ。熱烈な『指輪物語』のファンだった著者のバーバラ・ストレイチーは、トールキンの手になる地図以外に、より詳しい地図を、長い間待ち望んだ。そしてとうとう、自らこの困難な作業に挑むことにした。その結果、あの「中つ国」が、私たちの目の前に完全で鮮明な姿で立ち現れることとなった。また地図には、フロドたちがナズグルから身を隠した場所、食事をした場所、野宿をした場所…に至るまでが記されている。日本語版では、巻末に地図索引をつけた。『指輪物語』本編の場面がどのような地形になっているのか、すぐに見つけやすいように。さらに、訳者によって、指輪の仲間の旅の行程を日を追って詳述する解説が加えられた。物語世界の醍醐味を再び味わう一助になることだろう。
心が温まると同時に涙でいっぱいになる、感涙保証100%の恋愛小説です! これほど哀しくて、幸せな涙を流したことはありますか? 「愛している」という感情をこれほどシンプルに、しかし深く表現した小説は稀有と言えるでしょう。父子家庭に起こる愛の奇跡ーわずか6週間のその奇跡が、父に子に、永遠に生きつづけるかけがえのない心の宝を与えてくれます。アーヴィング、ヴォネガットをこよなく愛し、リリカルだが湿度のない、軽いユーモアを含んだ語り口が、静謐な慈しみに満ちた愛情の物語をあざやかに描き出します。読者の一人一人が心の奥底で共有できる記憶が、この物語にはあるはずです。哀しいけれど幸福な、最高の恋愛小説です。
毎夜1時間の停電の夜に、ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦ー「停電の夜に」。観光で訪れたインドで、なぜか夫への内緒事をタクシー運転手に打ち明ける妻ー「病気の通訳」。夫婦、家族など親しい関係の中に存在する亀裂を、みずみずしい感性と端麗な文章で表す9編。ピュリツァー賞など著名な文学賞を総なめにした、インド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集。
待っていた。足の震えを寒さのせいにしながら。小霏を殴った袁力という上海マフィアのマンションの前。拳銃は、懐に入っている。小霏は恵と名乗った。雑居ビルの中のクラブ“魔都”。他の女は日本語が下手だった。給料日の夜、小霏は上海の近くの自分の村の話をした。問われて、おれのろくでもない家族や、生い立ちの話をしていた。本名の小霏で呼んでよいといわれた。金。続かなかった。客と店から出てきた小霏を尾けた。金を払わず逃げた客と間違えられ殴られた。小霏も。恐怖。狂犬のような袁力。殺してやる。
「中学三年の冬、私は人を殺した」。二十年後の「私」は、忌まわしい事件の動機を振り返るー熱中した走幅跳びもやめてしまい、退屈な受験勉強の日々。不機嫌な教師、いきり立つ同級生、何も喋らずに本ばかり読んでいる父。周囲の空虚さに耐えきれない私は、いつもポケットにナイフを忍ばせていた…。「殺意」の裏に漂う少年期特有の苛立ちと哀しみを描き、波紋を呼んだ初の長編小説。
新世代携帯電話と高速ネットから妄想が続々と吐き出され、“リアリティ”がヤバいほど希薄になった現代ニッポン。昨日は、快楽殺人の犠牲者が夜陰に転がり、ガキたちが覚醒剤を吸う。今日も、大バカ者が超レアなブランド腕時計を命を賭けて万引きし、ストーキングを純愛と誤解する。この国を覆い尽くす狂気を抜群のユーモアとドライブ感で描破し、野間文芸新人賞に輝いた傑作作品集。