2004年10月発売
「この男なら殺せる」-犯罪に心が麻痺した日本人に与えられた、公然と人を殺す「動機」。リストラ、倒産、年間自殺者三万人。追いつめられた人間が日本中に溢れている。喰えないヤクザ十万人。急増する外国人犯罪。凶悪化する少年犯罪。我が子を虐待死させる親たち。そして果てしなく続く警察官犯罪-全ての殺意が一人の男に向けられたとき、五人の警察官の孤独な戦いが始まった!心の暗部を揺さぶり、良心を持つことの意味を問う、警察小説の枠を超えた緊迫のエンターテインメント。
新宿で最も有名な探偵“眠り猫”。俺はその息子だ。金にだらしない親父のせいで、俺はオカマのやってる呑み屋でバイトする羽目に。ある日、店に鷲尾という総会屋が現れた。舎弟・富士丸を引き連れて。そして富士丸は、おもむろに店をぶっ壊し始めたのだった。-確かに俺は奴らの匂いに惹かれた。友情も感じた。だが、俺たちは出会ってはいけなかったんだ。『眠り猫』の興奮再び。
賎ヶ岳の「七本槍」に乗り遅れ、豊臣政権の下で心ならずも官僚派武将の道を歩んでいた大谷刑部は、将来を嘱望されながら突然病に冒される。秀吉の死後、待っていたのは天下分け目の関ヶ原。大谷刑部は光を失った目で、西軍の一方の旗頭として家康の大軍と勝敗を決する戦場に赴いた。豊臣家への忠節、盟友・石田三成への義、そして自らの武断派への夢を賭けた最後の戦がついに幕を開ける。
ひと夏の狂おしく濃密な恋を描く「鶴」。失恋したばかりの女性が経験する一夜の出来事「七夕」。別れた亭主が転がり込んだことからはじまる再生の物語「花伽藍」。別れの余韻が静かに漂う「偽アマント」。未来への祈りにも似た「燦雨」。結婚というルールを超えて結ばれた無垢で生々しい愛の歓びと痛み、そして愛にあぶりだされた孤独を、鮮烈に彩り豊かに描いた珠玉の短編集。
講演家のエージェントをしている初老の男バートは、パトリックという若い男性と運命的な出会いをする。彼は聞くものを魅了する言葉の力をもった講演家ー人々に生きる勇気を与える「言葉の魔術師」だった。バートとパトリック、そして車椅子の少女キャシーとの意外な交流を通して浮かび上がる、生きることの意味とは、生きるために本当に必要なものとは…。
下巻は第3部「1918年」を収録。下巻に至って、多面的な構成、実験的性格が顕になる。1918年は、第1次大戦の終結の年。ドイツ帝国は崩壊へと一気に突き進んで行く。混乱し錯綜する時代像を、詩や戯曲、哲学的論考など、様々な文章形式を駆使し、従来の小説観を突き破る斬新な手法で活写。ヘッセやT・マンなど、文壇に衝撃を走らせた。舞台は、ドイツ西部戦線後方の地方都市。第1部や第2部の主人公など、過去の登場人物たちも時を隔てて登場。多彩な人物が織りなすドラマは、一大曼荼羅図。「夢遊」する人々に、果たして「覚醒」はあるのかー。附録に、ブロッホの文学観を知る一助として、講演「長編小説の世界像」を収録。
クレイジーであればあるほどいい。平凡な人びととありきたりの生活に抵抗する方法、それが「クレイジー」。上海が生んだ世界的大ベストセラー女性作家が描き出す狂気、自由、堕落、色情、優美、欲望…。
幼なじみの万有子と泊は、ごっこ遊びの延長の如き微妙な愛情関係にあったが、それぞれの夫と妻の裏切りの死を契機に…。ふたりを軸に三世代の織りなす人間模様は、過去と今、夢とうつつが混じり合い、愛も性もアモラルな自他の境なき幽明に帰してゆく。デビュー以来、西欧への違和を表現してきた著者が親炙する老子の思想に触発され、生と性の不可解さを前衛的手法で描いた谷崎賞受賞作。
伊丹の新酒を積んで江戸に向かったはずの新酒番船が消息を絶った。その船頭の息子と知り合った「かわせみ」の面々が心配するなか、父親の船頭が生還したとの知らせが。安心したのもつかの間、船頭は、再び海に挑む…。表題作ほか、全七篇を収録。美しい江戸の四季を背景に、人間模様を情緒豊かに描き出す不朽の人気シリーズ。
本所で“狐の嫁入り”騒ぎが頻々とおきている。花嫁行列の駕篭が宙に浮いて、青白い狐火が飛ぶのだとか。捨ててはおけぬと、同心・畝源三郎と神林東吾が真相究明に乗り出した。かわせみの女主人・るいも一役買って…表題作ほか「千鳥が啼いた」など全六篇を収録。江戸の四季、風物、人情を織り込んだ人気シリーズ新装版第六弾。
徳川の世が定まって五十年。秀吉軍に強制連行され、北九州の地に生きた朝鮮人陶工の頭領が亡くなった。すると、ゴッドマザー百婆が「クニの弔いをやるぞ」と宣言して、村中は大騒ぎに。朝鮮式と日本式がことごとくぶつかる。涙と笑いの渦の中、荒れ狂う骨肉の策謀。「哀号!」の叫びが胸に響く歴史物語の傑作。
思えば山ばかり見て暮らしてきた。医学生時代の友人に誘われた、海へ行ってみようか。心の病を得て以来、一人で電車に乗るのは十年ぶりである。旧友の海辺の診療所で過ごす五日間の休暇。朝市の老婆に亡き祖母の顔を見、崖下の洞窟でイワシを焼いて少女と語らう。だが、そこにも…。癒し癒されきれぬ人々の心の内を描いた名作。
夫から逃れ、山あいの別荘に隠れ住む「わたし」が出会った二人。チェンバロ作りの男とその女弟子。深い森に『やさしい訴え』のひそやかな音色が流れる。挫折したピアニスト、酷いかたちで恋人を奪われた女、不実な夫に苦しむ人妻、三者の不思議な関係が織りなす、かぎりなくやさしく、ときに残酷な愛の物語。
次期大統領を目指す上院議員が路上で射殺され、黒人医学生が容疑者として逮捕される。“ゆきずりの殺人”として処理したい検察に対し、“陰謀”のにおいを嗅ぎ取った被告側弁護人アントネッリ。事件の鍵を握る人物から予想をはるかに越える罠の存在を知らされるが…。サスペンス度満点のリーガル・ミステリ。
FBIの重要証人が殺された。四肢麻痺の科学捜査専門家リンカーン・ライムは、「棺の前で踊る男(コフィン・ダンサー)」と呼ばれる殺し屋の逮捕に協力を要請される。巧みな陽動作戦で警察を翻弄するこの男に、ライムは部下を殺された苦い経験がある。今度こそ…ダンサーとライムの知力をつくした闘いが始まる。
殺し屋「コフィン・ダンサー」は執拗に証人の命を狙う。科学捜査専門家リンカーン・ライムは罠を張って待ち構えるが、ダンサーは思いもよらぬところから現れる。その素顔とは。そして四肢麻痺のライムと、その手足となって働くアメリア・サックス巡査の間には愛情が育っていくが…。サックスにダンサーの魔手が迫る。
十六世紀末、朝鮮の役で薩摩軍により日本へ拉致された数十人の朝鮮の民があった。以来四百年、やみがたい望郷の念を抱きながら異国薩摩の地に生き続けた子孫たちの痛哭の詩「故郷忘じがたく候」。他、明治初年に少数で奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」、細川ガラシャの薄幸の生涯「胡桃に酒」を収録。
公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった女だった。なんとなく見えていた景色がせつないほどリアルに動きはじめる。日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描き、芥川賞を受賞した傑作小説。