2004年1月発売
能の名門藤代流の若き後継者・篠芙。神懸かった舞の才能と、たぐい稀なる美貌を持つ彼は、稚い頃より、観月の四長老にその身を捧げ、一度廃絶した藤代流を復興させるための贄となってきた。だが、藤代は異母弟の明煌が襲ぐことになり、篠芙の運命は大きく変わってゆく。男たちに弄ばれ、支配されてきた篠芙が、華麗なる舞の裡に秘めた想いとはー。狂おしい官能の美を描いた至極の愛の物語。
一億円の契約書を待つ、締切直前のオフィス。オーディション中、下剤を盛られた子役の少女。推理力を競い合う大学生。別れを画策する青年実業家。待ち合わせ場所に行き着けない老人。老人の句会仲間の警察OBたち。真夏の東京駅、二七人と一匹の登場人物はそれぞれに、何かが起こる瞬間を待っていた。迫りくるタイムリミット。もつれ合う人々、見知らぬ者同士がすれ違うその一瞬、運命のドミノが次々と倒れてゆく!抱腹絶倒、スピード感溢れるパニックコメディの大傑作。
常巳22歳、腕っぷしが弱く、要領も悪い、お人好しのチンピラヤクザ。器量は悪いが、心やさしい年上の女・順子と同棲しながら、シンナー密売とパチンコでしのぐ毎日。だが、伝説の博徒・腕斬り万治さんの出所を機に、本物の男になろうと心に決める。仁義にあつく、一本筋を通す仁侠道を歩むため、常巳の悪戦苦闘が始まったー。町の片隅で必死に生きる落ちこぼれ達の姿が切なく胸に染みる物語。
オリンピックで華々しい活躍をし、当然プロ入りを期待されたが、ある理由から野球を捨ててしまった投手・藤原雄大。8年後、30歳を過ぎた彼は、突然、ニューヨークのメジャー球団に入団する。あの男ともう一度対戦したい!その悲願のためだけに…。一度は諦めた夢を実現するため、チャレンジする男の生き様を描くスポーツ小説の白眉。第13回小説すばる新人賞受賞作。
死ぬほど愛した男が、逃げてゆく。この愛を失うなら、本当に死のうとすら思ったー。求めれば求めるほど、遠くなる愛、つのる欲望。恋に溺れる女の心と体を描いた表題作「凍った蜜の月」ほか全6篇。からだの内に「月」を抱えて生きる女たちの、どうしようもない思いと、満ちては欠ける「月」のように、はかなく変化する男と女の関係を、エロティックに描いた短篇集。
白い猪になった少年、鳥と魚と蛇の歌を聴く美しい少女、耳に入り込むトカゲ、一糸まとわぬ姿で眠る女教師、薄明を精霊たちが遊弋する。バスクの伝承を背景に、屹立した言語によって拓かれる文学の深奥。
「タウは銀山也」タンガ王ゾラタスに届けられた知らせは、デルフィニアに強奪されたタウ東峰が宝の山だと告げていた。この密告こそ、タンガ挙兵を誘うべくウォルたちが仕掛けた罠であった。しかし、鬨の声はデルフィニア西方、パラストから挙げられる。微妙な均衡を保つ大華三国が、ついに動乱の時を迎えようとしていたー。
いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合ってー。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。
練習場で橋口に声をかけられた江本美和子は、その強引な誘い方に驚くが、結局デートに応じる。一方、阿久津らの捜査から松川と橋口が同一人物であることが判明した。だが被害者の中にかつての恋人、美和子がいるのを知り、阿久津は愕然とする。あのしっかり者の彼女がなぜ…。橋口と被害女性、そして阿久津の心模様を丹念に追い、現代の結婚観を浮き彫りにした傑作サスペンス。
乱歩賞作家渾身のリアリティーあふれる長編銀行ミステリー。「きっちりお返ししてやるさ。この銀行という組織にね」ゼネコンへの巨額不良債権を放棄する一方、中小企業に対しては貸し渋り、貸し剥がし。中小企業の経営者を相手にコツコツと働いてきた現場行員が、私利私欲に凝り固まったエリート頭取に鉄槌を下す。
時は明治末、挿絵画家・野々宮と東北訛りの女中サトは、富士の樹海から地底探検へと旅立った。光る猫、信玄の隠し財宝、謎の宇宙オルガン…。漱石&ヴェルヌの手に汗握るファンタスティックな続編。
匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物-箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞受賞作。
たとえばたとえば。サルスベリの木に惚れられたり。床の間の掛軸から亡友の訪問を受けたり。飼い犬は河瞳と懇意になったり。白木蓮がタツノオトシゴを孕んだり。庭のはずれにマリア様がお出ましになったり。散りぎわの桜が暇乞いに来たり。と、いった次第の本書は、四季おりおりの天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。
舞台は、『灰色の輝ける贈り物』と同じ、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。役立たずで力持の金茶色の犬と少年の、猛吹雪の午後の苦い秘密を描く表題作。ただ一度の交わりの記憶を遺して死んだ恋人を胸に、孤島の灯台を黙々と守る一人の女の生涯。白頭鷲の巣近くに住む孤独な「ゲール語民謡最後の歌手」の物語。灰色の大きな犬の伝説を背負った一族の話。人生の美しさと哀しみに満ちた、完璧な宝石のような8篇。
あの日、それはみんな魔法っぽかった。「人間たちは生きものを殺す。わたしは埋める。ハリネズミや小鳥やカエル、それにカタツムリだって」森で出会った小さな人は言った。
砂漠での甘美で衝撃的な出会いから1年ー。愛しきひと…誇り高き青の戦士、トゥアレグ族のミカルとともに再びパリ〜ダカールラリーに挑んだ海。砂漠を知り尽くした頼もしいナビゲーターを得て、順調にゴールを目指していた矢先、そのミカルが突然に姿を消してしまい…!そんな時、呆然とする海に救いの手を差し伸べたのがミカルの双子の弟、ジブリールだった…。
憧れのレコード会社に就職でき、張りきる真言だったが…配属先はなんと苦手なクラシック部門、しかも超傲慢で気難しく、おまけに物凄い経歴の新鋭ピアニスト、曽我部の担当ディレクターにさせられてしまい…。最初の打ち合わせからぶつかり、険悪ムード漂うふたり。だが、独奏会の夜、真言は初めて目にする曽我部の華麗な指先にすっかり魅せられてしまった…。