2005年10月発売
西日を追うようにして辿り着いた北九州の町、若い母と十歳の「僕」が身を寄せ合うところへ、ふらりと「てこじい」が現れた。無頼の限りを尽くした祖父。六畳の端にうずくまって動かない。どっさり秘密を抱えて。秘密?てこじいばかりではない、母もまた…。よじれた心模様は、やがて最も美しいラストを迎える。
若くして父となったかれは生活のため配電工となった。都市生活者の現実に直面するうち三人の子供の父となり、妻はすでに子供たちのものになってしまった。今日も短絡事故(ショート・サーキット)が起こり、現場にかけつけるー。野間文芸新人賞受賞の表題作に、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「木を接ぐ」をはじめ、働くということ、生きるということをつきつめた瑞々しい初期作品5篇を収録。
34歳フリーター、「タマシイのない仕事はしたくない」と、年下の同棲相手は失業中。エアコンは壊れ、生活費の負担は増えていく。どんづまりの生活を変えたのは、はたちの男からかかってきた「テキ電」-私はちゃちな恋をした。生き迷う世代を描き、フリーター文学とも呼ばれた著者の転換点となった傑作。
「もしやあの男ー本気だったか」。不可解な呟きを残し、今度は老師の大西泰全が惨殺された。天下の険の懐深く入り込んだ捜査陣はなす術もない。空しく仙石楼に引き揚げた骨董屋の今川、カメラマンの鳥口、そして文士の関口。そこに待っていたのは京極堂による、典座・桑田常信の「憑物」落としだった。
広大なワイオミング州の自然と家族を愛する猟区管理官ジョー・ピケットはエルクの大量殺戮現場に遭遇。違法ハンターを追い詰めるも、死体で発見する。森林局のキャリアウーマンと好戦的なFBI捜査官は、森でキャンプを張る反政府グループに目を付けるが。新人賞独占のデビュー作を超えたシリーズ最新作。
アンの子どもたちが最も愛する場所“虹の谷”。そこは“炉辺荘”の子どもたちにとって、丘の上に建つ牧師館に着任したメレディス牧師の子どもたちとの、友情の場所だ。村人たちを悩ませる、母親のいない牧師館の子どもたちの行い。やがて“虹の谷”は牧師館一家にとって、新しい愛情の場所となる。
その内部には「啓示空間」があり、驚異の科学技術が隠されているといわれる謎の空間シュラウドからただ一人生還したダン・シルベステは、リサーガム星で異星種族の遺跡を発掘中、その滅亡の原因を解く鍵として、中性子星ハデスを差し示す手がかりを得るが…99万年前の異星種族絶滅の謎、巨大ラム・シップ内の暗闘、中性子星に隠された秘密などを背景に、人類の存亡をかけた戦いをグランドスケールで描く迫真の宇宙SF。
人は理性の許容範囲を越えた出来事に直面したとき、どのように行動するのか?突如、身の毛もよだつ奇怪な生き物が跳梁をはじめたメイン州のある田舎町。住み慣れた町が異形の世界へと変化したとき人々は…本アンソロジー最大のボリュームで描くスティーヴン・キングをはじめ、デニス・エチスン、リサ・タトルらの名匠が築き上げる、おぞましくも魅惑的な異形のモニュメント。恐怖に痺れること必至の五篇の物語を収録。
1968年10月、カリフォルニア州南西部の都市タスティン。オレンジの出荷工場の廃屋で、頭を切り落とされた若い女性の死体が発見され、保安官事務所の部長刑事ニック・ベッカーは現場に急行した。被害者が誰かを知って、ニックは愕然とする。子どもの頃から知っているジャニル・ヴォンだったのだ。愛らしかったジャニル、ミス・タスティンにもなった彼女がなぜ?現場には新聞記者として活躍するニックの弟アンディも駆けつけていた。容疑者として、現場近くにいたホームレスの男が捕らえられたが、その取り調べをするかたわら、ニックは別の手がかりを求めて捜査を始める。この事件は、彼が初めて指揮をとる殺人事件だった。一方、アンディも独自に調査を開始した。やがて、ジャニルが麻薬捜査に関わっていたことや、妊娠していたことなどが判明し、事件は複雑な様相を呈し始める。ニックとアンディは、牧師である長兄のデイヴィッドの助力を得て、時に協力しあいながら、込み入った人間関係を調べていく。そして、ある人物が有力な容疑者として浮かんでくるが…。変動する1960年代のカリフォルニアを背景に、兄弟の絆、家族の崩壊、男女の愛憎を情感豊かに描き出す。『サイレント・ジョー』に続き、二度目のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を受賞した俊英の感動作。