2005年4月発売
老舗の紙問屋の跡取りとして生まれながら、継父との不和から家出。目明しの下っ引きとなった達造。実家とは、子守奉公のおたえとの交流だけが細いつながりだ。仲間の下っ引きが殺されたことから事件は拡大。闇に潜む悪を追う達造だが、魔の手は、達造の実家にも及ぶ…。江戸の底辺で生きる市井の人々の哀歓や情緒を、情感あふれる文体で描いた、清新で心あたたまる人情時代小説。
将来を嘱望されていた大手邦銀NY支店のディーラーが、滞在先のNYのホテルから飛び降りた。彼は、死の前日に偶然旧友の芹沢と再会を果し、謎のメッセージを残した。あまりに突然な友の死に衝撃と責任を覚え、死の真相を探ろうと決意した芹沢の前に、辣腕家としてウォール街でその名を知られた有吉州波が、そのまぶしい姿を現したー緻密な構成とスピーディな展開の金融ミステリー。
相次ぐ金融不祥事を傍観するだけの政府、ひたすら保身を図る大蔵官僚、すべてをひた隠しにして自分らだけの生き残り策を弄する邦銀重役たちー恋人の復讐を誓い、真相を公にしようと、州波は芹沢と力を合わせてある計画を実行に移す。それは彼女の知識も人脈も経済力も、すべてを賭けた途方もない秘策だった。著者がその専門知識を駆使して、日本金融界の闇を告発する衝撃作。
東京の西の近郊の小さな古道具屋でアルバイトをする「わたし」。ダメ男感漂う店主・中野さん。きりっと女っぷりのいい姉マサヨさん。わたしと恋仲であるようなないような、むっつり屋のタケオ。どこかあやしい常連たち…。不器用でスケールちいさく、けれど奥の深い人々と、懐かしくもチープな品々。中野商店を舞台に繰り広げられるなんともじれったい恋、世代をこえた友情。幸福感あふれる最新長篇。
浅草田原町の庫裏で寺子屋を手伝う浪人・鬼怒玄三郎。彼には、法で裁けぬ悪党を密かに始末する裏の顔があった。女を食い物にする“玉ころがし”と呼ばれる男を誅殺したあと、奉行所同心の手下となり悪事を重ねる金十一家の者たちを次々と葬り去っていく。この玄三郎の手腕に、豪商・紀伊国屋文左衛門が用心棒を乞うてきた。交誼を深める二人だったが、玄三郎には思惑があった。文左衛門と張り合う成り上がり者で、姉を悶死させた材木商の奈良屋茂左衛門を狙っていたのだ。
魔の深淵に金山の女娼を投げ込んだものは何か?魔の深淵に糸取り工女と恋人を追い込んだものは何か?その魔性は今もなお、大手を振って生きつづけてはいないか?多摩川の源流、おいらん淵の底から、あなたによびかける怨霊の叫び。
売り出されたいわくつきの古い屋敷。先祖の縁で屋敷を買った叔父の命で下検分に出かけた主人公は、そこで謎めいた美しい女性と出会う。次々と現れる謎の人物。首なしの死体。時計塔のからくり。…「その怖さと恐ろしさに憑かれたようになってしまって、(中略)部屋に寝転んだまま二日間、食事の時間も惜しんで読みふけった」(江戸川乱歩「探偵小説四十年」)という名作「幽霊塔」と、父親の死をめぐる意外な顛末が面白い中篇「生命保険」を収録。
全てを包み込んでしまうかのような白銀に覆われたアラスカのアシアク山。ジュンヒョンと仲間たちは頂上を目指し、寒風吹きすさぶ絶壁の斜面に果敢に挑んでいた。ついに頂上に辿り着いたジュンヒョン、ミョングン、ウソンの3人だったが、喜びもつかの間、下山の途中、事故で遭難してしまう。九死に一生を得たジュンヒョンとウソンのふたりは、氷の洞窟に避難する。ジュンヒョンの足は脱臼し、悪天候という最悪の状況。凍死から逃れるため、ふたりは互いの過去を語り始める。ジョンヒョンは、かつて愛したひとりの女性のことを。そして、ウソンは、幼い頃から想いを寄せていた女性のことを…。死と向かい合わせのぎりぎりの状況のなか、次第にふたりは互いの愛した女性が同一人物であることに気付く。彼らの最愛の女性、ギョンミンへの想いを…。ひとりの女性をめぐる、ふたつの運命的な愛を、雄大な自然を舞台に描く、山岳ラブ・ロマンス。
狂乱の日々を送り、民に恨みの声をあげさせていた父・武田信虎を追放して甲斐の国の主となった信玄は、信濃の国に怒涛の進撃をはじめた。諏訪頼重を甲斐に幽閉し小笠原長時を塩尻峠に破り、さらに村上義清を砥石城に攻略する。信玄は天下統一を夢みて、京都に上ろうと志す。雄大な構想で描く歴史小説の第一巻。
天才的な智略によって、信濃の国を平定した信玄の野望は、あくまでも京都に上って天下に号令することである。同じ野望の今川義元がまず上洛の軍を起すが、桶狭間の戦いで織田信長にはばまれる。信玄を牽制するのは越後の上杉謙信である。信玄はいまや謙信と宿命の対決を迎えようとしている。著者会心の歴史小説第二巻。
「団塊の世代」とは何か?この言葉の名付け親である堺屋太一氏は三十年前に、彼らが日本の将来に何をもたらすかを分析し、この予測小説を書いた。その予測は、今読み直すと恐ろしいほど的中している。大量定年、高齢化が問題になっている今、あらためて新版を刊行し、「団塊の世代」の過去、現在、将来を考える。
オランダの東洋探検船団の一隻リーフデ号に乗り込んだウイリアム・アダムスは、1600年4月19日、豊後水道の臼杵に漂着した。足掛け3年の過酷な航海の果て、同船の乗組員110人は24人の生存者を数えるのみであった。航海長アダムスは天下統一をめざす家康に目をかけられ、艦載の大砲を関ヶ原へと運ぶ。海洋歴史小説の金字塔。
連続放火殺人を解決、異常犯罪担当部署に配属された刑事カーソンには秘密があった。誰にも触れられたくない暗い秘密だ。だが連続斬首殺人が発生、事件解決のため、カーソンは過去と向き合わねばならない…。死体に刻まれた奇怪な文字に犯人が隠す歪んだ意図とは何か。若き刑事の活躍をスピーディに描くサイコ・サスペンス。
途方もない借金を背負う若夫婦が、貧しい暮らしの中で追いかける大きな夢。どうか、今年こそー。著者の原点を描いてオール読物新人賞を受賞した表題作他、四篇。武家社会の心意気、商人の気概。誠を尽くせば、身分の差を越えて人は分かりあうことができる。生きる力と明日への希望を与えてくれる感動の傑作集。
“ゴットハルトは、わたしという粘膜に炎症を起こさせた”ヨーロッパの中央に横たわる巨大な山塊ゴットハルト。暗く長いトンネルの旅を“聖人のお腹”を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作他二篇。日独両言語で創作する著者は、国・文明・性など既成の領域を軽々と越境、変幻する言葉のマジックが奔放な詩的イメージを紡ぎ出す。
盛田の操る天山艦攻は海面を這うように突進する。雷撃速度は実に四〇〇キロ。このスピードに翻弄されたのか、敵艦の砲火は正確さを欠きはじめた。小型駆逐艦のマストを掠めるようにして飛翔する。目標まであと七〇〇メートル。今だ!機体がふわりと軽くなる。八〇〇キロもの重量を棄てたのだから当たり前だ。これで任務は済んだ。もう撃ち落とされても悔いはない。「魚雷命中!水柱三!」美墨二飛曹の声に背後を振り返るや、大型空母の左舷測に報告通りの風景が展開していた。盛田十三飛曹長は嬉しげに叫んだ。「よし、一番槍だ!」。
1980年代、我が国はかつてない「金融狂乱の時代」へと突入する。政治家・官僚・実業家、そして農家までもが「金銭の奴隷」となりはてた未曽有の四半世紀。バブル前夜から巨大銀行再編劇まで、水面下で繰り広げられた色・カネ・権力を巡る凄絶な人間模様を精緻に描いた著者渾身の長編小説。