2005年5月発売
三蔵みずからお斎をもらいに向かった家は、七匹の女妖の住む盤糸洞。ようよう救い出されるも、黄花観で八戒、悟浄ともども毒に倒れる。その効きめたるや、三日のうちに骨も髄も腐るという。悟空はひとりなす術もなく、せつない思いで涙にくれる。
ささやかな夢をたくしたこの部屋に思いがけず訪問者はやってくるー。人生はせつなくて。おかしくて。いとしくて。さまざまな手触りの人間模様を描いた7つの物語。1つ1つが味わい深い上質の短編小説集。
アクエリアス計画ー太陽の強力電磁波から、情報・通信回路をシールドする前代未聞の実験。その実験中に、的場丈史一佐が司令を務める、陸上自衛隊・第三特別混成団が忽然と消えたー。入れ替わりに過去の空間が、戦国時代の騎馬武者と共に現代に出現した。第三混成団は過去の世界に飛ばされてしまったのだった。アクエリアス計画の開発に携わっていた神崎怜は、的場が作製した勝利不可能な図上演習において、唯一勝利を収めた鹿島勇祐を加え、第三混成団を現代に連れ戻す計画を立てる。行く先は1549年。天下を目指す群雄が割拠する戦国時代ー。
誰かが私の「過去」を覗いている!いや違う、「過去」が私を覗いているのかー。新築アパートで毎夜起こる怪現象、抱いた女の湿っぽい匂いの秘密、ドアにマーキングされる謎の文字、運転中の携帯電話から聞こえた何かが衝突する音…。過去の因縁が現実に繋がり、震え上がるような恐怖を体験させる超・恐怖小説。
蔵書印を押して所有欲を満たす男は彼女の体にもベタベタと…、債権者に追われた社長は本の一ページに刷り込まれて安らかな顔で…、本の洪水に押し流された男は、どこを捜しても影さえ見つからなかった…。本を愛し、本に淫し、本に魂を奪われたビブリオマニアの生態を描く古本幻想奇譚集。
片山晴美の旧友・野上恵利は新人女優。次の舞台の主役に大抜擢され、晴美はお祝いの会を開いた。その席で、恵利は「私、殺されるかもしれない」と不吉な言葉を口にする。一方、恵利に主役の座を奪われたベテラン女優・丹羽しおりは傷ついた心を癒すため、グループカウンセリングを受ける。しかし、そのグループの関係者に次々と事件が発生してー!?三毛猫ホームズが「役者」としても活躍する、大人気シリーズ第28弾。
火星人襲来!虫けらのように無造作に殺されていく群衆のパニックと悲劇的な惨事。そんな極限状態で発揮される勇気と真摯な祈りー。人間性への深い洞察で人類のエゴに警鐘をならし未来の希望を描ききる。今なお新しいSFの金字塔。瑞々しい最高の新訳でおくる決定版。
真鍮で作られた檻の中に飾られた真珠の首飾り。世界に二つとない首飾りは、「人魚の涙」と呼ばれ、デパートで展示されていた。ところが平日の昼すぎ、数名の客の前で、「人魚の涙」の番をしていた男が殺され、また首飾りを持ち去った女も奇妙な死を遂げてしまう。幾重にも絡んだ謎を解き明かすのはー(「双生児は囁く」より)。名探偵・金田一耕助を生み出したミステリの巨匠・横溝正史が遺した文庫未収録短編集。
広大な干拓地と水平線が広がる町に暮す中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の四人家族だった。教会に顔を出しながら陸上に励むシュウジ。が、町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯したある犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い込まれる…。十五歳の少年が背負った苛烈な運命を描いて、各紙誌で絶賛された、奇跡の衝撃作、堂々の文庫化。
誰か一緒に生きてくださいー。犯罪者の弟としてクラスで孤立を深め、やがて一家離散の憂き目に遭ったシュウジは、故郷を出て、ひとり東京へ向かうことを決意。途中に立ち寄った大阪で地獄のようなときを過ごす。孤独、祈り、暴力、セックス、聖書、殺人ー。人とつながりたい…。ただそれだけを胸に煉獄の道のりを懸命に走りつづけた少年の軌跡。比類なき感動のクライマックスが待ち受ける、現代の黙示録、ついに完結。
高校最後の夏、悟史が久しぶりに帰省したのは、今も因習が残る拝島だった。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。言うのもはばかられる怪物『あれ』が出た、と。不思議な胸のざわめきを覚えながら、悟史は「持念兄弟」とよばれる幼なじみの光市とともに『あれ』の正体を探り始めるがー。十八の夏休み、少年が知るのは本当の自由の意味かー。文庫用書き下ろし掌篇、掲載。
「涙を流さなくちゃ、始まらないことだってあるんだよ」。恋人にひどく傷つけられ、泣けなくなった女の子。彼女に青年の心は届くのか(「泣かない」)。上手に別れるため最後にいちばんの思い出の場所へいく。そんな「さよならデート」に出かけたふたりが見つけた答えー(「スローグッドバイ」)など普通の人たちの少しだけ特別な恋を綴った10篇。出会いから別れまでの一瞬一瞬をやさしく描く傑作短篇集。
ささやかでありふれた日々の中で、たとえどんなに愛し合っていても、人は知らずにすれ違い、お互いを追いつめ、傷つけてしまうものなのか…。夫婦、親子、恋人たち。純粋であるがゆえにさまざまな苦しみを抱え、居場所を見失って、うまく生きていくことができないーそんな人々の魂に訪れる淡い希望を、やさしくつつみこむように描く四つの物語。天童荒太の本質がつまった珠玉の作品集。
“この残酷な世界に生み落とされたのは、きっと貴方に出逢う為だったのですよね”。少年と少女の困難で美しい生と性を描いて三島由紀夫賞候補となった表題作はじめ、アートとファッションへの美意識を核に咆哮する三つの愛の物語は、「うっとり読んでいると、破壊力抜群の言葉になぎ倒される」(解説より)。孤高の乙女魂と、永遠の思春期を抱くすべての人に放つ、珠玉の恋愛小説集。
検非違使庁の髭麻呂こと藤原資麻呂は、血を見ただけで卒倒する軟弱な優男。今宵も国司の娘が殺されたと聞き、いやいやながら従者の雀丸と六条へ。現場からは、高価な宝玉が盗まれていた。折しも、飢饉と天変地異が続き、治安は乱れ“蹴速丸”という盗賊が、都を騒がせていたのだが…。衛士の娘・梓女との恋模様を絡めつつユーモラスに描く連作平安期ミステリー。
青山の高級エステサロン『ヴィーナスの手』。サロンオーナーの安芸津京子にヘッドハントされた麻美は、その手の特性から“神の手”の再来ともてはやされる。このサロンにはかつてサリという神の手を持つエステティシャンがいたが、六年前に何者かに殺害されていた。京子と夫の健康食品会社社長・弘庸、様々な思惑でサロンに通う客たち、弘庸と前妻の息子・柊也などの愛憎が複雑に絡み合いながら物語は展開するがー。