2006年3月発売
三十歳を過ぎたイラストレーターの私。仕事もちょっとうまくいかないが、「そろそろくる」ころ、むきかけのゆで玉子を流しに叩きつけたり、呼吸困難におちいりながら泣きじゃくったり、嗚咽しながら冷蔵庫を開けたり閉めたり…。ひょんなことから彼になった友人の弟と、この不快さの原因を調べながら折り合っていく。癇癪、イライラ、過食、最悪だわ…原因はPMS?そして恋のゆくえは。話題になった『漢方小説』の著者が描く体と恋。
幻い花売り娘が人殺しの咎で奉行所に捕えられた。娘はなぜ口を閉ざすのか(「願い鈴」)。北町奉行所筆頭与力の妻にして元柳橋芸者のおこうが、嫁に優しい舅の左門と力をあわせ、江戸の巷を騒がせる難事件に挑む。巧みなプロットと心あたたまる読後感は、まさに捕物帖の真骨頂。大好評『だましゑ歌麿』の姉妹篇。
安倍晴明の屋敷で、いつものように源博雅が杯を傾けている所へ、橘実之の娘、虫が大好きな露子姫がやってきた。何でも晴明に相談があるというのだ。広沢の遍照寺にいる僧が、眠る前に読経していると、黄金色をした虫が現われるが、朝には消えてしまうらしい。この虫の正体はー。「二百六十二匹の黄金虫」他、全六篇収録。
第五代将軍・徳川綱吉が貞享二年(1685)に発した「生類憐れみの令」から十年。巷に犬があふれ、ついに幕府は野良犬を収容する「御囲」を作った。赤穂浪士が討入りを果たした朝、中野村の「御囲」で犬の世話をする娘・犬吉は一人の侍と出合う。討入りの興奮冷めやらぬ狂気の一夜の事件と恋を描く長編。
オカマの蘭子とともに福岡に流れてきた消し屋の幸三。久々に訪れた博多のヤクザから依頼された今回のターゲットは、ホークスの名捕手・真壁。内容は、殺しはナシで、彼を一試合の間だけ消すという奇妙なものだった。野球一筋で真面目な真壁には、スキャンダルなど付け入る弱味がない。幸三が取った手段とは。
「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。
今では「古典」となりつつある鴎外の名高い短篇小説『舞姫』を井上靖の名訳で味わう。訳文のほか、原文・脚注・解説を付して若い読者でも無理なく読める工夫を凝らした。また資料篇として、ベルリン留学時代の鴎外や「舞姫」エリスの謎についてなど、作品の背景を探る代表的文献を紹介。読みごたえのある名作をさらに深く味わえる一冊。
相続問題をきっかけとして嫁と舅の間に生まれた愛を描いた表題作をはじめとして、金持ちの息子とゲイボーイの愛の結末を描く「愛の百萬弗」、堅い銀行員の夫の意外な愛人「愛のハンカチーフ」ほかー白日の下にさらされる衝撃的な愛の裏事情四篇。各篇に田中靖夫、宇治晶、東恩納裕一、山本容子各氏の挿画入り。
「私は、第七番恒星系から来た、ゲジィヒシバ国の王子、マルドリンガだ」フェレットがしゃべった…!いや、フェレットだけではない。ネコもイヌも、ヘビだってアロワナだってしゃべるのだ。おかしくて馬鹿馬鹿しくてほろりとする、人間といきものたちのおしゃべり短編集。
婿入りの祝言の席上、妻に思い人のあることを知った大身旗本の三男坊、紀藤慎之介。逆上して間夫を斬り捨て、妻女を自害に至らしめた彼は、婚家のつけ狙うところとなり本所「あやめ横丁」に匿われる。だが堀に囲まれたこの町ときたら、場所も住人もみな何やら訳ありで…。練達の筆がさえる長編時代小説。
戦国の英雄たちの中で群を抜いて輝く二人の武将ー天稟の智将・真田幸村と、千軍万馬の勇将・後藤又兵衛。名将なるが故の葛藤と互いの深い洞察を語る『軍師二人』。徳川家康の女性観を描く『嬖女守り』。他、争乱の時代を生きた、戦にも、女にも強い、生き物の典型としての男たちを描く、興趣尽きない短編集。
「鷹群山の笹姫様は…滑って転んで裏庭の、竹の林で右目を突いて、橋のたもとに捨てられた」。不吉な手毬唄が伝わる奥多摩の織部村で、まるで唄をなぞったような猟奇殺人事件が発生。ご存じ桑原崇が事件の謎を解きつつ、「かぐや姫」の正体と『竹取物語』に隠された真実に迫る。大好評シリーズ第6弾。
森博嗣の撮る写真は、無機的で静謐で孤独だ。しかし、寂しさはない。それらの写真は、撮影した視点、人間の存在を語っている。森博嗣の目で世界を見ることができる。その特異な視点からのインスピレーションで綴られた25の超短編からなる異色の作品集。二〇〇一年に限定版で出版された幻の一冊、待望の文庫化。
一度しか読むことができない物語を旅する悪戯王子と猫。彼らが出逢う20の物語は、ときには優しくときには残酷、ロマンティックでしかもリアリスティック。無垢と頽廃を同時に内在する、ささきすばるのイラストと、詩的な森博嗣の文章とが呼応し、次々と展開するイメージ。観念の世界を揺蕩う大人のための絵本。
ありふれた「日曜日」。だが、5人の若者にとっては、特別な日曜日だった。都会の喧騒と鬱屈した毎日のなかで、疲れながら、もがきながらも生きていく男女の姿を描いた5つのストーリー。そしてそれぞれの過去をつなぐ不思議な小学生の兄弟。ふたりに秘められた真実とは。絡みあい交錯しあう、連作短編集の傑作。
恋人同士がたがいに触れ合えないとしたら、ふたりはそんな世界をあきらめるだろうか?あるいは仮想世界の動物園でキリンが鳩を食べたとしたら、それは、現実に住まう神の御業なのだろうか?あるいは、仮想世界で生涯を終えた者がいて、果たしてその魂はどこへ向かうのだろうか?人間の意識と神についての思索が、現実と仮想のあいだを往還するー20年間の歳月を費やした、神林長平の原点にして到達点たる連作集。